【最終部 赤い瞳】〜ヒロの再会〜
今日もおばさんの家へ、家事の手伝いをしに行った。出迎えたおばさんは嫌な顔一つせず、次々と仕事をくれた。皿洗い、洗濯、掃除、料理…。今まで人に頼られたことがなかった私にとっては嬉しいことだった。
太陽が少し傾きかけた頃に頼まれた仕事を全て終え、おばさんの家を出ようと挨拶をした。そのときおばさんが何か布に包まれたものを差し出した。
「これ、受け取りな。私の家は村長さんの家のように裕福じゃないから、大したものが入っていないけど……」
不思議に思いながらも受け取り包みを解くと、笹の葉が出てきた。葉を開くと大きな白いおむすびが二つ入っていた。
「あの……これは」
「今日手伝ってくれたお礼だよ。見た目は地味だけど、私の愛情がたっぷり入っているから味は確かだよ!」
「あ、ありがとうございます!」
満面の笑みでお礼を言った。ものすごく嬉しい。おばさんも笑みを浮かべ、照れくさそうに言った。
「いいって!……さぁ帰って食べな。今日はありがとうねぇ」
包みを持ち、深々とおばさんに頭を下げた。おばさんも私に手を振った。初めて村の人からもらったもの。邪魔されたくなかったので、丘に行くことにした。
しばらく歩くと丘についた。いつも座る場所に腰を下ろし、おばさんから包みを解く。笹の葉から出てきたのは白くて大きなおむすび。形を崩さないように両手で持ち、口に入れる。
…おいしい。ふっくらとしていて、ご飯の匂いが鼻をくすぐる。
いつも食べているごはんとは少し違う。村の人からお礼を言われることがこんなに嬉しいことだったなんて知らなかった。私は味をかみ締めるようにおにぎりを食べていった。
おにぎりを食べ終わると満腹感と共に、おばさんへの感謝の気持ちが胸いっぱいに広がりもっと多くの村の人たちと関わり合いを持っていきたいと強く思った。
こんな日がずっと続けばいい。もっと村の人たちとふれあいたい。
気づくと日がだいぶ傾いていた。空を見上げると、見覚えのある夕焼け空。はっと思い出した。ライアを先読みした際に見えた夕焼け空。ライアが死んでしまう日。そのときに見えた夕焼け空にそっくりだった。いやな予感がした。どうしようもなく胸騒ぎがする。
ふと、村へと続く道を見ると、一人ゆっくりと村へと近づいてくる。足を引きずるように歩き、歩幅は狭く、右腕をだらりと垂らしている。よくよく目を凝らすと、見覚えのある服装、背丈だった。膝辺りまでのズボンに、シャツの裾を二の腕まで捲り上げ、かばんを肩から提げている。両足と垂らした右腕には赤い布を巻き、腰には…なにやら光るものを身に着けている。
あれは……シンだ。
シンとわかったと同時に私の身体が動いた。駆け足で丘を下り、村の入り口へと急ぐ。
やっと……やっとシンに会える。
「……味はどうだった?……ってあんたそんなに急いでどこに行くんだい?!」
おばさんの家の前を走り抜けたときおばさんの声がした。が、止まることなどできなかった。村の入り口へと急ぐ。
息を切らしながらもたどり着くと、シンも村の入り口に着いていた。だが、シンの姿に息を呑んだ。血が服のあちこちについていて、両足と片腕に巻かれていたのは赤い布ではなく、血で染まりあがった包帯だった。その包帯からは血が滴り、シンが歩いてきた道には血の点が続いていた。
膝に手をつき、荒い呼吸をしていたシンがゆっくりと顔を上げた。
「……ヒロ」
いつも血色の良いシンには考えられないほど、青白い顔だった。
「よく……俺が着いたってわかったな。わざわざ出迎えてくれてありがとう。ごめんな、何も言わず村を出て行って……」
「……シン。一体何があったの?」
「……あぁこれか。……ちょっと転んだだけだよ」
シンは再び顔をうつむかせた。荒い呼吸が聞こえてくる。
「嘘。……パピス女王様に会いに行くだけでどうしてそんなひどい怪我しなきゃいけないの?私ライアさんから全部聞いたよ。道のりが長いことも、王がいつかこの村を攻めようとしていることも……」
「……そうか」
シンは腰を折った状態から、ゆっくりと背筋を伸ばした。
「女王様にお願いしに行っただけだったんでしょ?どうしてそんなひどい怪我を……。それに……私道のりが長いって聞いていたからもっと遅い帰りかと思ってた」
「……女王の協力は得られたから心配しなくていい。それとライアから……伝言があるんだ」
「え……」
シンは一つ深呼吸を入れると、頬を緩めた。でも、その顔はとても悲しそうだった。
「……世話になった、ありがとうって。ライアは本当に最後まで……誇り高い兵士だったよ」
「ライアさん……」
私が先読みしてみた光景がよみがえる。本当にあのまま死なせてしまってもいいのだろうか。
「……シン私やっぱりライアさんを村へ戻したほうがいいと思うの。実は私……先読みでライアさんが……死んでしまうところを見てしまって。今からシンの手当てをするから、手当てが終わったら一緒に迎えに行こう!」
私はシンの横にぴったりとつき、シンの肩を担ぐように腕を回した。
「きっと二人で行けばライアさんも村に戻ってきてくれると思うの。だから早くシンの手当てをしないと……。早くしないとライアさんも間に合わないかもしれない……!」
肩に手を回し一緒に歩こうと思ったのだがシンが動かない。シンを見ると目を伏せ、何か考えているようだった。
「……シンどうしたの?」
「やっぱり……死ぬのか。……迎えに行かなくてもいいよ、俺はライアの意志を尊重したい」
そういうと、シンはその場から動かず沈痛な面持ちとなった。
「……じゃあこのままライアさんを見殺しにしてしまうの?」
「俺はライアと直接話した。俺も止めたんだ。でも……ライアの兵士としての王への忠誠は……強かったんだ。だから俺は……ライアが選んだ道を……邪魔したくはない!」
シンは顔をうつむかせたままだった。でも言葉の端々から、シンの辛い気持ちが見えたような気がした。
「……ライアさん自ら選んだ道。そう……だよね。私もライアさんを見送ったとき……止めることができなかった」
あのとき無理にでも止めていれば……と思うと悔いが残った。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
書きながら少し思ったのですが、いきなりシンの視点になったりヒロの視点になっているこの物語ですが…
ひょっとしてものすごく読みづらいですか?(;´▽`)
一応わかるようにタイトルに名前を入れているのですが…もしわかりづらいようでしたら、どんどんおっしゃってください。なんとか工夫したいと思います…。
引き続き、『赤い瞳』をお願い致します。