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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【最終部 赤い瞳】〜シンとライア、最後の別れ〜

いよいよ最終部突入です。

ここまでお読みくださってありがとうございます!

本当に嬉しい限りです。どうか、最後までお付き合いよろしくお願い致します!

 傷が痛む。包帯を巻いているものの血が止まらず、包帯から血がにじみ出そうだった。

 夜も走り続けた。意識が飛ばないように何度か薬草を傷口にあて、包帯も巻きなおした。何も食べていなかったが、痛みが空腹を忘れさせた。途中にある絶壁の谷には、今にも切れそうなツタでできた橋が架かっていた。足元は隙間だらけで、その隙間からは谷底が見えた。だが、恐れている時間などない。夜のせいで見えづらいこともあったが、震える足を抑えつつ慎重かつ冷静に歩を進めた。

 この山を越えればもうすぐ村だ、俺の頭の中はそれしかなかった。

 朝日が見えようかとする頃、ようやく二つ目の山を抜けた。女王の言った通りかなりの時間短縮ができた。あとは村へ向け走るだけ……。

 再び走ろうとするが、足が石のように重い。血を流しすぎたせいか、頭もふらふらする。俺がここで倒れたら誰が村人を避難させる。そう自分に言い聞かせ気力を絞り、村を目指した。そう思ったものの、走っては歩いての繰り返しだった。呼吸さえ苦しい。永遠と続きそうな草原に眩暈さえ覚えた。

 そんなとき、草原の向こうから誰かが近づいてくる。見たことのある背格好だった。

「……シンか?!一体どうしたのだ、その怪我は!」

「ライア!ど、どうして?」

 駆け寄ってきた人物はライアだった。俺の姿に驚いたのか、身体のあちこちを見てくる。ライアの腹部を見れば血だらけだった包帯ではなく、新しい包帯に血が少しにじんでいる程度だった。

「腹はもう大丈夫なのか?見たところ……誰かに手当てしてもらったみたいだけど」

「あ、あぁ。ヒロちゃんに手当てしてもらって、だいぶ回復したのだ。……それより一体なんだ、この腕と両足は!」

「パピス城から帰るときにちょっと……な。俺はともかく……ライアこそ傷はいいのか?まだ傷が完治していないのに一体どこへ行くつもりだ?」

「……ラント城へ。王に村を攻めないように説得しに行くのだ。そうだ、パピス女王から協力は得られたのか?」

 胸が痛くなった。ライアは…今日にも王の軍隊が村へ攻め込んでくることを知らない。俺は少し間を空けたあと、ゆっくりと口を開いた。

「ライア実は……今日にも……王の軍隊が村に攻め込んでくるんだ」

「なんだと?!」

 ライアは目を見開き驚きの表情をした。

「……その情報は確かなのか?」

「あぁ。パピス女王直々に聞いた情報だ。……俺は村人を避難させるために急いで村へ帰らないといけないんだ」

「……なんということだ。まだ時間に余裕があるものとばかり思っていたのに……」

 ライアの顔が徐々に曇っていき、信じられないといった感じになった。

「ライア、よければ先に村に戻ってこの情報を村人たちに教えてくれないか?……俺も急いで帰りたいけど、この怪我じゃちょっと時間がかかりそうなんだ」

 ライアは改めて俺の怪我状況を観察した。片腕、両足に包帯が巻かれ真っ赤に染まりあがっている。

 しかし、ライアは首を横に振った。

「いや……俺が村人たちに言ったところで信じてもらえないだろう。村の出身者である、シンが言うべきだ。それに俺は王を説得する。無理かもしれんが……それが俺の役目だ」

 自信を持ってライアは言い切った。しかし、それはあまりにも無謀な考えだった。

「説得?王は大勢の軍隊を引き連れてやってくるんだぞ!一体どうやって説得するつもりなんだ?」

 するとライアは目を見開き口を開いた。

「……手段はある!俺は王の側近だったのだ。常に王の近くにいた、王のことはわかっているつもりだ。シン。お前に言われてなにができるのか俺は考えた。そして出した答えがこれだ。俺はラント兵であり、王に尽さねばならん。王の暴走を止めるのも兵士の務めだ。これは俺が選んだ道なのだ。お前は早く村へ帰れ!時間がかかりそうなら、こんなところで立ち止まっている時間などないだろう!」

 ライアは怒鳴るように俺に言った。ライアの迫力に圧倒されてしまい、俺はそれ以上なにも言えなかった。それに時間もあまりない。太陽を見ればだいぶ日差しが強くなっている。俺は黙ってライアの横を通り過ぎた。

「……この道は村へ行くときに必ず通る道だ。俺はここでなるべく時間を稼ぐ。急いで村へ戻れ」

 後ろからライアの声が聞こえた。振り向くとライアは背を向けたままだった。

「それとヒロちゃんに……世話になったと、ありがとうと伝えてくれ」

 ライアの背中に、怪我を負っているという印象を受けなかった。鎧も武器もない、一人の兵士。だが、それに負けずとも劣らない強い心の持ち主。

 王に尽くし、自分の意思を貫く誇り高きラント兵。立派な兵士がそこにはいた。

「わかった。必ず……戻って来いよ!それまでこの短剣は俺が預かっておくからな!」

 俺の声に対し、ライアは右手を上げた。

 わからずとも、感じた。これがライアと最期の会話なのだと。ライアが見つけた生きる道。それに俺が文句を言う資格はない。

 俺はライアに背を向け、再び村へと歩き始めた。

 

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