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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第一部 二人の過去】〜ヒロの縁談〜

 「そんな縁談聞いていません!」

 私の声は広い部屋に虚しく響いた。目の前の座っている叔父と叔母は眉一つ動かさず私を睨み続けている。もっと言いたいことがあるのに、これ以上口が動かない。二人の視線に負けてしまいつい目を逸らした。

「こんな縁談、そうそう巡ってくるものではないのですよ?!なんて言ったって、この地域を治めていらっしゃるラント王との縁談ですよ。一体どこに不満があるの!」

 叔母がテーブルを叩きつけた音が響く。思わず体がびくついてしまう。

「ヒロ。もしラント王との縁談がうまくまとまれば、お前の能力を認めてもらえるかもしれないんだぞ。それにきっと国のためになる。……何度も言うが、これはお前のためなんだ……!」

 叔父は顔を高潮させながらそう言った。

 お前のため。

 そんな言葉信じられなかった。二人が私のために何か特別なことをしてくれた覚えがない。二人はいつも自分たちのために行動している。直接の親ではないから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

「ふん。まぁ、お前が嫌がったところでどうこうなる話ではないからな。お前に話すこと自体無駄だったかもしれんな。いいか、この縁談は絶対だ。覚えておけ」

 そう言うと二人は部屋から出て行った。いつも、私に決定権はない。二人にとって私は一体なんなのだろう。そう思うと悲しくなった。私は席を立つと、二人から逃げるように家を飛び出た。


 息を切らしながらいつもの丘に着いた。小高い丘で周りに民家はない。村を見渡すことができ、四季折々の花々が咲き誇りとても居心地が良い。村の人はこの丘を知らないようで、人は滅多に来ない。村の人が来ないことは私にとって好都合だった。

 草の上に腰を下ろし、息を整えた。眼下に見える村を見渡していると、自然と縁談について考えていた。 

 ラント王はこの辺りの地域を治めている王様。私が直接姿を見たことはない。しかし、色々な噂は耳に入ってきている。傍若無人で横柄で、好色男。気に入らないことがあれば、自分の思い通りにやる。命をなんとも思わず、思いやりのかけらもない。噂を聞く限りでは、とんでもない人物みたいだった。そんな王との縁談話…。考えれば考えるほど恐ろしい話だった。でも、一般庶民である私と王様の縁談がうまくまとまるはずがない。少しだけ期待したが、叔父の言葉を思い出した。

“お前の能力を認めてもらえる”

 叔父の言葉が、胸を締め付ける。

「……ヒロ!」

 後ろの方から名前を呼ばれた。振り返るとそこにシンが立っていた。

 暖かなそよ風が通り過ぎる丘。花びらが舞い上がり、ふと思い出す。初めてシンと出会ったのもこの丘だった。



「ねぇ。そこで何をしているの?」

 丘に座っていると、後ろから声をかけられた。その方向へ振り向くと男の子が立っている。よれよれの服に、あちこち小さな傷跡が残る素足。細いながらも、日焼けをしてたくましく見える腕。それがシンだった。

 しかし、私はこの村についたばかりでシンのことは知らない。もちろんこの丘も知らない。ただ、一人になりたくて村外れを歩いている最中、見つけた場所だった。

「あ、もしかして今日からこの村に来た子?村長の家に住むとかいう……えっと確か……ヒロっていう子。……それってもしかして君のこと?」

 嬉しそうな表情で私の隣に座ってきた。私は素直にうなずく。

「やっぱり!俺、シンって言うんだ。よろしくな」

 と、笑顔で手を差し出された。私は恐る恐る手を伸ばし握手をした。

 そのとき初めて目が合った。

「は、初めまして…ヒロって言います。……よろしくお願いします」

 恥ずかしくて目が合ったのはほんの数秒だった。

「あ……ヒロの右目って…」

 わずかな間でも、私の右の瞳の色が確認できたらしい。どんなひどい言葉が出てくるのだろう。私は怖かった。しかし、シンから出てきた言葉は私の予想を大きく外れた。

「綺麗な赤い色だね!宝石みたいだ」

 思わず力が抜けた。屈託のない笑顔を見せるシンの手は大きくて温かかった。



 「どうしたんだよ……。泣いていたのか?」

 我に返るとシンが心配そうな顔をして目の前に立っていた。慌てて涙を手で拭っていると、シンは私の隣に座った。

「……さっき村長たちから話を聞いたよ。ラント王と縁談話があるそうだな」

 再び胸が苦しくなる。何も言えず黙り込んだ。

「……そう言えば」

 シンは何かを思い出したのか、みるみると明るい表情になりクスクスと笑い始めた。

「……何がおかしいの?」

「いや、初めてヒロと会ったときのこと思い出してさ。泣き顔があの時とそっくりだったから……ヒロは変わらないなぁと思って」

「……私あの時泣いてないよ」

 シンは草の上に寝転がった。

「いいや。泣いていたよ。本当、背中が寂しそうだった」

 寂しそう…?私は一人になることを望んでいたのに…?

「……その顔は、信じていないな。まぁ俺が本当は寂しかったのかも。今は全然寂しくないけどね」

 花の香りが鼻をくすぐる。風が気持ちよくて時間がゆっくりと流れる。シンといると、心が自然と穏やかになる。

「シンの口から寂しかったなんて言葉が出るなんて……。ちょっとびっくり」

「お、ようやく笑ったな」

 と、シンが笑う。私もなんだか嬉しくて顔が緩む。シンだけが村の中での唯一の友達。私の話を聞いてくれる人。シンは私の過去ついて、一切聞いてこなかった。私が何故、単身でこの村に来たのかも聞いてこなかった。村の中で噂も広まっていたが、シンは気にせず私と普通に接してくれた。シンは私が言うのを待っているかもしれない。

「……シンは私の右目のこと、気にならないの?」

「え?……うーん、気にならないと言えば嘘になるけど……ヒロが言いたくないのであれば、俺は気にしない」

 シンは寝転がった状態から上半身を起こした。

「いきなりどうしたの。……まさか、また村人から変なこと言われたのか?」

 シンの顔が真面目になる。私は慌てて首を横に振った。

「ううん、違うよ。……ただ王様は私の能力を承知の上でこの縁談話を了承したみたいだから……」

「……」

「だからね、シンには先に……私の……過去、そして能力のことを知ってもらいたくて。……シンだけには、私から直接言いたいの」

「ヒロ……」

「だって……シンは……私の……友達だもん」

 驚いていたシンの顔だったが、少しだけ笑った。

「よしわかった。じゃあヒロのこと、全部聞かせてもらえるかな」

「……うん」

 私は眼下に見える村を見た。初めてこの丘で見たときと変わらない村の風景。昔の私を重ねながら過去を思い出していった。

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