【第四部 忘れられない日】〜ヒロと村人の絆〜
おばさんがおぼんに湯のみを二つ乗せ運んできた。湯のみを一つ受け取ると口へ運んだ。
温かい。
おばさんも自分の湯のみを取り、おぼんをおくと私の隣へ座った。
「……あんた、シンくんとはどういう関係なんだい?」
そう言いながらおばさんはお茶に口をつけた。
「え……友達ですけれど……」
「ふーん。……友達にしては、あんたが山篭りから帰ってきたときの反応は大げさじゃなかったかい?」
あの時は……シンにいきなり抱きしめられた。思い出すと急に恥ずかしくなってしまい、言葉に詰まった。今思えばどうしてシンはあんなことをしたのだろう。
「シンくんはね、親御さんをなくしてから一人いろんな人の手伝いをし続けているんだよ。誰から言われるわけでもないのに……本当に素直でいい子なんだ。私は小さいころからシンくんを知っているけど、あんなに我慢強くて、頼りがいのある子はそうそういないね」
おばさんは再びお茶を啜った。おばさんが何を言いたいのかよくわからない私は、ただ黙っておばさんの言うのを聞いていた。
「シンくんがあんたの身を案じているんだなと、あの時初めてわかったよ。時々、シンくんが村長さんの家へ行っていたり、誰かを探しているような身振りをしているのは見たことあったけど、まさかあんただったとはね。……だから、私たち村の住人もシンくんの考えを尊重して、今までのあんたに対する態度を見直してみようという考えになったよ」
「……え」
お茶を飲もうとしたが、その言葉を聞いて思わず止めた。
「シンくんは村の全員から信頼されているんだ。そんなシンくんがあんたの身を案じるような行動をしたり、一緒にいたりしている。それでみんな考えたのさ、ヒロの先読みは悪意があってしているものではないのではないか。……それに、あの子一人に王を押し付けていいものなのかってね」
おばさんは湯のみを置き、手を私の頭の上に乗せた。
「今まで悪かったね。あんたに対して言ってきた罵声は消されるもんじゃないけど、みんな反省しているんだよ。中にはまだ、あんたを軽蔑の目で見るやつもいる、でもね、これからは違う。あんたが苦しんでいたり、悲しいことがあったなら私に言ってきな。相談に乗るよ。……もうこれからは、あんた一人じゃないんだから」
そういうとおばさんは微笑んだ。これは夢なのだろうか、一瞬疑った。
でも流れる涙が温かい。夢じゃないんだ。
やっと自分がこの村の住人になれるような気がした。
「ったく、泣くんじゃないよ!」
おばさんの頭に乗せた手が髪をぐしゃぐしゃにした。私は泣き笑いながら、指で涙を拭った。
「……はい!」
「ふん。……でも王との結婚話……あれはもう私たちにはどうしようもないことみたいだね。村長さんに言っても、もう決定したことだから今更断れないって言われていたよ……」
王との結婚はどうしようもないのだ。それは自分でもわかっている。でも、王が村を攻めようとわかった今、結婚をすることで、もしかするとそれを阻止できるかもしれないと思った。そうなれば私と王との結婚にも意味を成してくる。そう思うと悲しさも半減した。
おばさんを見ると申し訳なさそうな顔をしている。でも、王が村を攻めようと考えているなど言えば余計に混乱させてしまう。
「……大丈夫です。きっと……やっていけます。それよりも村の人たちに認めてもらえてすごく嬉しいです」
「……そうかい」
おばさんは優しく微笑みかけてくれた。
シン以外の人と、ここまで話したことがあっただろうか。今まで、冷たい視線に苦しんでいたのに、今は温かく優しい笑顔を見せてくれる。その日のおばさんの言葉は少しだけとげが多かったけれど、私とちゃんと向き合ってくれた。今までのような私を軽蔑するような冷たい視線ではなかった。
ちゃんと私を受け止めてくれるような居心地の良い時間。その日はおばさんとたくさん話をし、忘れられないものとなった。
やがて夜は明け…
そして、運命の日を迎えた。
第四部終了です。
次は最終部となります。
村人との絆をようやく感じ始めたヒロ。だが、迫り来る王の魔の手を気づくはずもなく…。
一方で深手を負いながらも、村人やヒロに事実を伝えるため村へ向かうシン。
ヒロとシン、それぞれ迎える結末とは…。
拙い文章ですが、ここまでお読みいただきありがとうございます!
引き続き、物語の結末をお読みください。
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