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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第四部 忘れられない日】〜ヒロと村人〜

 シンの家を出て空を見上げると、陽が高く昇っていた。暖かい太陽の光が村を照らす。朝出たときは誰も出ていなかった村だったが、今は忙しく村人が行きかっている。

 ふと、なんとなく村を散歩したくなった。

 シンがパピス女王の元へ行っていていないし、ライアは村を出てしまった。家に帰ってもどうせ邪魔者扱いにされる。村がどうなるのか不安だったが、今私一人がどうこうできる問題ではない。それにすぐには王も攻めてこないだろう。寂しさを紛らわせるように村を歩き回っていった。

 シンの家から少し離れた場所に、見たことのあるおばさんがいた。山盛りになっているかごから洗濯物を取り出し、紐に掛けている。眺めていると目が合ってしまった。思わず目を逸らしそうになったが、なんとか会釈をした。

「あんた……一体なにしてるんだい」

 おばさんの声を聞いて思い出した。山篭りから帰ってきたときにシンと家の前にいた人だった。

「え、あ、あの……少し散歩を……」

「ふーん。ちょっと……」

 おばさんが手招きで私を呼んだ。不思議に思いながらも近づいていった。するとおばさんがおもむろにかごに入っていた洗濯物を手に取り、私に突き出してきた。

「散歩するぐらいなら、洗濯物干すの手伝いな。どうせ暇なんだろう?」

 洗濯物を受け取り、おばさんの顔を見てみると少しだけ顔がにやけているように見えた。

「え……は、はい!」

 わけがわからないまま洗濯物を干す手伝いを始めた。


「……王はなんか言っていたかい?」

 黙々と洗濯物を干している最中、おばさんが口を開いた。

「王が村長さんの家から出るとき顔を見たら、なんだかにやけていたからね……」

 おばさんは洗濯物のしわを伸ばし、紐にかけていく。私は手を止めた。

「……私を気に入って結婚の許可をもらいました。でも……」

 ライアから聞いた、王が攻めてくる話もしようかと思った。が、混乱させるだけだと思い口を閉ざした。

「……でもなんだい?」

「いえ、なんでもありません。……王は本当に命をなんとも思っていないようです」

「そんなこと、わかりきっていることじゃないか」

「え、あ、そうですよね……すいません」

 うつむいていると、頭を軽く叩かれた。

「謝らなくていいから、さっさと洗濯物干しな!」

「は、はい!」

 なんとなく、いつもと違う感じがした。村の人は私に一切関わりを持とうとはしなかった。このおばさんも例外ではない。だけど、今このおばさんの私に対する行動が、いつもよりも温かみがあるようなそんな気がした。

 たくさんあった洗濯物を干し終えると、おばさんは家の縁側に腰を下ろした。私はどうすればいいのかわからなかったので立ち尽くしていた。

「……ったくなに突っ立っているんだい!あんたがそんなところで立っていると邪魔だよ!」

 やっぱり、と肩を落としおばさんの家から離れようと向きを変えると、後ろから再びおばさんの怒鳴り声が聞こえた。

「どこに行くんだい!」

 びくっとして、恐る恐る振り返った。おばさんが隣の空いたスペースを叩きながら私に笑いかけていた。

「手伝ってもらっておいて、礼も言わないやつなんていないだろう。茶ぐらい入れるからここに座りな」

 初めて見た顔だった。一体誰に言っているのかと思い、後ろを振り返ったり横を見たりとすぐには信じられなかった。

「……お茶飲むのかい、飲まないのかい?!」

 そんな私に苛立ったのか、眉間にしわを寄せながらおばさんが大声で言った。

「の、飲みます!」

 慌てておばさんへと駆け寄った。


次話は第四部最後です。

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