【第四部 忘れられない日】〜ヒロとライア〜
第四部の始まりです。
物語も終盤となります。
山から顔を出した朝日が村を照らす。まだ誰もいない村の中を歩いて、シンの家へと目指した。
「おはようございます。ライアさん、気分はどうですか?」
シンの家の中へ入り、ライアが横になっているのを確認した。家から持ち出した傷薬と包帯をかごに入れ、それらをライアの横に置き自分もその隣に座った。
「……あぁヒロちゃん。おはよう。……すまないね」
起き上がろうとするライアを手で支えた。
「いいえ。……少しの間ですからちょっと我慢してくださいね。包帯替えますから」
「ありがとう」
包帯はライアの血で染まっている。ゆっくり慎重に包帯をはずしていく。
ライアと初めて会ったのは二日前こと。王が村を去ったあとシンの家をたずねた。どうしてもシンに会いたかった。王の怖さを聞いてもらいたかった。でも、シンはいなかった。代わりにいたのは、王に撃たれた側近だった。
見ると腹部に包帯が巻かれているものの血だらけで、真っ赤に染まりあがっていた。慌てた私はすぐさま家に戻り傷薬と包帯を持ち手当てを行った。死んだと思っていた側近が生きていたことには驚いてしまったが、それ以上に生きていたのが嬉しかった。手当てを行う中で、互いに自己紹介し側近の名前がライアということも知った。そして、行方がわからなかったシンの行き先や村についてのことも教えてもらったのだった。
「はい。終わりました。だいぶ血の量も減ってきましたね」
血で汚れた包帯をかごの中に入れた。包帯は血で赤くなっているが初めてライアと会ったときよりも量は減っている。
「そうだね。……ヒロちゃん、一つお願いがあるんだが……」
あぐらをかいて座っているライアが真剣な眼差しで見てきた。
「先読みで……俺がどこまで生きられるのか見てほしい」
「えっ」
思わず動きを止めた。
「もうわかっているんだ。……手当てをしてくれたことは感謝している。だが、三日たった今でも出血が止まらない。……これはどうしようもない。だったら死ぬ前に、もう一度王に考えを改めるように訴えておきたいのだよ」
ライアが悲しそうに笑った。もう自分で出血のひどさがわかっているのだろう。
「……撃たれたとき、すぐにでも死のうと思った。王は俺の君主だ。王から消えろと言われた以上俺の存在価値はない。だが、シンがそう言った俺を怒ってね。この二日間、考えたんだ。今の俺に何ができるか。傷の深さから俺に残された時間は少ない、その少ない時間で何ができるか。出した答えが王に、村を攻めることのをやめさせることだ。この村はいい村だ。それにヒロちゃんやシンの故郷でもある。世話になった以上、放っておくわけにはいかない。だから……俺の残りの時間を知りたいんだ。その時間次第ですぐにでもラント城を目指す」
そういったライアの目に曇りはない。私は黙り込んだ。残りの時間……果たして私に見えるのだろうか。山篭りをしたおかげで能力の使い方が段々とわかってきたように思うが、やったことがない。もしかすると、見えるのはライアが死ぬ場面だけかもしれない。自信がなかった。すると、ライアが私に笑いかけてきた。
「はは。そんな真剣な顔しなくてもいいんだよ。痛みはだいぶ和らいだし、きっと城にもいける。ヒロちゃん、君の能力は本当に素晴らしいものだよ。確かに特別な、普通ではありえないものだけどもっと自信を持ってもいいんじゃないのかな。君のおかげで俺は即死をまのがれたと思っている。例え、今から先読みですぐ死ぬって言われたって、簡単には死なないよ。必ず城に行くんだ。死ぬと言われたからって君を恨むわけじゃない。いいかい、自信を持つんだ。先読みできるのはヒロちゃん、君しかいないんだ」
少しの間ライアとの間に沈黙が流れた。
『自信を持て』
能力を持つことで今まで避けられ、罵倒されてきた中で初めて言われた言葉。ライアは王がいるからこそ存在価値がある、と言った。存在価値がなくなった今でも、ライアは王のため城に行こうとしている。自分になにができるか、生きる道を自分で切り開いている。
では私は…一体なんのためにこの能力を宿し生きてきたのか。能力を恨みながら生きてきた。だが今この能力が必要とされている。これを拒む理由などない。
毎日更新とはいかないかもしれませんが、もう少し続きます。
最後までお付き合いよろしくお願いします。