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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第三部 隣国の女王】〜シンと女王〜

 城の入り口の前には兵士が警備をしていた。兵士はつり橋を渡ってきた俺に気づき近づいてきた。

「なんのようだ。用件を言え」

「パピス女王様に…お願いしたいことがあります」

「女王様に……?」

 兵士は俺の足元から頭のてっぺんまで見ると、なにやら納得したような表情をした。

「……ラント王国から来たのか。わかった、案内しよう。ついて来い」

 そう言うとすたすたと城内へと歩いていった。俺は言われるがまま兵士の後ろを追った。

 城の中は床一面絨毯を敷き詰め、部屋がいくつもあった。おそらく俺一人だと迷ってしまっていただろう。兵士は迷うことなくすたすたと歩いていく。やがて目の前に大きな階段が現れた。

「これを上がれば女王がいらっしゃる部屋だ。くれぐれも失礼のないように。俺は貴様が出てくるまで待っている。さぁ行け」

 兵士は顎を使い俺に階段をのぼるように促した。この先の部屋に女王がいる。手に汗を握りながら一歩一歩階段を上がり、大きな扉を前にした。手を伸ばしゆっくりと扉を開けた。



「兵士から話を聞いています。さぁこちらに来なさい」

 突然話しかけられて驚いたが、声がしたほうを見ると王冠を被った老女がいる。所々顔のしわが目立つものの、醜いというほどではない。赤いマントを身にまとい、手には杖を持っている。俺の想像していた姿よりもどこか優しい雰囲気があった。そして扉から真っ赤な絨毯が王座まで敷かれ、王座の左右には剣を差している兵士たちが仁王立ちしている。広くいくつもある窓から光が差し、明るい部屋なのにどこか張り詰めた空気が漂う。俺はゆっくりと赤い絨毯の上を歩き、ある程度女王までの距離を縮めたところでひざまずいた。

「……ラント王国から来ました。シン、と申します。王に仕えるライアから手紙を預かりましたので、女王様にお渡しいたします」

 俺はかばんの中から預かった便箋を出した。兵士が近づき便箋を取ると、そのまま女王に渡した。女王はそれを黙って読んでいた。しばらくして女王が口を開いた。

「……して、なにか用があって私に会いに来たのでしょう?その用件を言いなさい」

 見た目とは裏腹にしっかりとした声が部屋に響く。

「はい。私どもの村はラント王の支配下にある村なのですが、ライアから王が近いうちに村を滅ぼそうと企んでいるということを聞きました。……そこを女王様のお力を借り、王から村をお守りしてほしいとお願いしに来た所存でございます」

 すると、女王が落ち着いた口調で言った。

「……その情報はすでにこちらにも伝わっています」

「……え」

 思わず顔を上げた。女王はどこか悲しそうな顔で俺を見下ろしている。

「このライアからの手紙にも、力を借りたいという嘆願書でしたが……このことはすでに私どもは知っているのです。

 ラント国と私の国は隣同士。いつラント王が私の国に侵略してくるのか、それを防ぐためにも常にラント国の情報を知る必要があります。

 その情報の中で、ラント王の縁談という情報がありました。あの男は血も涙もない最低な王です。その王の縁談相手……非常に興味がありました」

 女王は杖を使って立ち上がり話を続けた。

「聞くとその縁談相手は……特別な能力を宿しているとか。なんでも『先読み』という未来が見える特別な瞳を持つ少女らしいですね。

 そんな未来の見える少女と王が……手を組んだらどうなると思いますか?果たして良い未来があるのでしょうか」

 女王はゆっくりとした歩調で俺に近づいてくる。

「王はその少女を使い、間違いなくこの国を攻めてくるでしょう。

 王と少女が一緒になることは、この国にとってもこの世界においても良いことではありません。

 ですから、私たちはその少女から王を離すための兵力の準備を始めました。始めたのは二日前からです、しかし……」

 二日前といえば俺が村を出た日だ。すると、女王は俺の目の前で立ち止まった。

「シン。立ちなさい」

 女王の言うとおり俺は立ち上がった。目の前にした女王は俺よりも少しだけ背が低い。

「王はすでに兵力の準備を整え、村で少女をさらいさらに村を滅ぼした後、この国に攻め込んでくるという情報が手に入ったのです」

「こ、この国にも……ですか」

「えぇ。王は少女と会ったそうですね。そこで能力を見定めたのでしょう。少女をさらって、そのままこの国を攻めるときの兵器として少女を使ってくるものと思われます」

「な、なんだって!ヒロを……兵器として使うだと!しかし、ヒロが王の言う通りに従うはずがありません。あの子は自分の目の前で人が傷つくのを一番嫌っています」

「……」

 女王は少し間を空けた。

「……なぜ村を滅ぼす必要があると思いますか?」

「それは……村が王に貢ぐ作物が少ないからじゃないでしょうか」

「……いいえ。しかし表向きはそうなるでしょうね。実際は別の理由です」

「じゃ、じゃあなぜなんですか」

「……少女への見せしめのため、です。自分に逆らうことは許されないことという考えを少女に植え付けるため。少女を自分の意のままに操るための道具にしようとして、村を滅ぼすのです」

 その女王の言葉が、嘘であるならいいと思った。だが、女王の目に嘘をついているような眼差しは一切ない。さらに女王は続けた。

「さらに……王はすでに村へ向け兵を向けているようなのです」

「な!一体……いつ村に来るんですか!」

「おそらく……明日には村に兵が来るでしょう。この国おも攻めようとする兵力です。相当の数が、シンの村へ向けられています」

「そ、そんな!じゃあ俺は一体……なんのために!」

 歯を食いしばった。悔しい。全て王に越されている。

「いえ、あなたが来たことは無駄ではありません。こうしてあなたに情報を伝えることができたのですから」

 女王の眼差しは優しかった。しかし、すぐに険しい表情となった。

「ですが時間がありません。私たちは明日の朝にでもここを出発し、あなたの村へ向かうことができます。ですが、それまでに王の軍隊が村に来る可能性が十分にあります。……そこでシンにお願いがあるのです」

 女王は俺の肩に手を置いた。

「あなたは今から村へ帰り、村人たちを安全な場所へ移動させてほしいのです。……残念ながら村が戦場になるのは避けられないことです。ですが、村の再建は私が手を貸します。一番大切なのは人命です。これは村の中で今の情報を知っているシンにしかできないことなのです」

 女王の目は真剣そのものだ。この女王様なら信じられる。そう俺は思った。

「はい、それは私が責任を持って行います。ですが……どうか、村人を……そしてヒロを救ってください」

 すると女王はにこやかにこう言った。

「少女の名はヒロと言うのですね。……わかりました、約束しましょう」


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