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赤い瞳  作者: ぱくどら
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【第三部 隣国の女王】〜シンの旅立ち〜

 ライアは何度か深呼吸をし、続けて話した。

「……それをシンのお父さんが……必死になって反対していた……。だが、王は……代わりにシンのお父さんを殺したのだ……。そのおかげで……この村は助かった。前にシンを訪ねたとき……ちゃんと言えなかったことを……申し訳ないと思っている……」

 ライアの顔を見ると悔しそうな表情をしていた。俺は首を横に振った。

「……俺はそのことを……ずっと後悔していた……命を惜しみ、事実を隠してしまったことを……だから……今日シンに本当のことを伝えようと……。だが、王は全て……お見通しのようだった……それがこの様だ」

 ライアは自嘲するかのように鼻で笑った。本当のことを伝えるのを王に見通されて……。その言葉が俺の心に引っかかった。

「……じゃあ撃たれたのは、そのせいなのか!」

 ゆっくりとライアが俺の顔を見た。あのときと変わらず瞳が澄んでいる。が、その目は今にも閉じそうで息遣いが荒い。

「……そのせい?……ふっ、撃たれたのは俺のせいだ。……王にバレてしまった俺が悪い。決してシンのせいではない……」

 俺の心を見透かしたかのように言った。

「……だか、撃たれたことによって……シンと会うことができた……その辺りはラッキーだったな……」

 ふふっと、ライアは含み笑いを見せた。

「しかし、それならなぜ王たちは何もせずに帰っていったんだ?消すつもりじゃなかったのか?」

「……大方……あの、ヒロという娘が気に入ったのだろう……」

「なんだって?!」

「……娘の能力が嘘だった場合……すぐこの村は滅ぼされる予定だった……。だが、能力は……本物だったのだ……俺に注意を促してくれた……。思えばあの先読みという能力のおかげで……即死から間逃れたのかもしれん……」

「ヒロの目の前で撃ったのか!」

 ライアは手を俺の手の上にそっと置いた。置かれた手が震えているのが伝わってくる。

「……シン。王はきっと……近いうちに再びこの村へ……やってくる。そのときは……娘をさらい……村人を皆殺しにしようとするはずだ……。このままでは……村が本当に滅んでしまうぞ……」

「なんだって!しかし……どうしたらいいんだ。俺一人じゃ、あの兵力には勝てない……」

 丘の上から見た、王の軍隊が頭をよぎった。すると、ライアは震える手でズボンのポケットから二枚の紙を取り出し、そしてそれらの紙を俺に手渡してきた。見ると、一枚の紙はよれよれの古びた地図で、もう一枚の紙は綺麗な便箋だった。

「……これは?」

「……地図は隣国の……パピス女王の城までの……道のりを示したものだ……。その便箋は……女王へ宛てた手紙が入っている」

 俺は驚いた。隣国のパピス女王、ラント王とは正反対の人物で、大らかな人柄で人望も厚いと聞いたことがある。だが、それ故に戦闘を好まないという風の便りもあった。

「……きっとパピス女王なら……力を貸してくれる。……だからこの地図を頼りに…パピス女王に会うのだ。道のりは長い……今からでも行け」

 そう言い終えると、ライアは再び激しく咳き込んだ。包帯を見ると血がはっきりとにじんでいた。

「その間ライアはどうするんだ!あんた、銃で撃たれて今でも血は止まっていないじゃないか。俺……あんたを放って行けない」

「……だからさっき言っただろう。……王に消えろと言われた今……俺に存在価値はないのだと」

 思わず俺は大きな声で訴えた。

「王に言われたからってどうして死を選ぼうとするんだ!兵士をやめても、別の生き方があるだろう!俺はこれ以上目の前で人を死なせたくはないんだ!」

 ライアは目を少し見開き、驚いた表情をしている。だが、すぐに含み笑いをした。

「ふふっ。……そうか。では……こうしよう」

 すると、腰に差していた短剣を鞘ごとはずし、そのまま俺の前に差し出した。

「……これを受け取ってくれ」

 俺は言われるがまま、その短剣を両手で受け取った。真直ぐな鞘で、握りの部分には銀があしらっている。鞘から少しだし刃を見ると綺麗に磨かれていた。

「……それは今まで俺が……使い込んできた大事な剣だ。……それをパピス女王に会って帰ってくるまでの間……シンに貸しておく」

「えっ」

 思わずライアの顔を見た。

「……だから早く行け。シンが帰ってくるまでの間……俺は死なん。安心して……行って来い」

 そう言うとライアは後ろにゆっくりと倒れこんだ。

「お、おい!大丈夫か……」

 そばに寄ろうとした俺を、ライアは手を上げて制止した。荒い息遣いが聞こえる中、声を絞り出すようにライアは言った。

「……しゃべりすぎただけだ。早く……行け。村が……滅ぼされて……しまうぞ……!」

 手には地図と便箋と、そして短剣。俺が行かなくては……誰も救えない。

「わかった……パピス女王に会ってくる」

「あぁ気をつけて行け。家のことは……俺にまかせておけ……」

 と、顔だけ向けたライアの顔は笑っていた。ライア……どうか生きていてくれ。

 俺は素早く身支度をしたあと、パピス女王のいる城へ向け、村を出た。


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