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売店員と国の結界  作者: きいまき
精霊の再生
22/31

終わり

 雷の姫にお弁当だけ渡して、ラツは荷物を置き去りにした王都神殿へと帰る事にした。


 まあ、途中神霊山の様子が気になったので、カミッシュの神殿に寄って起こった出来事を色々聞いた。


 カミッシュの神官達で荒れた山上の後片付けが行われ、そして暗精の女王の望み通り結界を神霊山に張り直した。

 今頃はきっと、その場にいる全員でこれまでの感謝を捧げつつ、神霊山からの撤収を行っているところだろう。




「何でお前らまで一緒なんだよッ?」


「何ですってッ?」

「お前ら……複数形って事は、俺もか? 生みの親に対してそれは酷いんじゃねぇか、ティズ?」


 また始まった~と、ラツは内心頭を抱えてガタガタ揺れる、王都行きの馬車の中で天井を仰ぎ見た。


 なんでこんなに仲が悪いんだろうなぁ。

 いい加減勘弁してほしいのだが、日に何度も、何かあると同じような諍いが起こる。


 イリーサとティズの三人で旅をしてた時にも、同じような諍いが起こったが、こんなに頻繁じゃなかったよなぁ。

 サンフォが一緒になってから、増加の一方だ。


 アイがいれば諍いが少なかっただろうなぁと思うのだが、アイはまた岩の中に戻ってしまった先生の気が変わらないものかと、一族の里へ帰ってしまった。


 けれどたぶん今回みたいな非常時でもなければ、いつの日かアイが風精の王でも受け入れ可能な物を見つけ、それをアイ自身が持っていなければ、先生は岩山から外へ出ないのではないかとラツは思う。




 王都神殿へ向かう旅の初めでは、


「でも実際、二人が一緒に王都神殿まで付いて来てくれるのは助かるよ」

「え~、オレは嫌だぞ」


「本当なら、荷物を取りにティズと二人だけだったけど、たぶん王都神殿に行ったら、ティズの本当の主人探し面談がまた待ってるぞ」

「うえ~……」


「その点サンフォとイリーサがいたら、主人候補は実質二人に絞られるだろうし。スルー出来るぞ」

「うん……」

「その主人探しの名目があるから、馬車だしな」


「ごめんよ、サンフォ。鎮守様で行けば一跳びなのに、馬車の旅に付き合わせて」

「まぁ一人で王都神殿に乗り込んだら、絶縁状突き付けそうだしな。気にするな」


「お~い。精霊について聞かれたらサンフォに任せるつもりなんだよぉ」

「ちゃんと猫かぶってやる。ダメだったらフェシーとリマ出せば文句ないだろ」

「よろしく~」


「ワタクシは、暗精の女王からのメッセージを伝えればいいんですよね?」

「うん。巫女姫であるイリーサが言った方がインパクトがある。頼んだよ」


「お任せ下さい、ラツ。カミッシュ神殿の使者ですもの。しっかり努めますわ」

「うんうん」


 などと仲裁して、一時的には落ち着いていたのだが、全く継続しない。



 元々ティズはイリーサがラツと話しているのを見ると、ムカついてしょうがないらしい。

 同じくイリーサも、いつも会話に割って入って来るティズを苛立たしく思っている。


 神霊山の頂上で会った初対面からそうだったが、二人の仲は最悪だ。


 オマケにティズはサンフォにも悪印象を持っている。


 まず始めにサンフォはティズの力を魔物を従える為に作り出して利用しようとし、続けてティズを通して覗き見をし、更には一時その体を乗っ取ったからだ。




「誰がだ、馬ぁ鹿ッ! 都合のいい時ばっかし、父親面すんなッッ」


「そんな事を言う口は、この口かぁ?」

「い、いひゃい……や、止めろよッ!」


 どうやら今回はティズが二対一で不利のようである。


 このままではまた馬車の中の雰囲気が悪くなるので、ラツは必死に話題を変えようとした。


「今回の神霊山の結界はフェシーとリマの力もあって、これまでで一番の出来なんだろうな。元々サンフォは同期生きっての逸材だし」

「当然だろ」


「うんうん、凄い。そう考えるとあの時の、僕を一緒に連れていけば結界の精度が上がるっていう、イリーサの占いもハズレじゃなかったんだな~。

 イリーサの占い通りに行ったからティズに会えて、時間は掛ったけどサンフォもこうして神殿に戻って来たし」


「ですわよね~。さすがワタクシですわ」

「オレ、ラツに会えてすっごく嬉しい。そこだけはムカツク女のお陰だな」



 とりあえず馬車の中で、これ以上険悪になるのは避けられたかなとラツが内心ほっとしていると、サンフォが尋ねて来る。


「なぁ、ラツ。マジで神殿最強な奴って誰だと思う?」


「それはサンフォ、貴方です。……って、まだ誉められ足りないのかよ?」

「まぁ、ラツに誉められるのだけは気分イイけどな……そうじゃなくて。正解はお前だ、ラツ」


「はぁッ?」

 どこがッ? 全く分からん藪から棒だ。


 またサンフォが真面目な顔で妙な事を言い出したと、ラツは眉を顰めた。


 それに構わずサンフォは三本の指を立てる。


「まずは俺。それから巫女姫。更にはティズ……の、三つの力をお前は手中に収めてるわけだ。よくよく考えてみれば、かなり凄い事だと思わないか?」


「手中って、どこが?」

「その証拠に俺達はお偉方の指令より、ラツの頼みを優先するぜ?」


 ラツがチラッとイリーサとティズを見ると、真剣にうんうんと頷いていた。

 これはいいチャンスだ。


「なら、せっかくそう言ってくれてるし……頼み事が一つッ! 三人とも普段からもうちょ~っと仲良くしてくれッッ」


「「「……」」」


 サンフォ、イリーサ、ティズが無言で視線を交錯させ合う。

 もちろんお互いに嫌ぁな表情で。


 三人のそんな表情を見、ラツは可笑しくなって吹き出した。


 ラツにしても本気で叶うと思って言ったわけじゃない。

 一応こんな希望がありますよっていう、申し出だ。

 なので、この話を打ち切る事にした。





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