神霊山と魔物
カミッシュはエイラル王国の王都から見て、東北に位置する山の麓の街である。
村でも町でもないのは、この山が古くから神の住まいである神霊山だとされており、それゆえ巡礼者を含めて人が絶えないからだ。
王国が信仰する神の名はエイラジャール。
王国の名前も、この神の名前を取っていた。
エイラジャールはエイラルを始めとする、この世界と死後の世界との境界を創った神。
そして魔物から人々を守り、王国を守護してくれていると言い伝えられている。
エイラジャールが今も神霊山にいるのかは、未だに誰も証明出来ない。
しかし神霊山から離れれば離れるほど、魔物の出現率が増え、しかも退魔術の効力まで弱くなる。
つまり神霊山が、王国を守護している力の源には間違いないようだ。
エイラル王国のみならず、その隣国、そしてなんと漂流し、たまたま辿り着いた者の話では大海の向こうでも、エイラジャールを神、もしくはそれに準ずる聖人として崇め、世界の何処かに聖なる山ありとの伝説があるらしい。
けれど聖なる山と呼ばれているのとは裏腹に、実は神霊山の山頂が魔物の出現場所でもあると古くから伝えられていた。
そこで山頂に結界を張って、修復に補強を重ね、実際に魔物が現れないようにしているのだ。
神霊山があるにも関わらず、カミッシュがただの地方都市である理由もそこにある。
万が一、その結界が解けてしまった場合、これまで目撃・退治されたものよりも、強大な魔物がわんさとやって来るとされている。
だから王宮はカミッシュから離れているし、中央神殿も王都内に建っていた。
カミッシュへ参拝する事は出来ても、神霊山へは結界を張る神官以外、当然入山禁止となっている。
魔物……人間を食らう事から、そう呼ばれるようになったモノ達の総称。
人から見れば充分脅威なのだが、力がさほど強くない魔物ならば文字通り食うだけでも、強力な魔物ともなれば天変地異を引き起こす。
世界のあちこちにある削られた山や大きく窪んだ不自然な地は、強力な魔物が天変地異を起こした後だとも言われている。
エイラジャールと聖なる山のような伝説とは違い、陸海空、そして人の心の中から魔物はポコポコと実際に出現した。
神殿には魔物を退ける事の出来る、退魔術を扱える人々が集まっており、カミッシュは中央よりも神官の結界術能力が高いと言われている。
そして土地柄なのだろうか……程度はピンからキリまでだが、何らかの力を持った人の割合がカミッシュは高かった。




