3/17 11:42 『石油危機』
この物語は、実際の災害を元にした『フィクション』です。
実在する団体や実際に起きた出来事も記載していますが、あくまで個人の創造物であり、一意見として捉えて頂けると幸いです。
全ての皆様が、一刻も早く『日常』を取り戻せる事をお祈りしております。
――今や、油はダイヤよりも貴重になった。
多くのメディアでは『買い占め』が報道され、それを回避するように啓蒙活動が行われていたが、彼は別の見方を持っていた。
起こっているのは、買い占めではなく『供給不足』だろうと。
売り切れているのはどれも、保存食や非常用物資など「日持ちのする物」ばかりだ。
となると、店側としては毎日仕入れるような品物ではない。
そこに一度に需要が増えたものだから、供給される量が足りなくなってしまったのだと思われる。
かく言う彼も、普段からそんな準備などはしていなかった。
買い占めをするつもりなど無かったのだが、売り切れないうちにと思い、数日分の食料を買ったのだ。
ただそれだけの事だったが、それを一斉に周囲の全員が行った場合、簡単に供給バランスなど崩れてしまう。
企業は基本的に、余剰在庫などあまり用意しないからだ。特に何ヶ月も持つものなら尚更である。
それに加え、現在ガソリンが不足している。……ということは、物流が麻痺してしまうということだ。
品切れになった後、発注をして、それが入荷するまでには相当時間が掛かる。
たった数日で入荷するなど、奇跡のようなものだった。
つまりは、『買い占め』ではなくて『売り切れ』の問題なのだ。
集団心理が起こす、錯覚と言えるのではないかと彼は思った。
特にこの国の国民はモラルが高い。
自分がそうでない以上、「誰か他に悪い者がいて、このような事態を引き起こしている」と考えてもおかしくは無いだろうと……。
先日の情報からすると、ガソリンは被災地周辺で全く足りず、徐々に枯渇が始まっていた。
そしてその影響はここ長野でも急速に広がり始めている。
各メディアでもこぞってそれが報道されていた。
それを裏付けるように、TVのニュースにて経済産業大臣が今後の対策の説明を行った。
見やすくテロップを使って提示された新たな作戦は、『西日本から足りない分のガソリンを供給する』という計画だった。
陸路ではタンクローリーで。海路では船を使って。
それぞれ被災地周辺の拠点精油所へ運ばれるということだった。
となると、またさらに新たな問題が発生してくる。
前述したメカニズムに沿って考えると、この石油危機は、北関東から北陸地方のほんの何分の一かの供給が無くなっただけで、こうも全国的な影響をもたらすのだ。
それが何を表すかというと、「気軽に遊びに行けなくなる」というのは最も軽い影響だ。無視してもいい。
しかし、「仕事に行けなくなる」という部分は無視できない。経済が麻痺してしまう。
特に物流がストップすると、卸売業、小売業全体が壊滅だ。
サービス業でさえ、必要備品が無ければ営業できない所も多いだろう。
既にいくつもの工場がストップしている辺り、二次産業も同じようなものだろう。
電気があれば稼動する事はできるかもしれないが、肝心の部品が来ないのではどうしようもない。
救助作業にも同じ事が言えるが、物流は企業の血管そのものだった。
このままでは壊死・酸欠状態になってしまう恐れがあった。
それ以上に懸念してしまうのが、生産業に対する影響だった。
以前にも考えたとおり、今の農業のほとんどが石油に依存して成り立っている。……もう少し細かく言えば、ガソリンが無くては農業機械が動かせない。
ちなみに今の時期は、関東周辺ではジャガイモを植える時期だ。この手軽に作れて保存性も良い作物がこのタイミングで作れないとなると、かなり生産量が下がってしまう。それ以外の春に植える作物もそろそろシーズンだ。
工業製品とは違い、作物はいつでも作れるわけではない。タイミングが命だ。
ビニールハウスがあるとは言っても、露地で作る量に比べたら微々たるものなのだった。
懸念はどんどん加速していく。
この辺りより北側では、本格的作付けにはまだ後一ヶ月ほどの余裕があるらしい。
……それまでにこの石油危機が回復するかどうかが、彼の予測の焦点になりそうだった。
こちらの情報を参考にしております。
「低体温症対策」
http://www.sangakui.jp/medical/otherinformation/post.html
「被災者ホームステイ」
http://www.earthdaymoney.org/topics_dt.php?id=390
「被災者を探すパーソンファインダー」登録ボランティア募集
http://googlejapan.blogspot.com/2011/03/blog-post_17.html