表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Earthquake  作者: 安楽樹
第一章 日常の崩壊
6/21

3/15 06:29 『炉心溶融』

その日彼は、明け方に起きた余震で目が醒めてしまった。

本当はもうしばらく眠っていたかった所だが、やはり地震から来る緊張感からか、急激に意識が覚醒してしまった。


ゴミを捨てに行くついでに、周囲の状況を見てみることにした。

昨日の教訓から、食料などを買いたい場合は開店直後に行くしかないか?と思っていた彼は、朝の町の状況を掴んでおきたかったのだ。

しかし、今のような通勤時間にはどの店も開いていないのは当然だ。

とりあえず今日の所は必要ないことから、再び家に戻って二度寝でもしようかと考えていた。


だが、帰ろうとした彼の目に異常なものが映った。

――自動車の長蛇の列だ。


休日の大型ディスカウントストアならまだ分かる。

だが、ここは取るに足らない田舎町の一角だ。しかしそれでもズラリと並んでいる、車車車。

ゆうに百台は連なっているだろう。

まさか通勤渋滞とは思えない。……彼には一つだけ、予想していた原因があった。


その予想は、渋滞を避けて先頭まで到達した時に確信へと変わった。

先頭にあったのは――『ガソリンスタンド』だ。

この列は給油待ちの列だったのだ。彼の中で嫌な予感はさらに広がる。


その後見た幾つかのスタンドでも、状況は同じだった。

『開店は九時からです』と張り紙のあった店でさえ、同じぐらい並んでいる。

まだ七時を回った所だ。

先頭の車は一体いつから並んでいたのだろうか……?


臨時休業をしている店も多数見かけられた。



家に辿り着き、彼は考えてみる。オイルショックの影響は甚大だ。

これは早めに対策を取らなければならないかもしれない。


そうは考えつつも、帰って来る頃には程好く眠気が戻ってきた事から、二度寝を敢行しようと試みることにする。

昨日と同じくトーストで朝食を済ませていると、突然携帯電話が鳴った。


ヴヴヴヴヴヴヴ……と、日頃からマナーモードに設定している電話の発信元には、懐かしい彼の友人の名前があった。

彼は若干の嬉しさを隠し切れないまま、電話を取る。


「おお、どうしたよ。久しぶり……」


明るい挨拶もそこそこに、互いに軽く近況報告をする。

……この状況で旧友が電話をかけてくるなんて、用件はほぼ一つしかなかった。


『あのさ、俺原発運動してたじゃん……』


やはりそれか、と彼は納得する。

このタイミングで彼がかけてくるなんて、それしか思い浮かばなかったからだ。


(……そういえば他の奴らはどうしてるかな……)


懐かしい顔ぶれを思い出し、後で電話をしてみようと考える。

旧友からの用件をまとめると、どうやら「早く南か西の方へ逃げた方がいいぞ」ということだった。

彼はもう少し旧友の状況を聞きたかった所だが、何やら急いでいるらしい旧友は、CNICという団体のサイトを見てくれと言い残し、すぐに電話を切ってしまった。


一人取り残された彼は、ほんの少しだけ余韻に浸ると、すぐにすっかりお馴染みになってしまったネットを立ち上げる。

そしていつものように、大分固定されてきた二つのニュースソースと、紹介された団体のサイトを開いた。


「…………」


しばらくの間、流れていく情報を脳内で処理する。

ここで彼は、一つの決断をすることにした。


その時、最も目に付いたのは『炉心溶解により、福島で四百ミリシーベルトの放射線を確認』という記事だった。

他のソースと合わせて見た所、……これはヤバい、と思わせる情報だと確信する。

Yahooでも発表されている事から、これはおそらくかなり正確な情報だろう。

……そして、この量の放射線は『確実にすぐに人体に影響のある』量だという事だった。


正直な所、彼は多少被曝しても構わないだろう、と思っていた。

復興支援のボランティアに行こうと思った時も、それを覚悟していたのだ。

『自分たちが銃を作っているのに、撃たれたくない』なんて、都合のいい理屈だと思ったからだ。

だから、誰かが被曝したとしても、それは国民全体の責任だ。……それで幸と不幸が分かれるわけではない、と。


しかし、すぐに人体に影響があるとなれば話が別だ。まさしく銃弾で撃たれるのと変わらない。

その影響は深刻だろう――と彼は考える。


だが、彼が恐れたのは放射能による被曝ではなかった。

そもそも、この場所にいる限り、上記のように『確実にすぐに人体に影響のある量』にはならないだろう。そう彼は分析していた。

だが、例によって彼が恐れていたのは、『その噂によって避難する人々が現れ、パニックが起こること』だった。


現在ですら既に、食糧危機や今朝見たように石油危機が起こりつつある。

それに加えて、大量の環境難民が移動し始めた場合、都心でもライフラインが麻痺しかねない――というのが彼の懸念だった。


頭の中には、関東地方の地図が浮かぶ。


福島の海岸線を中心にして、人々が安全な場所を求めて移動する動きをシミュレートしてみる。

……まず、東北地方に逃げる人は少ないだろう。とすると、日本海側か都心部方向へとなる。

しかし、まだ雪の影響や地震の可能性も高い日本海側に動く人は少ないだろう。

さらに、海岸線は津波や放射線の影響で避ける人も多いはずだ。となると、人口全体が南西向きに移住していく事になる。


脳内で、人口密度が左下方向へと移動していく様子を思い浮かべてみる。

……間違いなく、都心部は更なる混乱がもたらされる事が必至だった。




――彼は、この想像が外れてほしいと願いながらも、引越しの支度を早めることにした。




こちらのブログにおける情報を参考にしております。


http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65613403.html

http://xdl.jp/diary/?date=20110313

http://ameblo.jp/mikio-date/

http://chodo.posterous.com/45938410


『CNIC(原子力資料情報室)』/http://cnic.jp/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ