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Earthquake  作者: 安楽樹
第一章 日常の崩壊
5/21

3/14 11:12 『広がる波紋』

この物語は、実際の災害を元にした『フィクション』です。

実在する団体や実際に起きた出来事も記載していますが、あくまで個人の創造物であり、一意見として捉えて頂けると幸いです。


全ての皆様が、一刻も早く『日常』を取り戻せる事をお祈りしております。

その日も、どうやら彼の元には普通に一日が訪れた。

取り立てて急ぐ用事も無く、今日行わなければならない予定はといえば、手続き用の書類を一通ポストに投函することだけだった。

なので、少し遅めに起きる事にした。


……一昨日から、どうも無意識に神経が高ぶっていて、休んだ気がしない。

情報を詰め込みすぎているせいか、何だか頭もぼんやりしている。

とりあえず、トーストでも齧りながら、いつものようにネットの情報をチェックした。


遠くから、停電を知らせる放送が響いてくる。


珈琲も淹れて、程好い苦味を体内に入れると、ようやく少しだけ頭がスッキリしてきた。

もぐもぐと咀嚼を繰り返しながら情報を分析していると、大分その中身も変わってきているようだった。


まず、原発関係の危機を煽る書き込みが大分減った事。書き込みをしている人も、専門家の意見へのリンクを貼るなど、一時期の戦争状態のようなやり取りは大分沈静化してきたようだった。

同じく、安否情報や真偽の程が定かではない危機情報も減って来ていた。


代わりに増えてきたのが、長野や茨城などの二次震源地に関する救援募集情報。

最もメディアの注目する大被害地へは、みんなの視線が集中するが、そのマスメディアの影に隠れた被災地では、まだまだ支援が届いていない……らしい。いつの時点で、どこまで本当かは分からない。


冷めた目で見てしまえば、それは情報発信者の主観でしかないだろう。

きっと岩手でも足りていないだろうし、おそらくそれは県の所在地による違いなどではなく、ただその情報を受け取っている我々の目に付いているかどうか、そして情報の発信者に届いているかどうか、というだけの違いでしかない。

その事をきちんと認識していないと、偏った支援が行われる事になってしまう。

……まあ、実際に支援しているわけでもない彼には、その真偽を確かめる事もできはしなかったが。


もう一つ増えてきたのが、都心部に関する情報だった。

彼に直接関係するこの情報を、彼は最も注意深く観察する。


心温まる書き込みも相変わらず存在する。

車掌さんに「電車を動かしてくれてありがとう」とお礼を言う子供のこと。

こんな時でも働いてくれる店員さんにお礼を言おうという人々のこと。

コンビニでお菓子を買おうとした子供が、それを止めて募金をし、店員さんが「ありがとうございました!」と言ったことなど。


どこかでは本当にこのようなことが起こっているのだろう。

普段は帰属意識など持っていない彼も、こういう時ばかりは自国を誇りたくもなる。


だが、見過ごしてはいられない情報も増えつつあった。

各地で起こり始めている『買い占め』や『治安悪化』の兆し。


真偽の程は分からない。だが、電力会社など、関係会社を名乗る複数の男性がアパートなどを回っている事。

そして、そのような事は行っていないという会社からの発表。

……彼らは一体何の目的なのかは分からないが、ろくな物でない事は確かだろう。

一人暮らしの女性が不安に陥るような情報だった。


彼の知人のブログでも、買った野菜が目を放した隙に盗難された、という記事が更新されていた。

先日の記憶から、空っぽになったお店の棚を思い出す。

こんな状況は、彼が生きてきて初めてのものだった。改めて、自分たちがどれだけの生産・物流に支えられて消費を行っていたのかが思い知らされる。


電気、石油などエネルギーが制限されただけで、これほどまでに大打撃を受けるのが現代の生活なのだ。

特に都心に近付き、文明的であればあるほどその依存率は高くなる。

あれほど熱心に勧められていた『オール電化住宅』など、暮らしていけるのかどうかが非常に疑問になってしまった……。


やはり、リスク分散型の暮らしがより安全であり、さらに言えばアナログな暮らしほど安定感のあるものは無いだろう。

毎日のように焚き火をしていた、少し前の暮らしが懐かしく思えた。

あの場所なら、木だって水だって豊富にあった。後は食料さえあれば、かなり問題なく暮らせたことだろう。


何度目かの停電を知らせる放送がかかり、彼の意識は再び現在に戻ってくる。


(……やっぱりか……)


最も彼が懸念していたのは、これらの事だった。

今までは、液晶画面の向こうのことだと、ある程度冷静に……または、自分たちは『救う側にいる』とヒロイックな熱情を持って見ていられた出来事が、今度は実際に自分たちの身へと降りかかってきたのだ。




……我々がその心掛けを試されるのだとしたら、ここからが本番だろう、と彼は思った。



こちらのブログにおける情報を参考にしております。


http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65613403.html

http://xdl.jp/diary/?date=20110313

http://ameblo.jp/mikio-date/

http://chodo.posterous.com/45938410

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