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Earthquake  作者: 安楽樹
第一章 日常の崩壊
3/21

3/12 09:32 『氾濫する情報の津波』

この物語は、実際の災害を元にした『フィクション』です。

実在する団体や実際に起きた出来事も記載していますが、あくまで個人の創造物であり、一意見として捉えて頂けると幸いです。


全ての皆様が、一刻も早く『日常』を取り戻せる事をお祈りしております。

次の日、彼は予想通り早く目が醒めた。

辺りは思ったより静かだ。……そのおかげで、付近が混乱している様子は無いと分かる。

まず彼が行ったのは、チョコレートクリームをたっぷり塗ったトーストを齧り、珈琲を飲む事よりも、情報確認だった。


昨日と同じように、Yahooのニュースとリアルタイムのつぶやきサイトで確認を行う。

相変わらずの情報の波の多さと大きさは好ましい気分ではないが、それでも昨日よりは慣れた。

情報を目で追う合間に、お気に入りの音楽を流し、朝食を流し込みつつ、素早く頭の中でデータを処理していく。


まずニュースで報道されていたのは、地震の規模の大きさや被害状況、余震の危険性、そして原子力発電所への被害だった。

それらに目を通し、ざっと状況を確認する。

この頃から彼の頭の中には、関東地方から東北地方の日本地図がイメージされ、その被害によって移動していく人々の動きをシミュレーションしていく事が癖になりつつあった。

実際にニュースで報道されている地図の画像と照らし合わせ、現地の事を想像してみる。


ニュースサイトはまた数時間後に確認するとして、続いてリアルタイムの方へ注意を向ける。

何パターン化に分ける事ができる人々の反応を見ながら、彼は何となく感じる違和感を追っていった。

そして、思い当たる似たような状況と照らし合わせてみる。


……これは、読者の事を置き去りにした自己満足の話を読んでいる時に感じる感覚と同じではないか?


彼には、ネット上の彼らは『物語』の中にいるような気がしていた。


ある者は安否情報を流し、

ある者は原発の危険性を声高に主張している。

またある者は希望を叫び、

そしてある者はそんな興奮状態にある人々を冷静に指摘する。


……その何千倍もの人々が、おそらくそのような人々を無言で観察しているのだと思った。そこにいる彼自身のように。


彼の見ているPC上に、何度も同じような情報が流れ、消えていく。

きっとそのほとんどの人々が「人助け」という崇高な意識の下に情報を発信しているのだろうが、彼にはそれらはただ、ヒロイズムに酔っているように見えて仕方がなかった。例え彼らが無意識だったのだとしても。


なので彼は、自分も同様に何かを叫び、社会の役に立っていると自分に言い聞かせる事によって「自分の無力感を紛らわせよう」という衝動に駆られたが、彼が唯一、無条件で納得した意見の一つである『自分の考えによって判断し、自分で決める事』という発言を採用し、何とか弾けそうな衝動を抑え込んで、各立場からの情報を集める事にした。


最も信頼性が高そうだと思わせたのは、発言者本人が「自分自身の発言も含め、一つの情報でしかないので、その真偽をしっかりと確かめてから行動に移してほしい」という言葉を使用している情報だった。

……少なくとも、肯定や否定、悲痛や希望といった感情に任せたままの発言よりは冷静だと考えられる。


気を抜けば、それらの人々と同様に浮き足立ちそうになる彼自身の思考を元に戻すためにも、まずその情報を頭に入れて冷静さを呼び戻そうとした。


まず彼の目に付いたのは、『どこそこの工場が爆発して、有害物質の雨が降るので気を付けて下さい!』……というものだった。


それは彼の居住地からは遠く離れた場所の出来事だったせいか、特にピンと来る事はなく、そのまま読み流す。

しばらく後に見つけた情報には、今度は逆に『有害物質の雨はデマ情報です』という内容が記載されていた。


(ネットワーク社会……ねぇ)


彼は改めて、自分が手に入れようとしている情報を伝えるメディアについて考えを巡らせなければならなかった。

大手ニュースサイトは、ほぼ新聞と同じように取り扱って良いだろう。まあ信頼性も高いはずだ。

公的に発表された情報が記載されるはずだ。……その代わり、多少のタイムラグがある。

そして、公的機関による情報統制の影響を受けていることも考える必要があるだろう。


もう一つのローカルメディアに関しては、その情報の真偽には細心の注意を払わなければならない。

何しろ、誰もがジャーナリスト気取りで情報を発信する事ができるメディアなのだ。普段通りの日常であれば、『それがウリです』と各方面で大絶賛される媒体なのだが、こうして有事になるとそれがネガティブに働く事にもなる。


――情報が、氾濫を起こすのだ。


彼の関係する繋がりにおいてはまだ・・マシな方なのかもしれないが、こうした状況で積極的に発言する人間は、自己顕示欲の強い者か、よほどしっかりした立場にある者のどちらかだ。そしてその多くが前者であると彼は認識していた。

彼らは皆、義憤や友愛などの感情によって発言を繰り返しているが、だからこそ注意しなければならないと思う。


……強い感情は、夏の太陽と同じように濃い影をもたらす。


彼は自分の感情に戒めを持ち、冷静に暴れ狂う情報の波を泳いでいった。



こちらのブログにおける情報を参考にしております。


http://blog.livedoor.jp/toshiharuyamamoto128/archives/65613403.html

http://xdl.jp/diary/?date=20110313

http://ameblo.jp/mikio-date/

http://chodo.posterous.com/45938410

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