3/19 15:55 『戦士』
「最後に、『戦士』チームだな」
一通りチーム紹介が終わりに近づき、少しホッとした表情の荒城の声に続いて進み出てきたのは、まだ若いがっしりとした体格の青年だった。……涼よりも若そうだ。
「はい。……楠本尚吾って言います。『戦士』チームのリーダーやらさせてもらってます」
その受け答えから、体育会系の雰囲気を感じさせる楠本と言う若者は、軽く後ろで手を組んで、足を肩幅に開いた状態……所謂、『休め』の姿勢で話し始めた。
坊主に近い短髪に、アーミーっぽいデザインのジャンパー。そしてビリジアンのカーゴパンツを身に付けた彼は、正に『戦士』といった出で立ちで、このまま自衛隊に所属していてもおかしくなかった。……実際、後ほど聞いた話によると、本人はその意向があったらしいのだが、親の反対によってそれはできなかったということだった。
「『戦士』チームがやるのは、基本的に個人の人への労働力のサポートです。……津波で泥に埋まった家の泥のかき出しとか、瓦礫の除去とか、家具の運び出しとか。力仕事は何でもやる感じですね。……だから、『戦士』です」
真っ直ぐに人々の中央を見ながら、力強い声で語る楠本。
……ここまで涼たちが嫌と言うほど見てきたあの瓦礫の数々を、彼らが撤去しているというのか。それは果てしない気がするほどの作業のような気がしていたが、誰かがやらなければ、瓦礫はどこへも行ってくれない。
詰まる所、最終的には地道な作業だ……ということを、彼の言葉は物語っていた。
「専門的なことや、特に出来ることが無い人は、こちらに加わってもらうといいと思います。うちは主に、避難所とかよりも海沿いの壊れかけた家を回って、一軒一軒に当たっていく感じなので。やることは幾らでもありますから、何人来てもOKです」
正直な所、涼は「何かできることがあれば……」という意識が強かったので、特に作業としては何でも良かったのだが、中にはこのような『一人一人に寄り添って、自分のできることをお手伝いする』ということを行うために来ている人もいた。……そして、その数は結構多かった。
このことが、今回の災害が如何に人々の心に衝撃を与えたか?……ということの証だったと思い、日本中から駆けつけてくる人たちと出会うたび、改めて涼はその事を考えさせられた。
「あ、ただ、かなり汚れるんで、長靴とかブーツみたいなのが無いと困るかも。着替えもあった方がいいでしょうね。もし無ければ、援助物資の中にあるのを使わせてもらうんで、そっちの方がいいかもしれません」
涼の近くにいる人々が、どうやらこのチームに参加するつもりらしく、楠本の言葉に「あ、しまった……!」と小さく声を漏らすのが聞こえた。
津波被害に遭った地域で活動しようというならば、確かに濡れてもいい格好や長靴などは必須だ。だが、ただでさえ必要な荷物が多くなる今回のような災害時には、なかなかそこまでの物は持ってこれない。
涼も、バイクで移動するという状況を考えると、必要となる可能性はあるが、諦めなければならない荷物が数多くあった。
だが、楠本が言っているように、援助物資をアテにしていた部分もあったので、その辺りは何とかなるだろうとタカを括っていた所もあった。
……必要度の高い消耗品でもない限り、使っていけないことはないだろうから。
そう思っていた涼だったのだが、このことが結構大きな問題の火種になるということを知るのは、もう少し後の事だった……。
同行した学生君がやるつもりだった作業というのも、この瓦礫撤去だったそうです。