表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Earthquake  作者: 安楽樹
第二章 ASAP
15/21

3/19 15:29 『密偵』


「じゃあ、次に偵察部隊『密偵スカウト』チームの紹介をしよう」


荒城がそう言って視線を送る。

その先にいたのは、先ほど鵜殿が話しかけた長身の男だった。

長身とは言っても、180cmぐらいだろうか。しかし、そのスリムな体型が男をさらに大きく見せていた。

男はライダースーツのような黒い皮の服を上下に着込み、それ以外の余計な装飾物は一切身に付けていない。短くまとめられた黒髪を見ても、まさにそのチーム名通り『密偵』という言葉が非常に似合いそうな男だ。……おそらく30代半ばといった所だろうか。


「……遠藤だ。よろしく」


遠藤と名乗った男はさっきの鵜殿とは異なり、躊躇する素振りもなく颯爽と一同の前へと進み出る。そのまま腕組みをして、低い声で話し始めた。


密偵スカウトチームは、主に現地の情報収集をするチームだ。バイク乗りやトレランなんかをやっている人たち数名で構成している。そのフットワークの軽さを活かして、現地を回って必要な情報を集めてくるのが役目だ。……今は特に、各避難所の情報を集めている」


渋い声で語る遠藤。ただしその視線は、その場にいた人間の方ではなく、やや前方の地面を向いたままだった。

何だかいかめしそうな顔をしているのは、現場のことを思い出したからなのか、それとも生来の気質なのか。

……どうやら余り人懐っこい感じの人ではないな、と涼は思った。


「数日前から現地入りして軽く回ってみたが、とにかく瓦礫が酷い。オンロードマシンじゃまず無理だ。俺のモトクロスでも行けない場所が山ほどある。とにかくまずはインフラだ。……道を作ってくれ」


そこで遠藤はチラリと鵜殿の方を向く。

視線を向けられた鵜殿も、一瞬だけ仕事に戻ったかのような、真剣な表情で軽く頷いた。


「あと今後、車で走り回る人たちには注意しておく。地面には何が散乱しているか分からない。パンクには十分注意してくれ。……そしてもう一つ。海岸沿いでは水没している所も多い。干潮時には通れるが、満潮時には冠水してしまい通れなくなる道もある。それから通れるぐらいの深さだったとしても、その水は海水だ。……車をダメにしたくなければ、止めておいた方がいい」


遠藤がもたらしたその話は、まだこちらに来て短い涼たちにとっては非常にありがたい情報だった。

依然として救援にばかり意識が向きがちな精神状態の彼らにとって、こうした日常ならば気をつけるような部分についての意識は、どうにも欠落してしまう。

瓦礫が散乱していたのならば、釘やガラス、金属片も落ちているかもしれない。もしパンクしてしまったとしても、それを修理する方法はほとんど無いと言ってもいいだろう。それどころか、帰れなくなって二次遭難してしまう危険性だってある。

そして、来る途中で見た所々の冠水した道は、涼は通れるかどうかと実際に深さを調べていたりもしたのだ。……だが、それが塩水である以上、車は錆びてしまうことになる。後々のことを考えると、緊急時以外は通らない方が良さそうだった。


「小回りの聞く足がある人や一日中走れる体力がある人は、ぜひこれからの避難所探しとマップ作りを手伝って欲しい。まだ正規の避難所に指定されていない場所に避難している人がたくさんいる。今はそういった場所を探し、この辺りの局地的な地図を作っている途中だ。それぞれの情報を持ち寄って一つの地図にまとめていき、それをウェブの連中と協力してデータ化する予定だ」


腕組みをしたまま、顎に手をやる遠藤。……見ると、彼も大分無精ひげを伸ばしていた。

そこで涼は気付いたのだが、何人かひげがボサボサの人がいるな……と思っていたのは、どうやら古株の人たちのようだ。

確かに考えてみれば、ここでは悠長にひげを剃っている場合ではない。それに、一体どうやって剃るというのか。

剃刀を使えるような水場も無いし、充電式のシェーバーが充電できるような電源も無い。……何より、そんな無駄な荷物を持ってくるぐらいだったら、食料や支援物資の一つでも持ってきたほうがマシだというものだ。ひげがいくら伸びた所で、死ぬわけではないのだし。


……数日後には、自分も彼らと同様にひげが伸び放題になることを少しだけ想像した涼だった。

当然ながらそんな彼の様子には誰も気付かず、遠藤の話はまだ続いている。


「それから新しく着いた避難所では幾つか注意することがあるので、それはまた朝出発する前に連絡するつもりだ。あと、各地域での活動拠点探しも同時に行っている。サテライト基地になりそうな所があれば知らせて欲しい。以上」


そこまで言うと遠藤は、さっさと元の位置に戻ってしまった。かなり淡白な性格なのだろうか。

その場にいた人々は少々呆気にとられた部分もあったようだが、元々のメンバーたちはそれが当たり前のように、自然と流している。なので、荒城が再び前へと一歩進み出た。

同時に、先ほどのキャンピングカーの中へ向かって呼びかける。


「次は魔術師ウィザードチームだな。おーい、大芝。頼む」


現地の注意点は、言われて初めてハッと気付いたことでした。

……でも、気にせず渡っちゃったけど。


借りてた車、大丈夫だったかな……?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ