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Earthquake  作者: 安楽樹
第二章 ASAP
14/21

3/19 15:25 『騎馬隊』

***


 騎馬隊ナイト…… インフラの整備、重機を使った瓦礫撤去作業


 密偵スカウト…… 各避難所の調査、地域情報の収集


 魔術師ウィザード…… 情報ネットワークの作成、通信網整備、情報発信


 司祭プリースト…… 食事提供、住環境の改善、医療福祉


 商人マーチャント…… 資金、物資集め、輸送、補給


 戦士ファイター…… 各個別世帯への労働力提供


***


「え~と、ちょっと特殊な呼び方をしてますが、気にしないで下さい。俺の趣味ですから」


(……???)


最初は一瞬、涼には何だか分からなかった。

だが、項目の後ろの説明を見て、何となく理解する。多分、チーム名なんだろうな、と。

それにしても……少し年上だとは思っていたが、この荒城という人は結構そういう方面が好きなのかも知れない。

おそらくファミコン世代だろうし。


唖然としている聴衆の顔を見て苦笑いしながら、荒城は話し難そうに頭を掻いた。

その隣ではさやかが、「我関せず……」という顔をしながら視線を逸らしている。

チラリと荒城は彼女の方に視線を向けた後、改めて話し出した。


「あ~、もう一度言うけど、深くは突っ込まないで下さい。特に意味は無いんで。……これが、現在のチーム分けです。現状ではやることが多すぎるので、役割を分担してそれぞれの専門の活動を行っています。人数も揃ってきて、ようやくここまでできるようになりました。

 この後、それぞれのチームリーダーから活動内容と現在の状況を説明してもらうので、自分の目的に合ったチームと一緒に活動してもらえればと思います。……もちろん、『我々と一緒にやりたい』と思ったらですが」


そこで一旦、荒城は言葉を区切る。

今の言葉で、誰かが去っていくのかと思ったのかもしれないが、さすがにこのタイミングでは誰も動かなかった。

まだこの場には、涼を含めて10人ほどが残っている。

それを確認すると、荒城は一人の男に視線を促した。


「じゃあまずは、騎馬隊ナイトから。……鵜殿さん、よろしく」


その言葉と同時に、場の視線が一人の男性に集まる。

鵜殿、と呼ばれた視線の先にいた小太りの体格のいい男は、周囲の視線を見ると苦笑いをしながら頭を掻く。


「俺からかよ……。遠藤、お前先にやれよ」

「……」


隣にいた男にそう言うが、話しかけられた遠藤と呼ばれた男は、完全無視を決め込んでいる。

体格に似合わず、もじもじしている鵜殿に向かって、周りからはちょっとした野次が飛び始めた。


「ちょっと自己紹介するだけじゃない。鵜殿さん、早く」

「ほら、おっちゃん。後がつかえてんだから早くしろって」

「……分かったよ、うるせえなぁ……」


他の何人かから先を促され、仕方が無いといった風に前へと進み出る鵜殿。

そして、腰のベルトを少し直しながら話し始める。


「え~と、鵜殿大樹と言います。一応土建屋やっとります」


そう挨拶をすると、軽く頭を下げる。

鵜殿の服装は作業着に加え、厚手のチョッキを着ている。そしてその自己紹介どおり、下は土建屋らしくニッカボッカを履いていた。

短めのもじゃもじゃの髪とヒゲ面の顔立ちを見ると、パッと見はちょっと怖そうなおっさんという風体だったが、よくよく見れば優しそうな眼差しをしている。こんな所まで来る所を見ると、きっと人情に厚い男に違いない……と涼は想像した。

鵜殿は続ける。


「俺たちのチームは、重機を使って瓦礫の撤去をしてます。一応自衛隊が大通りは通れるようにはしてるんだが、まだまだ細い道とかは瓦礫で埋まって通れないんで、そういう所の瓦礫をどかして車が通れるようにしてます。建物が崩れてきたり、電柱が倒れかけてたりして危ないので、ちょっと素人さんには無理かな。……なので、経験者だけの少人数でやってます」


鵜殿の説明を聞き、街に入った時の様子を思い出す。

所々荒れていたとはいえ、ここまで普通に走ってこれたのは、こうした人々が道路を片付けてくれていたからなのだろう。

津波に襲われ、まだ片付けられていない地域は、ただの残骸が積み重なっているだけのスクラップ場といっても良かった。

いくら車社会で便利になったとは言っても、道路インフラが整っていなければ、車はただの鉄の箱だ。何の役にも立たない。

まずは、道を通れるようにすることが重要だというのはよく分かった。


「まだ石巻から岩手にかけての沿岸の町は、残骸に埋もれている場所が腐るほどあるんで、仕事は幾らでもあります。道路が通れないと必要な物資も届けられないんで、今は避難所までの経路を中心に、急ピッチで作業してるとこです」


今も少しずつ、遠くでは緊急援助物資が集められていることだろう。

そしてそれらは大型のトラックに載せられて、東北まで届けられるに違いない。

だが肝心の道路が通っていなくては、折角の物資も届けることはできない。

……でも残念ながら、さすがに涼は重機の運転はできないため、このチームを手伝うことは難しそうだった。


「もし重機の運転の経験があったり、ユンボやブルとか2t以上のトラックを持って来れるようなツテがある人は教えてください。よろしく」


途中で多少詰まったりはしたものの、鵜殿はそこまで言うとそそくさと元の位置へと戻る。

ガタイとは裏腹に照れ屋なのだろうか。先ほどまでの荒城などと比べて、人前で話すことには慣れていないようだった。


そう言えば鵜殿の言葉で気付かされたが、元々この辺りにあった重機はほとんど全てが水没してしまったのだろう。必要な機械も全て外から持ってこなくてはならない。そう考えると中々大変だ。

大型のキャリアカーや、重機を動かすための燃料も確保しなければならないことを思うと、一体どれだけの手配が必要になるのだろうか。

バックグラウンドのことを少し想像してみて、涼は気が遠くなりそうだった。


そして説明は次のチームへと移る。

考えてみれば当たり前のことなんですが、津波に襲われると街並みがぐちゃぐちゃになるわけです。戦場の焼け野原みたいだというのがよく分かりました。

そう考えると、我々が入った時には、よくあそこまで片付いていたものだと思います。

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