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Earthquake  作者: 安楽樹
第二章 ASAP
13/21

3/19 15:20 『石巻の現状』

やがて戻ってきた荒城は、先ほどに比べて人数が少ないのを察知すると、一瞬だけさやかと目でコンタクトし、何事も無かったかのように続きを話し始める。

荒城に話しかけてきた男は、再びキャンピングカーの中に戻ったようだ。


「ちょうど今、我々の補給部隊からの連絡がありました。近いうちに物資の援助があるそうです。良かったら皆さんにもお分けできると思いますので、その時にはまたご連絡します」


(さっきの人は、その報告だったのか……)


荒城は報告をしながら、少し安堵したように見えた。きっと涼と同じように、日常生活に不安な部分があったのだろう。

それが当面は解消されたようなので、安心して目の前の事態に取り組めるようだ。

援助に来ているはずなのに、まずは自分が生きる心配をしなくてはならないというのは、正直環境としてはかなり厳しい。

……だが、自分たちの物資をわざわざ他の人にも分けてくれるなんて、非常にありがたいことだ。

涼は素直に感謝する事にした。


「さっき全体の状況についてはお話しましたが、当面は我々はここ石巻を中心として活動する予定です。

 理由は二つ。……一つは、場所を絞って効率的に活動するということと、もう一つは『この石巻が最も被害の大きい地域』の一つだという事からです」


事前情報では、大まかにその話は聞いていた。

とにかく紹介される映像は石巻の様子ばかり。……だからこそ、とりあえずここを目的地として来たのだが。

風の冷たさに肩を竦ませると、涼は再び荒城の言葉に耳を傾けた。


「何故ここが最も被害が大きくなったかと言うと、海岸に面して突出しているという地形的な理由が一つ。もう一つは、最初の地震が起きた時、避難を指示するための放送塔が倒れてしまい、放送ができなかったからだそうです。

 そのため、役所の職員の方々が肉声で避難指示を出しに外に出ていた際に津波が起こり、その3割近くの方が巻き込まれてしまったらしいです……。なので現在、石巻の役場はほとんど機能していません」


淡々と説明をする荒城だったが、それはどんな感情を込めていいか分からないようにも見えた。

数字で表せば、3割。

ただそれだけの言葉であり、それが多い数字だということは頭では理解できてはいたのだが、それが一体どのくらいの人数であり、さらにその一人一人にそれぞれの人生があったのだと思うと、涼には想像する事すらできなかった。


……何だか、ここに来てからは実感できない事ばかりだ。


深く考える事を頭が拒否したのか、ふと涼は頭の片隅でそんな事を思った。

あまりにも大きすぎる自然災害。自然の前では、人間の命など紙くずのような物だ。

彼は自分がまるでアリンコになったような感覚を覚えていた。


「まだほとんどの方が避難所で過ごしています。役場の残っている職員の方々は、24時間交替で各避難所に出向いて、現地の対応をしているそうです」


荒城の声が聞こえ、慌てて我に返る。

おそらく避難所は、これから何度も行く事になる場所のはずだ。

その様子をできるだけ詳しく聞いておきたかった。


「避難所と言ってもその規模は様々で、町から離れた集落では、個人の住居や公民館のような場所を避難所にしている所もあれば、市街地では学校などの避難所にたくさんの人が集まっている所もあり、その数も個人や数人の所から、多い所では5~600人以上が避難している場所もあります」


(500人!?)


その規模を聞いて、涼は驚愕する。

これまで彼がTVの画面で見ていたのは、せいぜいが体育館の中に集まっている100人程度のものだと勝手に思っていた。

しかし、実際はそれを大きく上回る、500人もの人達が学校に避難しているらしい。

500人……。またしても想像もできない現実がそこにはあった。

そして後日分かった事では、なんと1000人を超える人が集まっている避難所もあるということだった。

一体、そこはどんな様子なのだろうか……。

改めて、想像できない事ばかりだ。


だがこれで、こちらに来るまでは何となくしか掴めなかった避難所の様子が分かり、涼の頭の中で一つ区切りがついた。

予め、荒城がこうして概要を話してくれたおかげで、大分状況が把握できたように思う。

そのおかげで、これからの涼の行動方針が大分はっきりしてきた。

それだけでも、目の前の荒城という男には感謝してもしきれない。

これまでの様子を見ても、彼はこうした大人数を指揮するのに慣れているようだった。


続いて荒城は、さやかに何やら指示をすると、次の話題を切り出す。


「今の状況を打開していくには、組織的なチームワークが不可欠です。我々は、各目的ごとにチームを作って行動してます。後の細かい部分は、後ほど各チームのリーダーから聞いて下さい」


話題が変わり、涼たちが頭を切り替えている間に、さやかがスケッチブックのような物を持ってくる。

そして数枚をペラペラと捲ると、荒城に手渡した。

受け取った荒城はスケッチブックの上下を確かめてから、全員に見えるように胸の前に提示する。


「え~と、これが現在のチーム分けです。ちょっと特殊な呼び方をしてますが、気にしないで下さい。俺の趣味ですから」


真っ白なスケッチブックに飾り気の無い黒マジックで書かれていたのは、次のような項目だった。


***


 騎馬隊ナイト…… インフラの整備、重機を使った瓦礫撤去作業


 密偵スカウト…… 各避難所の調査、地域情報の収集


 魔術師ウィザード…… 情報ネットワークの作成、通信網整備、情報発信


 司祭プリースト…… 食事提供、住環境の改善、医療福祉


 商人マーチャント…… 資金、物資集め、輸送、補給


 戦士ファイター…… 各個別世帯への労働力提供


***


個人的に最も重要だと思ったのは、まず役場の職員のサポートをすることだと思いましたね。

困った人はみんな、まず役場に来ますから。

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