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Earthquake  作者: 安楽樹
第二章 ASAP
11/21

3/19 15:03 『規模と隔たり』

「今から、俺が知っている情報を伝えるので、もし誰か他に詳しい事を知っていたら教えて欲しい」


涼は、いつの間にか荒城の一人称が『私』から『俺』に変わっているのに気付いたが、その話し振りを聞いているうちに、こちらの方が普段通りの言葉遣いなのだと思った。

第一印象の物腰は丁寧だったが、実は結構気さくな人物なのかもしれない。

まだきちんと決めたわけではないが、ここの人たちと一緒に活動していくのならば、早めに打ち解けるのに越した事は無い。

未だに少し緊張している自分に気付きつつ、彼はそう考えていた。


アウトドア用の簡易折りたたみテーブルの上の地図に荒城が手を伸ばすと、周囲の囲みが少し縮まる。

皆が首を伸ばして、彼が示す地図へと視線を注いでいた。


荒城が『現状の把握』と言ったのを聞いた時、涼は「確かに」と思った。

これまでに彼が手に入れた情報といえば、TVで繰り返し報道されている内容と、インターネット上のSNSやツイッターで飛びかっている物だけだったのだ。

正確に、現地がどのようになっていて、そこに住む人たちがどうなっているか、ということについてはほとんど何も知らないと言っていい。

……さらに彼は、東北地方に来るのは初めてだった。


だからここで、現在の状況を教えてくれるのは非常に助かる出来事だった。

『情報』というのが、外部から来た人間にとってはとても重要な要素だったのだ。

……そして後で思ったことだが、それは現地の被災者たちにおいても同じ事だった。

もう一歩深く言うとすると、『正確な情報』という物が、非常に重要だと知ったのもこの後の出来事である。


荒城は風でめくれてしまった地図のページをめくり直し、東北地方広域図の箇所を開いた。


「……今回の震災の最も大きい特徴は、かなりの広域被害だと言う事だ。北は青森岩手から、南は茨城千葉まで被害が広がっていると聞いている。これは、中部で言えば和歌山から東京、西日本で言えば金沢から下関ぐらいまでの距離に匹敵する」


その言葉と同時に、指で地図上の海岸線をなぞる。

……それと同時に、日本全図と比べてみてゾッとした。


(……何だこの広さ!?異常な規模だろ!)


改めてその事を実感する。

確かに、ネット上で飛び交う場所の情報を見ていても、あちこちから助けを求める声は挙がっていた。

今荒城が言った通り、自分の身近な地域に置き換えてみるとさらに分かりやすい。

普通に旅行しようと思ったら、『どれだけ時間がかかるのか分からないような距離の地域が、全て被災している』のだ。


自分が無事なのは……ただの偶然に過ぎなかった。

いや、関東地方も地震の災害に関しては、被災していると言っても良かった。


「……こんなのは、以前の神戸の比じゃない。こんな規模の被害、とても俺たちだけじゃ足りない。……いや、とてもボランティアの数なんて足りるような広さじゃない。だから今後も仲間は募集していくし、多ければ多いほどいい」


そう荒城が言った時、涼はふと思った事があった。


(……ここに来れるボランティアって、少なすぎるんじゃないか?)


実際、この後しばらくして振り返ってみても、この時考えた通りの状況だった。

その原因は幾つも考えられる。


まず一つ目は、単純に『遠い』ということ。

交通量の少ない夜だったとはいえ、下道をずっと走ってきた彼はここに着くまで、約8時間近くかかっていた。

おそらく高速を使ったとしても、関東地方からは5時間以上はかかるに違いない。

交通費や所要時間の事を考えると、「ちょっとボランティアに行ってみようか」という距離で無いことは確かだ。

アクセスの良い都市圏にあった神戸とは訳が違う。


続いて、『時期』の問題。

たまたま彼は転職活動の途中だったため、仕事を辞める間際だった。

そのため、上司に事情を話して退職日を繰り上げてもらったから時間の都合ができたのだが、そうでなければ年度末のこの時期、どこの会社も忙しいはずだ。

唯一時間がありそうなのと言えば、春休み期間中の大学生ぐらいかもしれないが、おそらく大学生は一つ目の理由により、来る事は難しいだろう。

そもそも、突発的に動ける社会人なんて、そうそういるはずも無い。


そして『移動手段』の問題。

電車が止まってしまったため、車を使うしか無いわけだが、地震により道路が陥没、分断されている以上、それすらも確実では無い。

道路が通じていなければ、車など何の役にも立たないのだ。

現在、自衛隊などにより、大急ぎで道路の復旧工事が進められているはずだが、当然まだ間に合ってなどいなかった。

……涼はここに来るまでに、道路にできた幾つもの断層や、海沿いで水没したアスファルトの数々を見てきたのだ。


それに加えて、重要なのが『ガソリン』だった。

都心部でも枯渇しているというのに、被災地にガソリンなどあるはずも無い。……当然、燃料は持参するしかなかった。

運良く、涼が借りる事ができたバイクは燃料が満タンだったのに加え、小さめのガソリン携行缶一缶分のガソリンをもらうことができたので、ここまで辿り着くことができたのだ。しかし帰りのことも考えると、これ以上無駄に走り回ることはできない。

……このことが今最も懸念する材料のうちの一つだった。


大まかにはこの三つが最も大きい理由だろうが、細かい部分を考えればまだまだあった。


余震が続いている事もあり、物理的に危険なこと。

原発事故の問題もあり、放射能汚染の危険が考えられること。

ネット上で広まった、安易なボランティアは現地の邪魔になるという考え方。

涼自身、周囲の友人から止められるという事もあった。


……これらを全てクリアできる人というのは、相当少ないに違いない。


涼はこの事に気付くと同時に、これからしばらくの間は、この少人数での活動を覚悟しなければならないと思った。

この人数で一体何ができるのか……。


(折角ここまで来たんだ。できるだけ効果的な活動をしたいな……)


そう思っていた彼は、自分たちを取り巻く環境の事をできるだけ詳しく分析しようと心に決めるのだった。




当時はまだまだ、被災地に行くなんてとんでもない!……という雰囲気真っ盛りでした。

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