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収穫祭 「私の心臓を掴むあなたの手が冷たくも温かい」  作者: 秦江湖


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4/12

救世主・千尋


私が本格的に疑われていると実感したのは、警察署に連れていかれてからだ。


「少し参考にお話を」と呼ばれ、捜査に協力するつもりで応じたのに、通されたのはドラマで見るような取調室。そこで初めて、あの惨状の詳細を聞かされた。


ホテルが出した三種類のスープのうち一つに薬物が混入されていたこと。

そのスープのテーブルのそばに、倒れた人たちがよそいに来た時間帯、私と一華が長くいたというクラスメイトの証言があったこと。一華は飲んで倒れた被害者側だが、必然的に「残るのは私」になるという理屈だった。


もちろん、薬物など入れていない。私は否認した。あの惨状を見たせいか、自分でも驚くほど落ち着いていた。倒れた人たちの症状も軽く、すでに回復しているというのもあった。


それでも、刑事たちはなかなか私を信用しなかった。困り果てていたとき、ドアが開き、一人の若い刑事が入ってきて私の前にいた刑事に耳打ちした。


「橋本さん。ご協力ありがとうございました。どうぞお帰りください」


そう言われた瞬間、全身から力が抜けた。


取調室を出ると、廊下にさきほどの若い刑事が立っていた。


「私がお見送りします」


年配の刑事が、彼に恭しく頭を下げる。若い方が上司らしい。

「今回の事件を担当しています。警視庁の滝川です」


きちんとした身なり、背筋の伸びた姿勢、真っ直ぐ結ばれた唇。第一印象は、実直な人間だということだった。


「どうもご迷惑をおかけしました」


彼が頭を下げるので、かえって申し訳なくなる。


「いえ……そういうお仕事ですものね」


「どうして急に、私の嫌疑が晴れたんですか?」


そこが気になった。


「証言があったからです」


「証言?」


「小川一華さんです。同窓会で倒れた彼女が、“ほとんどの時間、橋本さんと一緒にいた”と。被害者たちがスープを取る直前にも、一緒にいたと証言しました。防犯カメラにも、それに近い時間帯に二人で映っている映像が残っていま「なにかわかったら、ご連絡した方がいいですか?」


「はい、ぜひ」


名刺を受け取る。「警視庁捜査一課 警部補 滝川隆一」とある。


「もしかしたら、相談したいことも出てくるかも……」


自分でも意外な言葉が口をついたが、すぐに首を振った。


「いえ、なんでもないです。なにか聞いたら必ず連絡しますね」


「はい」


端正な顔は、ほとんど崩れなかった。


署の玄関を出ると、明さんと一華が立っていた。


「千尋!」


「明さん、一華」


「橋本さん、ご協力ありがとうございました」


滝川は一礼して中に戻っていった。


「千尋、大丈夫か?」


「平気よ。ただ、ちょっと疲れたかも」


「警察から電話が来たときは驚いたよ……受付で話してたら、小川さんが声をかけてくれてね。詳しい話を教えてもらったんだ」


「千尋。素敵な旦那様ね。仕事を置いて、こんなに汗かいて来てくれるなんて」


「一華、あなたこそ。こんなところにいて大丈夫なの? 体は?」


「私なら大丈夫。本当は明日まで寝てなさいって言われたけど、千尋が心配で。それに、いろいろ忙しいの」


「一華。私を助けてくれて本当にありがとう。あなたの証言がなかったら、どうなってたか」


「そんなこと。それに防犯カメラの映像を見ればすぐにわかることよ。私が証言しなくても、千尋はすぐに帰れたわよ」


一華はそう言うが、私は首を振った。


「私が千尋に受けた恩を考えたら、これくらい当然だよ。クラスで孤立していた私を気にかけて助けてくれたのは、千尋だけだった」


「いいのよ、そんな昔のこと」


「千尋、小川さんにお礼をしないと」


「そうね。一華、今度日を改めて食事でもどう?」


「それなら、今度は私の家に遊びにおいでよ」


「それではかえって気を遣わせてしまいます」


「明さん、気にしないで。それじゃあね、千尋。また連絡する」


一華はタクシーに乗り込み、去っていった。


「僕らも行こうか」


「ええ……」


歩き出そうとしたとき、ふと視線を感じて振り向いたが、誰もこちらを見てはいなかった。疲れて過敏になっているだけだと自分に言い聞かせ、明さんの車に乗り込んだ。


家へ向かう車の中で、本当に心の底から解放感がわき上がってきた。


「千尋、さっきの話だけど」


「なに?」


「小川さんが言っていた、“君に助けられた”っていうのは? なにかあったの?」


「中学のときの話。一華はいじめられていて……同じクラスだったから、それを止めたの」


「そうか。勇気があって、正義感が強いんだな。なかなかできることじゃないよ」


「そんな立派なものじゃないわ。ただ、それ以来、一華とは仲良くなって。転校するまで、いつも一緒だった」


「いい友達を持ったね」


「うん。一華は私の親友なの。だから明さんも、一華と仲良くしてね」


「ああ」


一華。

あのとき、私はあなたのことを考えていた。私にはこうして新しい家族がいる。あなたには、新しい家族がいるのだろうか。両親を突然失い、私の前から消えた後、どうやって生きてきたのだろうか――そんなことを、ずっと。




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