いちばん危険で魅惑的な花・千尋
翌日。私はいつものように、スクールに行く前に下島さんと斉藤さんとカフェにいた。
「心配ね。警察はなんて言ってたの?」
いたわるような眼差しで下島さんが聞く。私は力なく微笑んだ。
「まだ何の手掛かりもないって」
いつもならケーキも頼む私が「今日はいいかな」と断ると、二人はすぐにニュースで騒がれている連続失踪事件のことだと察したようだった。
失踪者たちの共通点が同じ中学校であること、その中学が一華と私の母校であることも、二人は知っている。
「お友達の小橋さん、無事に見つかるといいですね」
「うん。それより斉藤さん、そんなに落ち込まないで」
斉藤さんは、我がことのように私を気遣ってくれる。その純粋さが、私の心に微かな波紋を広げた。可愛い子だと素直に思う。
「でもこれって、ただの失踪なの? こんなに連続してるなんて、誰かが意図的にやってるんじゃない? 誘拐とか」
ミステリー好きの下島さんの思考は、こういうときに活発になる。
「それも含めて捜査中なんですって」
「そうなんだ。早く解決してほしいわね。なんだか気持ち悪い事件」
私は「私もそう願ってる」と応じてカップを置いた。
スクールが始まる時間だ。友人たちの感情を受け止めながら、その反応を自分の「庭」の土として、冷静に観察している。
スクールに着くと、一華に呼ばれた。別室で、一華は心配そうに私を見る。
「大丈夫?」
「私は大丈夫よ」
「ならいいんだけど……小橋さんのこと、心配ね」
「ええ。でも、心配ばかりしていても仕方ないし」
愛の失踪という「雑草」が、私の庭の均衡を崩すことは許さない。日常は続ける。それに適応することこそ、庭師としての本能だった。
「私に何かできることがあったら言ってね、千尋」
「ありがとう。一華」
私の顔色をうかがう一華の目には、深い慈愛が宿っていた。
その裏に、一華が私を「守るべき存在」として見ているのを感じる。
「そういえば一華、個展の準備は進んでる?」
「ええ。新しい作品も、もうすぐできるわ。あと一息ってところね」
「そっか。頑張ってね。絶対観に行くから」
「うん。ありがとう」
笑う一華の顔は、美しかった。私の庭に咲く、いちばん危険で魅惑的な花だ。




