表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣聖になりたくて!  作者: 空気を読む
3/3

第二話「剣道だけじゃだめ!?」

「おはようございます、お母様!」


「はい、おはよう。……って、レヴィ! あなたはどこへ行くの!」


俺は庭へと続く扉に手をかけたところで、エレナに呼び止められた。


「ええと、あー。ちょっと一人でお稽古を、ね」木刀を隠すように持ちながらごまかす。


「今日からお勉強を始めると言ったでしょう!」エレナの語気には、貴族の血縁を持つ者が持つ、有無を言わせぬ響きがあった。


「あー、そうでしたっけ。あはは」


「お稽古はお勉強の後よ! お勉強が終わるまでその木刀を握るのは禁止です!」


「ええー、そんなあ……」


エレナは目を細めてじっと俺を見つめた。「何か異論があるのかしら?」


「わか……わかりました」俺は観念した。


そうなのだ。エレナは教育熱心なタイプで、マナーや言葉遣いにとても厳しい。前世ではこんな生活なかったから、めちゃくちゃ辛い。たまに言葉遣いが戻ってしまうと、その度に怒られる。本当に辛い。


「と言っても、私も急な仕事が入って今日は一緒に勉強することができないの」


(サボるなら今だ。)


「ちゃんとやるのよ! サボるなんて考えないでね!」


ギクッ。(なんでバレた!)


「セバスチャン。今日はあなたがつきっきりで見て差し上げて」


「かしこまりました、奥様。責任を持って務めさせていただきます」


「じゃあ行ってくるわねー! いい子にしてるのよ、レヴィ」


「はーい」


窓の外へエレナの馬車が出て行くのを確認し、俺はそっと書斎のドアノブに手を掛けた――その瞬間、俺の身体はフワリと宙に浮いた。


「うわぁぁ!」


「お坊っちゃま。剣のお稽古は、お勉強がお終いになってからでございますよ」


セバスチャンが、一切の足音もなく俺の胴を掴み上げている。


「ええーー、意地悪だ! 勉強なんて嫌です! 剣を振りたい!」


「わたくしに言われましても、エレナ様から厳命をいただいております。どうか、わたくしの責任を果たさせてくださいませ」


俺は不貞腐れた顔をする。


セバスチャンは俺の顔を見て、静かに言った。「では、お坊っちゃま。私と勝負をしましょう」


俺は即座に食いついた。「なんの勝負ですか、セバスチャン!」


「一対一の決闘でございます。もしレヴィ様が私に一本でも取れば、今日は好きなように遊んでいただいて結構です。しかし、私が勝った際は、大人しく私の言うことを聞いていただきます」


俺の顔は輝いた。「わかった! じゃあ早速庭でやろうよ!」


「お待ちくださいませ。一つ条件がございます」


「それはなんですか?」


「お互い素手で戦うことでございます」


「素手?」


「はい。わたくしは剣技に習熟しておりませんゆえ」


(素手か……。まあ、前世の古武術の知識もある。行けるだろう。)


「わかりました、セバスチャン。その条件、受け入れましょう」


「ありがとうございます、お坊っちゃま」


庭で向かい合った瞬間、俺は右手を広げ、指の間を無くして力を入れた。手刀の構えだ。


セバスチャンはゆっくりと両腕を上げ、流れるような、しかし奇妙な構えをとった。(なんだ? あの構えは。胴ががら空きじゃないか)


俺は一瞬で間合いを踏み込み、セバスチャンの体めがけて飛び込んだ。


「とった――!」


その確信の直後、視界が反転した。


「え……?」


頭が地面にぶつかる寸前、セバスチャンが俺の頭を手で優しく抱え、抱き上げた。(な、なにがおこったんだ??)俺はポカーンとしていた。


「お坊っちゃま、私の勝ちでございますね。では、お約束通りお勉強をいたしましょう」


訳のわからないまま、俺は机に向かい、セバスチャンと勉強をした。


三時間後。


「お疲れ様でした、お坊っちゃま。今日はこれで以上です」


「疲れたーー」


「お菓子でもご用意しましょうか?」


「たべる!! たべるたべる!」


「かしこまりました」セバスチャンは席を立つ。


(やっぱりいまだにわからない。俺はセバスチャンに何をされたんだ? 剣道なら相手の動きは手に取るようにわかる集中力だったのに。素手だから? 戻ってきたら聞いてみよう)


「お待たせいたしました、お坊っちゃま」


「うわー美味しそう! ありがとう、セバスチャン!!」


俺はクッキーを口に運びながら尋ねた。「そーいえば決闘のとき、僕をどうやって転ばせたのですか?」


「はい。わたくしはお坊っちゃまに足をかけたのでございます」


(やはり足をかけられたのか。確かに足かけは剣道にはない技だが……集中していたはずなのに、そんなヘマを……)俺は納得できない顔をした。


セバスチャンは、俺の表情を静かに見つめ、語り始めた。「お坊っちゃまは、ヴィンセント様との決闘で、相手の剣先にのみ集中しておりました。その剣の技術は、ヴィンセント様の目には追えず、たまたま勝ったとすら錯覚させるほど見事なものでした」


セバスチャンは椅子に座り、姿勢を正した。


「しかし、わたくしはあの時、確信いたしました。お坊っちゃまの集中は、相手の武器に依存している、と」


俺は身を乗り出す。「どういうことですか、セバスチャン」


「素手での勝負で、お坊っちゃまは、上の方ばかりを警戒し、攻撃が飛んでくる場所を懸命に予想していました。そこで私は、両腕を上げてその集中を腕に向けさせ、同時に足元という死角を意図的に空けたのです。お坊っちゃまは、その隙を撃とうと踏み込んできた。その時、意識は私の足元にはありませんでした。そして、足への意識が完全に途切れたところで、足をかけさせていただきました。ただ、それだけでございます」


(確かにそうだ。剣道には足技なんて存在しない。そんなところに集中なんか向けない。セバスチャンにはそれが一戦を見ただけで見抜かれていたんだ。この人、もしかしたらすごい人なのかもしれないな)


「なるほどです! 教えてくれてありがとう、セバスチャン!」


セバスチャンは微かに笑みを浮かべた。「しかし、お坊っちゃまの剣の才能は凄まじい。剣がないのに、手を剣に見立てるあの構えは、誰も思いつきませんよ。鋭い刃のように見えました」


「えへへ、そうかな」(手刀っていうのは、この世界にはないのか)


セバスチャンとそんな話をしているとき、玄関のドアが開く音がした。


「ただいまー! 帰ったわよ、レヴィ」


「お母様! お帰りなさいませ!」


「ごめんねレヴィ、今日は一緒にいられなくて。寂しくなかった?」


「いいえ、セバスチャンがいたので寂しくはありませんでしたよ!」


「あら、それならよかったわ! セバスチャン、レヴィはちゃんといい子にしてた?」


「もちろんでございます、奥様。お坊っちゃまは、驚くほど頭の回転が速く、お勉強を立派にこなされました」


「まあレヴィ! 頭もいいのね! さすがは私の息子だわ!」エレナはレヴィをぎゅっと抱きしめながら言った。


「さあさあ、じゃあ晩御飯の準備をしましょうかね!」


「はーい」


そして、こんな日々が毎日続いた。俺は、セバスチャンとの勝負で弱点を知ってからは、1日も欠かさずに剣を振った。も、もちろん勉強もね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ