第一話 「剣豪、ここに転生」
「**・**・**、***、****……」
微睡の中に、ひどく心地の良い、異質な響きの声が滑り込んできた。その意識はぼんやりとしている。
重い瞼を、なんとか持ち上げる。
ぼやけた視界に飛び込んできたのは、まるで絵画から抜け出してきたかのような、完璧に整った顔立ち。薄い金色の髪が柔らかく光を浴びて、俺を覗き込むように、優しい笑みを浮かべている。
その隣には、彼を一目見ようと待ち構えていたかのように、満面の笑みを浮かべた男がいた。その男は肩幅が広く、分厚い胸板と、どっしりとした手足から、強靭な肉体を持つことがすぐに理解できた。
男は、力強い声で何かを叫びながら、女の肩を抱きしめた。
(なんて言っているのか、聞き取れない……)
頭の中で、記憶が警鐘のように鳴り響く。
俺は、たしか路地裏で……銃弾が心臓を貫通して……息絶えたはずだ。
助かったのか? いや、この見慣れない場所、この外国人たちのような言葉、そして、この手足の自由が全く利かない、軽すぎる身体はなんだ。
夢か、それとも――。
俺は、疑問を口にすることすらできず、抵抗する力もなく、再び深い眠りの淵へと沈んでいった。
三週間が経った頃だろうか、俺は気づいた。どうやら転生なるものをしたらしい。にわかには信じがたいものだが、転生なんて本当に存在するのだ。
転生といえば、よくある漫画なんかでは女神がでてきて、能力をもらったり、唯一無二のスキルを授かったりする。しかし、俺が遭遇したのは女神なんかではない。ただただ、目を閉じれば前世の記憶が鮮明に蘇るという事実だけだ。赤ちゃんから始まるのだから、この世界で自分がどのような特別な能力を持っているのか、一切わからない。
これがほんとの「転生」なのか。いやまあ転「生」なんだから、一から生まれ変わるのは本来普通なのかもしれない。だが、漫画やアニメで刷り込まれた展開とはあまりにもかけ離れていて、ひどい違和感を感じる。
「レヴィ、お腹空いてない?」
俺は首を縦に振る。
「はいはい、じゃあご飯をつくりますねー」
この話しかけてきた女の人は母親のエレナだ。「しっかり食べて強い男になるんだぞ」
この人は父親のヴィンセントだ。
二人とも仲が良くてとてもいい夫婦だ。
そして俺は元の世界にもどれるのか、そんなことを考えながら。
「……俺は3年近くの時を経た。」
歩けるようになり、この家のこと、この世界のことが色々わかった。
まず言語については、三年間生活したことである程度わかるようになった。理解するのがとても難しかった。転生するなら言語がわかるぐらいにはしてほしいものだ。そして、この家は自分の思ったよりも大きかった。相当お金を持っているのだろう。
そして父親のヴィンセントだ。
窓の外で剣を振っているヴィンセントを見ながら、俺はソファの上でぼんやりと考える。ヴィンセントはよく仕事に出かけている。大体家にいるのは母親のエレナと執事のセバスチャンだ。(セバスチャンってありきたりな名前だな……)
父親の職業はどうやら**傭兵騎士団団長**のようで、毎日団長としての務めを果たすべく命をかけて戦っているらしい。まだその姿は見たことないが、家の庭で一人剣を振っているのを毎日見ている。俺は正直、見惚れていた。
俺は元々剣というものが三度の飯より大好きだ。子供の頃、博物館で本物を見た時からその魅力に引き摺り込まれてしまった。剣道を始めた理由だってそれだ。毎日世界のさまざまな剣についての本を読み漁り、刀に関してはいろんな文献の隅々まで読んでいる。
父さんがこちらが見ているのに気づき、笑顔で手を振った。俺も窓を開けて笑顔で振り返す。
「レヴィ、お父さんかっこいいか?」ヴィンセントはニヤリと笑いながら言う。
俺は本心から、「とってもかっこいいです!お父様!」と返した。
「ガハハハハ!!」ヴィンセントは自慢気に笑った。「そうだろうそうだろう!! お前も剣を振ってみるか!?」
「え!ほんと!いいのですか!!?」(まじか!! めっちゃ興奮する!!)
「こらヴィン!まだレヴィはちっちゃいのよ!! 怪我でもしたらどうするの!」エレナが慌てて口を挟む。
「ごめんごめん、レヴィの成長が早くて期待してしまったんだ」(がーん……握りたかったな……)
「レヴィには危険なことをさせたくないの。そしてあなた、明日がレヴィの誕生日よ!」
「もう一年か!早いな!」
……!!??
この世界にも誕生日は存在するのか!? 俺は存在しないものだと勝手に思っていた。「明日であなたが生まれてきて1000日よ、レヴィ」なるほど。この世界では1000日を一年としているらしい。……これはだいぶ狂うな。
「誕生日!楽しみです」と返事をすると、「お父様とお母様はいくつなのですか?」と尋ねた。
「俺は今年で14だ」
「私は10よ」
(父親が32歳くらいで、母親が27歳ぐらいだろうと推測する。)
「明日はパーティーなのだから今日は早く寝るのよ、レヴィ」
「はーい」
翌日―
「誕生日おめでとう、レヴィ!」
「ありがとうお父様、お母様!」
「おめでとうございます、レヴィ様」執事のセバスチャンが深く一礼する。「セバスもありがと!」
「本当に一年というのはあっという間だな!」ヴィンセントが豪快に笑う。
「そうねー。本当に早かったわ。生まれてきてくれてありがとね、レヴィ」頭をそっと撫でられる。(ちっちゃい頃よくお母さんに撫でてもらったな)
「レヴィ、私たちから誕生日プレゼントがあるのよ!はいどうぞレヴィ、誕生日おめでとう」エレナから中くらいの箱が渡された。
「いいの!あっ、いいのですか!ありがとうございます!」母親はクスッと笑う。「あけてもいいですか?」「もちろんいいわよ」
箱を開けると、中には白銀の色をした綺麗な靴が入っていた。なんだこれ。見たこともない靴だ。靴にここまでオーラを感じたことはない。そーいえばまだこの家から出たことがないな。家の中もスリッパのようなもので過ごしている。
「うわぁ、とても綺麗な靴です。不思議なパワーを感じます」
「えへへん、気づいちゃった?この靴にはね、壊れにくくする**魔法**が込められてるのよ」
**魔法!?** そんなの初めて聞いたぞ。やはり異世界だから存在するのか!この家には書籍があり色々見てたけど魔法についての本なんてなくて、ないものだと思っていた。
魔法かぁ。憧れるな。炎を出す魔法とか出来たらかっこいいよなぁ。
「魔法ですか?すごいです!!」
「ふふっ、レヴィ魔法を知っているの?」
「はい!水や炎を操ったり、自分の体力をあげたりできるものですよね!!」
「あはははは!なにそれ。そんなものは存在しないわよ」
ぽかーん。え、え、なにそれ違うの!魔法ってじゃあどういうこと?? 俺何か間違ってたこと言ったか?
「まあ、本当のことを言ったら存在しないことはないけど、操るってのは今の時代では無理ね」エレナは笑いながら首を振る。
「どういうことですかお母様」
「うーんとね、魔法っていうものが存在するとわかったのは最近の話なの。普通の人にはね、魔力というものがごくわずかに存在しているの」
「ではなぜ魔法の存在がわかったのが最近なのですか」
「それはね、これから55年くらい前かな。ある魔力についてとっても研究している人がいたの。そしてその人は、人間の魔力を制限している**リミッター**と言うものを見つけたの。彼はあろうことか、リミッターの制限をなくすことに成功したの」
そんなものがあったのか。
「でもその人は、その制限をなくす実験をしているときに不慮の事故で亡くなったの。その事故が**『魔法』**によるものだと調査によって解明されたわ。彼は一人で研究をするタイプで助手などは雇っていなくて、彼の研究室から見つかったわずかな資料を頼りに、今世界の科学者が魔法について研究しているのよ」
なるほど、この世界は一人の科学者によって魔法の存在を知ったのか。まだ普及がしていないということだろう。何かを操ったりする魔法はまだまだ遠い未来かもな。
「そして私は、その魔法について研究する科学者の1人よ!」エレナは胸を張った。
「うわぁ、とってもかっこいいです!!」
「でしょー。でもとても解明するのは難しくて行き詰まりが多く、魔法について研究する科学者が近年減ってきているの。でも私はどんなことがあっても諦めないわ」
「尊敬しますお母様」
エレナは満足げに笑みを浮かべた。
「レヴィ、ちょっといいか」ヴィンセントが声をかける。
「なんですかお父様」
「俺からのプレゼントだ」
渡されたのは、とても綺麗な**木刀**だった。持ち手にはレヴィの名が彫ってある。俺は思わずうっとりしてしまった。
「どうした、そんなに見つめて。気に入らなかったか?」
「あ、ありがとうございます!! ほんっとに嬉しいです」
「ヴィンセント!そんなもの渡してもレヴィは使わないわよ」
「何を言うエレナ。レヴィアスはとてもたくましい男になるんだからな!どうだレヴィ、俺と交えるか?」
「こらヴィン!」エレナが咎める声を上げたが、レヴィは堪えられなかった。
「やりたいですお父様!!」
「はははは!ほらなエレナ!レヴィもこう言ってるだろ」
「全くもー!ほら、してきなさい!」エレナは呆れつつも、笑みを浮かべた。
庭に出て。
「ヴィーーン!! ちゃんと手加減するのよ!」窓から見ているエレナが言う。
「わかってるってーー!!」
(剣を握るのは久しぶりだな……)
ヴィンセントは木剣を構える。彼の体格に見合った、重厚で実戦的な構えだ。
「じゃあ行くぞ、レヴィ」
「はい、お父様」
ヴィンセントは間合いを見ながら少しずつ詰めてくる。「レヴィ、緊張しすぎてるんじゃないか?ははは」
俺はグッと木剣を構えた。
ヴィンセントが飛びかかってきた**次の瞬間**――
**キンッ、**という甲高い音とともに、ヴィンセントの木剣は宙を舞っていた。
そして、ヴィンセントの後ろの地面に転がり落ちた。
ヴィンセントは、その落ちた剣を見ながら呆然としていた。
窓から見ていたエレナが叫ぶ。「な、なにが起きたのヴィン!」
「どーゆーことだ……」
ヴィンセントは記憶を辿る。
(俺は確かにレヴィに向かって剣を振るった、が、避けられた!? 確かに当てるつもりはないように振るったから間ができたのは確かだ。しかしそう簡単に避けられるか!? そして俺の剣!なぜ宙を舞っている。レヴィが剣を振ったのが見えたか?いや、見えなかった。何を仕掛けられたのかわからない)
ヴィンセントは真剣な顔でレヴィの顔を見て言う。
「レヴィ、今のどうやった」
「ええ、いやたまたまですよ。お父様が手加減をしてくれたからですよ」
「そ、そうか、そうだよな!レヴィはすごいな!!」ヴィンセントは無理に納得しようとする。
「レヴィ、すごいじゃない!家の中に戻りましょ!」
(少しやりすぎたな、剣を握るのが久しぶりだったけど意外とできるもんだな。父親のメンツを潰してしまったのは申し訳なかったな、負けるべきだったのに)
「レヴィ、お前は本当にすごいな!! さすがは俺の息子だ!」ヴィンセントは大声で笑い飛ばした。
「そ、そうかなお父様、」
「ああ、本当にすごいぞ!! お前は立派な剣士になれる!! **もしやしたら剣聖になんてなれるかもな**」
「まったくヴィンったら」エレナも呆れつつも、顔には笑みを浮かべている。
「お父様、**剣聖**ってなんですか?」
「剣聖ってのはな……」
剣を握った後ならわかる。俺の人生とは剣そのものなのだ。前世でも異世界でも、俺は立派な剣士になってやる。そして、**「剣聖」**になってやる!
ちなみにレヴィがずっと丁寧語なのはエレナがマナーにとても厳しい人だからです
こんな敬語使った経験ないから泣けるよ...




