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数合わせから始まる俺様の独占欲  作者: 日矩凛太郎
ファーストデート
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ファーストデート(3)

食事を終え、二人は席を立った。店の照明が外の夜風に溶け、街の光が二人の影を長く伸ばす。


「行くか」

「はい」


自然な声のやり取りに、浅見の心拍はまだ落ち着かない。足取りは緊張と期待で少し軽くなる。

店を出て、歩道に出ると、夜の冷たい空気が頬を撫でる。


「寒くないですか?」

「大丈夫。浅見さんの横だから」


 言葉の意味を咀嚼する前に、浅見はわずかに肩を寄せる。偶然のようで、確かに距離が縮まる。


 歩きながら、街灯の下で交わる視線。


「……さっきの店、居心地よかったですね」

「気に入ったか?」

「はい」

「なら良かった」


浅見の手元が少し揺れる。城崎の横顔が、暗闇と街の光で浮かび上がる。

信号待ちで立ち止まると、城崎がふと前を向いた浅見に軽く肘を寄せる。


 「……危ねぇ」

 「あ、すみません」

 ほんの短い接触でも、浅見の胸の奥は瞬間的に跳ねる。顔を赤くして視線を落とす。


 「……このまま駅まで行くか」

 「はい」


 並んで歩く距離が自然で、会話の間も苦しくない。言葉より、呼吸や足取りで互いを感じる時間。

途中、街路樹の影でふと立ち止まる。


「ん」

「え……あ、はい」


浅見の手を包むように、城崎が自分の手を差し出す。温もりが掌を伝って胸まで届く。


「……なんだか、不思議ですね」

「そうだな」


 互いの指が絡み合い、自然にリズムを合わせる。浅見はわずかに肩を寄せ、心臓の高鳴りを抑えきれない。


 駅の明かりが見えてきた。


「…ここまで来たな」

「はい」


 電車の音が遠くで響く。待合ベンチで少し立ち止まり、城崎は浅見の手をそっと握り直す。


「…」

「城崎さん?」

「いや、何でもねぇ」


顔を上げると、城崎の瞳が柔らかく光っていた。浅見はつい息を詰める。何を考えているのかは彼にしか分からない。けれども城崎の瞳には甘さを匂わせていて。それについ唾を呑み込む


電車がホームに滑り込む音が二人を現実に引き戻す。


「……じゃ、そろそろ」

「おう」


手を離すタイミングは自然で、でも心はまだ触れ合ったまま。浅見は控えめに手を振り、城崎もそれに応える。


電車が動き出すと、窓越しに互いの姿がすれ違う光の中で小さくなる。


「………(まだ、ドキドキしてる)」


胸の奥に残る温かさは、夜風にも、街の明かりにも消えない。


次に会う約束は土曜の夜。

浅見の頭の中で、服装や話題がぐるぐる回る。


「(……土曜、何話そう。何着よう……)」


電車のリズムに合わせ、胸の鼓動もまた夜に揺られる。

彼の手の温もり、視線、言葉のひとつひとつが、まだ熱く胸に残ったまま。


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