辛くないカレー。いや甘口じゃなくてよお。
本当に只の馬鹿話
「なんっっっで、わっかんねーのかなー、ミユキの奴。ほんっと、話通じねー。チクショウめー。全然違うだろーがよお」
「さっきから独り言がうるさいんだが。ロビーで不満を撒き散らすな。後輩たちが扱いに困って遠巻きにしてるだろ。彼女と喧嘩したのか」
寮のロビーで彼女への不満を垂れ流し続ける後戸宇の独り言にたまりかねて錫木が声を掛ける。
「ミユキのバカがっ、なんで俺の言うこと全然理解できねーんだよお」
「多分だが問題は『彼女の理解力』ではなくお前の『一方通行コミュニケーション』だ」
「俺辛いの嫌いなんだよお。だから、俺は辛くないカレーが食いたいっつったのによお。ただ辛みが薄いだけのカレー出しやがってよお」
「ん?辛みが薄い?辛口ルーを薄めたとかか?」
「何が『このカレーの王子さまより辛くない甘口カレーなんかないよ?』だよお。そーじゃねーだろーがよお」
「?じゃあちゃんと甘口カレーのルーを使ったんだな」
錫木にも後戸宇の言いたいことがさっぱりわからない。
「錫木って確か料理すんだろ?だったらわかるよな?辛くないカレーだぞ。ほら、辛いカレーよりまろやかでコクと深みがあって風味豊かでよお」
「そんな『旨い料理の最大公約数』みたいな形容詞並べられてもさっぱりわからん。今の説明、情報量がゼロだ」
「辛いカレーより赤っぽくてよお」
「赤っぽい?唐辛子の赤じゃないのか……?」
◇◆◇
翌日
「旨え!これだよこれー。まろやかでコクと深みがあって風味豊かでよお。錫木お前ホント料理上手かったんだなー。ミユキのとこに行ってこれが辛くないカレーだって言ってやってくれよお」
「俺が彼女に言えることはない。ただお前に言えるのは『さっさと彼女のとこ行って謝ってこい』だ」
「んあ?」
「お前が今食っているライスにかかっているのはカレールーではなく、具をデミグラスソースで煮込んだものだ。そしてそれをライスにかけた料理は日本では一般にカレーライスではなくハヤシライスと呼ばれている」
多分後戸宇は海外育ち