スキル【検索】は使えへん
「ケン〜! あとどんくらいで着くん?」
もうええかげん歩くんも飽きたし疲れた。
なんやもう少しやて言われた思てたけど。ぜんっぜん着かへんやんか。
目の前に光る画面がぱっと出た。
「読まれへんから読み上げてぇな」
まだ字ぃ読めへん私もしゃーない思うんやけど。
ほんま毎回言わんなあかんか?
『シューマウンターまでは――』
「ちゃうちゃう」
確かにおっきな街目指す言うたけど。
「こっからいっちゃん近い町までやて」
『現地点からは約五リッターです』
メーターぽいメッターが距離やないから、リッターが距離やな。
なんやかんやゆうて私もだいぶん慣れてきたな。
ま、五リッターがどんくらいかなんて全然知らんけど。
「時間どんくらいかかる?」
『約十メッターです』
十メッター。十メッターな。
メッターは時間やねんで。だから十メッターは……。
……ってあかん。やっぱどれくらいかわかれへん。
元の世界の単位との差、スキルに聞いてもわからん言われてんな。
ほんま肝心なとこで使えへんねんから。
なんか異世界転移ってやつをしたらしく。ある日突然まったく知らん場所に来てた。
そこでキラキラした人型が説明してくれたんやけど。
私は【検索】ってスキルが使えるんやって。
スキルのことは短くケンて呼ぶことにした。
知らんこと調べられるんはええんやけど、ケンはほんま融通利かんくて。
言葉はわかるようにしてもらえたけど字ぃは読めへん言うてんのに、毎回読み上げてて言わなあかんし。
同じもんのこと聞いてんのに、聞く度にちゃうこと言われんの、ほんまかなわんねんけど。
ケンはあくまで検索、要するに調べられるだけで、鑑定みたいに「わかる」わけやないってのはわかるんやけど。
スキルもレベル上がるらしいから。
ケンもそのうち使い勝手良うなったらええな。
せめてなんも言わんでも読み上げてくれんやろか。
ぶつくさ考えながら歩いとったら町が見えてきた。
どんくらい掛かったやろ?
結構掛かった気ぃするけど。
あほなこと考えながら歩くくらいやったら、数数えながらにすればよかったかもしれん。
ほんなら十メッターが何分くらいかわかったかもしれんのに。
て。まぁ今更ゆうてもしゃあないわな。
道は町の門に繋がっとって、あとは柵で囲まれとる。
遠目にはなんか家とちゃう、倉庫みたいなんが結構見えとんな。
門の前まで来たら、なんか書いてる看板みたいなんが下がってた。
「ケン。あれ何? 読んで」
『モスコリ。この町の名称です』
わかった。もうちょっとや思たん、町の名前のせいやってんな。
ほんまここて元の世界の言葉わかっとってふざけとるとしか思えん名前ばっかついとるもんな。
ここ来てまだそんな経ってへんけど。今までどんなけツッコんだか。
せやけどツッコんだとこでわかってくれる人おらへんのは寂しいねんけどな。
せめて相槌打ってくれる相手でもおったらええねんけど。ケンは私が話しかけんな答えてくれへんもんな。
町には簡易のギルドみたいなんがあって。ちょっとした依頼とか周りの情報とかが見れるようになっとった。
今んとこお金は余裕あんねんけど、調査職の私が受けれる依頼なんていっつもあるわけやないからな。なんかええのがあったら受けよかな。
見た感じいけそうなんは『セイバットの幼体の雌雄選別』ってやつくらい。
セイバットってなんやわからんけど。バットやねんからコウモリ……なわけないわな。
ひよこのオスメス分けるやつか?
難しいてゆうけどどうなんやろ?
「ケン〜。セイバットのオスとメスってどう違うん? 読み上げてな」
『セイバットの雌雄の区別は鳴き声で判別可能。一般的にオスは鳴き声が低く、メスは鳴き声が高い。嘴の開け方に差があるとの報告もあるが、正確さには欠ける』
嘴ってことはやっぱコウモリちゃうくてひよこの選別か。
でも鳴き方で区別つくんやったら、ケンに聞いててもろて判断してもらえばええんもんな。
いけそうやし、受けよか。
受付の人に依頼書と町の地図もろて、依頼主のとこに行って。
丸つけられたん、えらいでっかいとこや思てたら。外から見えてた倉庫みたいなやつやってんな。
中におったにいちゃんにギルドの登録証と依頼書を見せて、仕事しに来たて言ったら。
「リンザキスズナ、さん?」
ざぁ上げんといてや。
誰やねんりんざきて。
ここの人らて苗字と名前の概念あれへんから、イントネーションも区切るとこもほんま気持ち悪いねん。
「長いんでリンて呼んでください」
にいちゃんに言うてもしゃあないから言わんけど。
今更やけどこんなんなるてわかっとったら、はなっからリンで登録しとけばよかった思うわ。
案内された部屋ん中には、でっかい机に箱が三つ。
赤い箱と青い箱、真ん中の木箱に白くて丸いもんがぎゅうぎゅうなっとる。
ぴぃぴぃ鳴いとるあれがセイバットの雛やろな。
説明するて言われて机の前に来たけど。
白いもふもふん中、黒い目ぇと茶色のちっちゃい嘴が並んどる。
多少動物臭いのは覚悟してたんやけど、なんか全然やし。
それにこのビジュアルはあかん。
見るからに白いふわふわのまんまる。
なんか似てる……って、あれやあれ、ぬいぐるみのシマエナガ! めっちゃ欲しくてゲーセンで必死に取ったあれに似とるんや。
そう思たらなんやますますかわいなってきてまうな。
雛の選別したことないって言うたから、見本見せてくれることになった。
にいちゃん、わしっと一羽掴んで、反対の人差し指で頭を押す。
「ぴゃぁ」
「これはオスですね」
ぽいっと青い箱に放り込んで、流れ作業みたいにもう一羽引っ掴んで頭を押す。
「ぴゃっ」
「これはメス」
赤い箱に放り込む。
「こんな感じですね。どうぞやってみてください」
にいちゃん、にこやかに言うけど。
どないしよ、全っ然わかれへん。
今の鳴き声、何が違ったん?
もっとなんかコツとかないん?
しゃあないから、目が合ったあほ毛の子をそろっと持ってみる。見た目通りのふわふわやし、ほんのりあったかい。
まんまるの黒い目がこっちじっと見とる。
指であほ毛のつけ根を軽く押したらぴゃあって鳴いたけど。
あかん。ほんまわからん。
「……オス?」
「正解です! もう一匹どうぞ」
当てずっぽ当たってもうたやん。
青い箱に入れて、もう一羽手にとって。
「ぴゃー」
「……メス?」
「正解です! 素質ありますよ」
何言うてんの。全然わからんし。二択やし。
最終確認はするから少しくらい間違っとってもええ言われたけど。
ケンに任すしかないな。
「ケン、この子オスメスどっち? 読み上げて」
にいちゃんが部屋出てから、木箱ん中のを一羽掴んでケンに聞く。
『該当項目がありません』
「待ってな。今鳴いてもらうから」
頭を押すと、ぴゃっと鳴く。
「これでわかるやんな?」
『該当項目がありません』
「なんで??」
ほかの子に変えて何回やっても答えてくれへんねんけど。
該当ないて、どないなっとるん?
「ケン、セイバットのオスメスの違い読んで」
『セイバットの雌雄の区別は鳴き声で判別可能。一般的にオスは鳴き声が低く、メスは鳴き声が高い。嘴の開け方に差があるとの報告もあるが、正確さには欠ける』
「やっぱ知っとるやん??」
知っとんのになんで無理なん?
もしかしてサンプル足らんとか?
「ケン、オスメスわかってる子に何回かずつ鳴いてもらうから。次からそれと比べてな」
『音声の検索はできません』
……今なんて言うた?
検索できひん?
「せやけどケン、あんた私の言うことわかっとるよな?」
『音声認識は可能です』
「せやったら鳴き声比べんのもできるんとちゃうん?」
『音声の検索はできません』
「何がちゃうの??」
そういやケンが検索できんのは、紙に書いとることだけやったっけ。
何デシベルならオス、とか書かれとったらケンにもわかるかもしれんけど、音と音を比べるんは無理っちゅうこと、か……?
木箱の中ぎゅうぎゅうのセイバットたちがこっち見とる。
てことは。私は自力でこれ仕分けなあかんてことやん……。
あほ毛のオスの子が見分けつきやすかったから、基準になってもろて。
その子とほかの子を比べてどうにかオスメス分けた。
「ありがとな。助かったわ」
何回も何回も鳴いてくれたあほ毛の子の頭を指で撫でて、最後に青い箱に入れようとしてんけど。さっきまでおとなしかったのに急にジタバタして、手から逃げてもうた。
「あ、ちょー待って」
机に着地したあほ毛の子、置いてた反対の腕にすりすりしてくんねんけど?
掴もうとしたら、なんかじっとこっち見とる。
あかんてもう。かわいすぎやて!
かわいすぎやけど!
「……ごめんやで」
旅暮らしの私にはどうもできへんもんな。
ぴぃぴぃ鳴くあほ毛の子の背中を撫でてから、青い箱に入れた。
途中でにいちゃんが進み具合を見に来てくれて、終わるころにまた来る言うてたから。そのうち来るやろ。
それんしても。ほんま疲れた。
スキル当てにしとったのに全然使えへんし。
まぁかわいかったからええけど。
青と赤の箱の中、ぴぃぴぃ鳴いてるセイバットたち。
あほ毛の子、まだじっとこっち見とるな。
そういやなんでオスメス分ける必要があるんやろ? この子らもニワトリみたいに卵産むんやろか。
そういやこの世界にも卵料理も鶏肉料理もあるけど。
あれってニワトリおるから、やんな……?
「……ケン。セイバットってどんな生き物?」
浮かんだこと、否定したくてケンに聞く。
目の前に光る画面。
あぁもうほんまに。
「読んでぇや」
『セイバット。魔物』
魔物やったん??
『主に食用とされる』
……やっぱ、そうやねんな……。
元の世界でも卵や鶏肉のこといちいち「ニワトリの卵」「ニワトリの肉」てゆわへんのと一緒やってんやろけど。
ここでの卵と鶏肉はセイバットって魔物のもんやねんな。
てか魔物で鳥やのに「聖」「コウモリ」って。ほんまふざけてるやろってツッコみたいねんけど。
あかん。もう青い箱見られへん。
あほ毛の子、せめてメスやったらよかってんけど。
……どっちにしたかて何様やねんてな。
私にはなんもできんのに。
「……なぁケン。セイバットのこと教えてくれる?」
なんもできんけど。
せめて知ろう思て聞いてみる。
『セイバットは環境進化する魔物であり、食用目的で家畜化させて飼うことが一般的となっている』
環境進化て初めて聞いたわ。
『また、野生下のセイバットは環境に合わせ進化をしており、体の形態が異なる』
つまり環境適応のことやな。
ちゅうか野生もおるんや。
『主な進化系統は、家畜、平原、山岳、砂漠、水辺。特異な環境に置くと、多少特徴の異なる変異進化やどの進化系統にも当てはまらない亜種進化をする例もある。確認されている変異進化の数は六百三十四例あり、家畜化からの変異進化数は――』
「詳細いらんから。次」
『亜種進化の――』
「それもいらん。次」
六百なんぼも聞いてられへん。
それんしてもセイバット、めっちゃ色々進化すんねんな。
『基本的に戦闘能力は低く、従魔として利用する者は少数』
「待ってケン。従魔ってできるん?」
ようマンガとかにあるあれやんな。
一緒についてきて戦ってくれるやつ。
『ギルドで承認を得られれば、魔物を従魔として同行させることが可能となります』
承認されるかどうかは、どんなけゆうこと聞くからしいけど。
セイバットは弱いし小型やから、そのへん甘いらしい。
要はゆうこと聞かんと暴れた時に責任取れるかどうかってことやねんて。
てことはやで?
いけるかもしれんてことやんな??
にいちゃん来るんを待ってられんくなって、部屋から出てんけど。
なんか怒鳴り声聞こえとる。
「だから! やっぱりオスじゃないのかって」
「ちゃんとそちらに出向いて、すべてメスだと確認しましたが……」
「それが間違ってるんじゃないかって言ってんだよ」
開けっ放しの入口を挟んで、若い男の人がにいちゃんに怒鳴り散らしとった。
私に気ぃついたやかましいにいちゃんが、ちょっとムスッとした顔のままこっちを見てきて。つられて振り返ったここのにいちゃんが、なんやしょうがなそうな顔をする。
「すみません、おまたせして……」
「どうかしはったんですか?」
なんとなく話はわかっとったけど、わざとそう聞いてやかましいにいちゃんを見る。
口閉じるあたり、そこまで面倒なやっちゃやないみたいやな。
「いえ、その……」
「もしセイバットを買いに来たなら、ここはやめといた方がいいぞ。オスメス区別がつかないみたいだからな」
あ〜あ、もう。しょうもないイヤミ言うてから。
「ですから間違ってなど――」
「じゃあどうしていつまで経っても十匹全部が卵産まないんだよ?」
やかましいにいちゃんがまた騒いどる間に、こっそりケンに聞いたんやけど。
セイバット、大人になっても鳴き声からしかオスとメスの区別つかんらしい。
まぁそら難儀やわな。卵産まんかったらわかれへん。
でも一、二羽間違えるんならともかく、全部違うとかあり得へんと思うねんけど。
となると、なんか産まへん理由があんのかもな。
「なぁケン。メスのセイバットが卵産まん原因ってなんかあるん? 読んでな」
『未成熟、健康状態の悪化、加齢、必要性の消失』
「必要性?」
『野生下のセイバットはメスのみでは産卵しないことから、家畜化セイバットは産卵することで世話をされると認識していると思われる』
「ほんならあのやかましいにいちゃんのセイバットは家畜化してへんてこと?」
『異種、または亜種進化の可能性があります』
そうなんや。
ちょっとやかましいにいちゃんから詳しぃ聞いてみよかな。
せやけどスキルのこと説明すんのもめんどくさいから。
「その情報、なんの本に書いてたん?」
『本ではなくコーケコウの観察手記によるものです』
「ニワトリやん」
ニワトリがニセエナガなニワトリもどきの観察しとんのかいな。
ほんまあほな名前ばっかりやな。わざとつけてるとしか思えんわ。
「あの、すんません。おにいさんってどんな風にセイバット飼ってはるんですか?」
ちょっとピリピリし始めたにいちゃんたちの間ににゅって入ったら、めっちゃ変な顔された。
空気読めよって顔されとるけど。
私かてしゃあないからやってるだけやっちゅうねん。
「なんだよ急に」
「私、コーケコウって人の書いたやつ読んだことあるんですけど、なんかメスしかおらんと卵を産まないことがあるって」
「えっ」
反応したんはここのにいちゃん。
「コーケコウって、あの有名な」
ニワトリそんな有名やったんかい。
ニワトリゆうて悪かったかな。
やかましいにいちゃんまでなんやびっくりしとるやん。
ニワトリ、ほんまに有名やねんな。逆に驚くわ。
「た、卵を採るんだからメスだけで当たり前だろ! それにうちは一匹一匹部屋を分けて世話をしてるんだ。そこらの施設よりずっと快適で、いい卵が採れるはずだ」
やかましいにいちゃん、えらそうに言うとる。
てゆうかそれって、快適すぎて家畜化せんかったんかもな。
ニワトリが書いてたて言うて、ケンから聞いた話をやかましいにいちゃんにもしたら、同じこと思たみたい。
家畜化せんまま卵採れたら今までとちゃう卵になるんちゃうか、てゆうから。
いつの間にかここのにいちゃんも一緒んなって、三人で考えとってんけど。
野生のセイバットと同じような状況なんやとしたら。
オスがおったらええんとちゃう?
ここのにいちゃんが伝手で成長したオスのセイバットを手配してくれるてことになって。
やかましいにいちゃんも、交配できんような形でオスが見えるように工夫する言うて帰ってった。
上手くいったら二、三日で卵産むかもしれんゆうから。私もそれまでこの町に居ろかな。気になるしな。
巻き込んですみませんて悪ぅないのに謝ってくれるにいちゃんに、私も考えてたことを言う。
さっきのセイバットを一羽買うて従魔にしたい言うたら、にいちゃんびっくりしとったけど。
お礼にどうぞ言うてくれた。
にいちゃんと一緒に仕分けしとった部屋に戻って、青い箱見たら、やっぱあほ毛の子がこっち見とる。
「一緒に来るか?」
前に手ぇ出したら、あほ毛の子、ぴょんて乗ってきて、そのまま肩まで上がってきた。
「ぴい〜。ぴぃ〜〜っ」
あほ毛の子、鳴きながらほっぺたにくっついてくる。
もふもふのくせに、結構ぐりぐりなるのなんでやろな。
「わかったわかった。これからよろしゅうな」
そろっと掴んで、目の前持ってくる。
嬉しそうなん、多分気のせいやないよな。
にいちゃんに基本的なお世話を教えてもろて。
宿戻る前にギルドに登録申請した。
宿で聞いたら、部屋汚さんように気ぃつけるだけでええんやて。
セイバットは魔物やから食べたもんを魔力に変えて生きとるらしくて、うんことかせんねんて。羨ましいわ、ほんま。こっち道中どんなけ困っとる思てんねん。
卵を産むかどうか待たなあかんし。
その間暇やろから、ケンに色々聞いとこかな。
にいちゃんには明日も仕分けに来るかて言われたけど断った。
もう無理。これ以上やったら食えんくなる。
卵料理も鶏肉料理も美味しいんやもん。
手の上で遊んでたあほ毛の子がびくっとしとった。
ごめんやて。でも美味しいご飯は大事やねん。
初めて食堂入った時、鶏肉の焼いたんあってめっちゃ嬉しかってん。
こっち来てからずっと知らんことわからんことばっかやったから。わかるもん食べれたんが、ほんま嬉しかってん。
まぁぶっちゃけ私の思とる鶏肉とはちゃうかってんけどな。
そういやこっち来てから米食べとらんな。
親子丼食べたなってきたわ。
せやけど米やら醤油やら今まで見かけへんし。なんかなさそうやねんなぁ……。
「ぴぃ」
「ん? あ、ごめんな、しんみりして」
あほ毛の子、励ましてくれたんやろか。
かわええなぁ。
「そうや。名前つけたらなな」
いつまでもあほ毛の子ゆうのもかわいそうやしな。なんかええのないかな。
…………タッキー……ってあかんあかん。これつけたらあかんやつ。
セイバットからなんかもじれへんかな。
セイじゃ女の子っぽいし。バットは別の意味であかん。縮めてセイバ……セイバーやったら守護者っぽいけど。もっと縮めてセバ……あ、セバスでええんやない? セバスちゃんで。かわええし。
「セバス、でええ?」
「ぴい!」
ええみたいやな。
知らんけど。
「セバスちゃ〜ん!!」
「ぴぃっ!」
「あ〜もう、ほんまあんたはかわええなぁ〜」
ほわほわのセバスちゃんを両手で包み込んでわしゃわしゃする。
「ぴゃっ、ぴゃあ」
「この辺好きやろ、知っとんねんで」
「ぴゃあ〜」
このもふふわ触感、その下は生き物やなぁて感じにぬくくて柔らこぅて。ぴぃぴぃゆうてジタバタするくせにやめたらやめたで手の下に潜り込んできよるし、そんでも知らんぷりしとったら手の下からじっと覗いてくるんやもん。もうこれかわええ以外のなんやゆうんやろな。
「あ、あの……」
なんやっっ??
いつの間にか部屋の扉が開いとって、にいちゃんがすまなそうに立っとる。
「すみません……。何度もノックしたんですけど……」
「あ……と、すんません……」
いつから見とったん?
あぁもう恥ずかしいわほんま。
あれから二日、にいちゃんとこにあのやかましいにいちゃんから連絡が来たらしく。呼びに来てくれた。
やかましいにいちゃん、卵産んだってめっちゃ喜んでて。
食べてみて、て。にいちゃんと私に分けてくれた。
正直私はあんまわからんかってんけど。
食べたにいちゃんのテンション、ハタから見ててもわかるくらい爆上がりして。援助するからこの町の名物にしていこうとかなんとか言うとった。
まぁ仲良うなったんならそんでええわな。
無事卵も産むようなったし。
またおっきな街目指して出発することにした。
「行くでセバスちゃん!」
「ぴぃ!」
返事してくれるツレができて嬉しいわ。
「そうやケン。シューマウンターまでの間にまた町ある?」
目の前に光る板。
ああもうまた忘れてた。
「読み上げてて」
『直線距離上にある町は――』
「普通道沿いやろ?」
「ぴゅい?」
ケンは相変わらずどうしょうもないけど。
賑やかんなったな、ほんま。
どうせ目的もなんもない旅やし。
まぁ、気楽にいこか。
お読みくださりありがとうございます!