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第7話 幼馴染さんの腕前

 スト6のモード選択画面から、VSモードを選ぶ。

 基本的に俺はオンラインのランクマッチ(RM)しかやらないから、オフラインのVSモードをスト6でプレイするのは初めてだ。

 一応オンラインモードでは〝マスター〟という称号を得るところまではいった。でも、そこから全然勝てなくなって、今では気分が向いた時にたまにやるくらいだ。莉音と付き合うようになってからはゲーム自体殆どしなくなっていたので、随分と腕が鈍っているかもしれない。

 キャラクター選択画面に移って、それぞれキャラを選ぶ。

 俺は慣れ親しんだ豪拳を選択。もちろんクラシックモードだ。

 豪拳は金剛力士がモデルとされていて、スト6の中では割と強キャラとされていた。この前のアプデで大分能力がナーフされてしまったが、それでも十分強いキャラに入る。豪拳でマスターランクまで行っているので、まあさすがに初心者には負けないだろう。

 一方の詩依は誰を選ぶのかと思えば、女性エージェントキャラのケイミーだった。しかも、彼女もクラシックモードを選択している。

 スト6にはクラシックモードとモダンモードというのがあって、クラシックモードは従来のストファイシリーズと同じくコントローラーにある6つのボタンで操作をするものだ。対して、モダンモードは使用ボタン数が4つに減っており、弱中強攻撃用ボタン3つと必殺技用ボタン1つに振り分けられている。また、必殺技を出すために必要なコマンド操作も省略されており、所謂初心者向けのモードとされていた。

 てっきり詩依はモダンモードで挑んでくるものだとばかり思っていたから、クラシックモードを選んだことには驚いた。なかなか舐められたものだ。

 とはいえ、6ボタンゲームパッドをわざわざ買っているのだから──ノーマルのコントローラーに対して、こっちの方がクラシックモード向けのコントローラーとされている──最初からクラシックモードをやるつもりでスト6を買ったのかもしれない。

 ……って、あれ? もしかして詩依、実は結構強いのでは?

 一瞬そう思ったけれど、小学生時代にやっていたスト5をプレイする詩依を思い出して、それはないかと思い至る。当時も一生懸命頑張っていたけれど、決して格ゲーが上手いという部類ではなかった。


「そういや、詩依って昔からケイミー使ってたよな」


 詩依がバトルステージとBGMを選んでいる間に、ふと昔のことを思い出して、そう漏らす。

 スト5が出た初期くらいは詩依とも遊んでいたのでよく対戦していたけれど、当時から彼女はケイミーを使っていた。


「うん。私、かっこよくて強い女の人に憧れてるから」


 どこか懐かしそうに目を細めて、詩依が答えた。

 

「かっこよくて強い、ね……」


 ちらりと隣の詩依を見る。

 どう見てもかっこよくて強いとは程遠い、華奢で楚々とした美少女がそこにいた。

 っていうか……こうして考えてみると、当時の俺ってめちゃくちゃ恵まれていたんだな。こんな可愛い幼馴染がいて、毎日遊んでたなんて。

 中学の頃も一緒に過ごしていたら、今の関係もまた変わっていたのだろうか? ……などと考えているうちに、ステージとBGMが決まり、画面がバトルステージに移り変わっていた。

 詩依はやや緊張した面持ちでコントローラーを構えている。


 ROUND1 FIGHT!


 いよいよ戦闘が始まった。

 まあ、詩依はまだスト6始めたばかりみたいだし、さすがに初手からボコボコにするのも申し訳ない。ちょっと手を抜いて──


「って。えっ、あれ? ちょ、詩依? 待っ──」


 気付いた時にはコンボ技で一気に画面端まで詰められた。苦し紛れに打ったドライブインパクト──全キャラ共通の性能を持った打撃技だ──も簡単に返されてしまい、体勢が崩される。

 そこからはやられたい放題だ。画面端でコンボをボコボコと使われまくって、最後に超必殺技まで決められてしまった。


 K.O.PERFECT!


 デカデカと表示される、屈辱的な文字。

 何もできず、一方的にハメ殺された。格ゲーマーとして一番屈辱的な負け方だ。

 おいおいおい、なんなんだよそのコンボは! 強すぎるだろお前! しかもインパクトも返されるし!


「あ、れ……? 勝っちゃった?」


 勝った張本人はというと、どこか拍子抜けというか、肩透かしを食らったかのようにポカンとしいてた。

 なんだその、『俺なんかやっちゃいました?』みたいな顔は。どこのキ〇トだ。そうだよ、勝ったんだよ! パーフェクトで!


「い、今のはちょっとした様子見だから。さすがに久しぶりにやってボコボコにするのもどうかと思ってさ……け、結構やるじゃねーの」


 余裕の笑みを作ろうとするが、頬がひくひくと引き攣ってしまう。

『手加減してやるか』が聞いて呆れる。いざ始まってみればただのサンドバッグ状態で、完全に想定外の強さだった。まるで練習台にされてるみたいに、詩依のケイミーが技を発する度に俺の豪拳の体力が消し飛ばされている。

 これはもう手加減なんてしてる場合じゃない。


「よ、よーし。俺もちょっと本気で戦っちゃおっかなー。昔みたいに泣くなよー?」

「……泣いてないよ」


 詩依が眉を寄せて、不服そうな顔をした。

 嘘を言え。めちゃくちゃめそめそ泣いてたじゃないか。

 手加減しても怒るし、本気でやっても負け続けたら泣くし、あんまり詩依をいじめるなと俺は親から怒られるし……割とストファイはいつも勝ち負けの塩梅に困っていたのだ。

 俺は別に他のゲームで遊んでもよかったのだけれど、彼女の方からいつもストファイもリクエストしていた。多分、俺が格ゲー好きだったから気を遣ってくれていたのだろう。

 思えば、俺がいつも遊び相手として付き合っていたように思っていたけれど、実の所、詩依が俺の遊びに付き合ってくれていたのかもしれない。


「今度は私が桃真くんを泣かしちゃうから」

「ケッ、やってみやがれってんだ」


 そうして第2ラウンドが始まる──。

 結局、それからシチューが煮込むまでの間、俺たちはずっとスト6で遊んでいた。

 詩依はとにかくコンボの練習をしまくっているようで、一旦コンボが入るとまあやりきるまでミスらない。対空技もちゃんと出してくるし、こっちが一瞬でも油断をすると、屈辱的な負け方を喫してしまうのだ。めちゃくちゃ練習しているのがよくわかる。てか、普段大人しくて引っ込み思案なくせに、何で格ゲーは〝ガン攻めスタイル〟なんだよ!

 もちろん、俺だってずっと負け続けていたわけではない。でも、負けた時の悔しさの方が大きくて──大体負ける時は一方的に負けるパターンが多いからだ──歯ぎしりするのを我慢するので必死だった。

 一方の詩依の方はと言うと──


「えへへ。負けちゃった」


 意外にも勝ち負けには拘っていないようで、勝っても負けてもいつも笑っていた。まるで、ふたりで遊べるのが何よりも嬉しい、とでも言いたげに。そんな風に笑われたら、余計に怒れなかった。

 ちなみに、最終的な戦績は……9勝10敗。

 まさかの俺の負け越しで終わるという、悲し過ぎる結末が待っていた。



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