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恋人をNTRれて絶望していたら、清楚可憐な幼馴染がやたらと俺を構ってくる。  作者: 九条蓮
第三部

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第62話 幼馴染から恋人へ

 花火大会で想いを伝えあって、無事〝幼馴染〟から〝恋人〟に関係が変わった俺たち。

 あれだけ愛を語り合って、明日からどんな風に俺たちは接するのだろうか? なんて疑問に思っていたのだけれど──


「い~た~い~! や~め~て~よ~!!」

「うるせー! 二本連続パーフェクト勝ちされておちおちヨシヨシなんかしてられるか!」


 清楚可憐な幼馴染──雪村詩依(ゆきむらしより)は、俺のぐりぐり攻撃で涙目になっていた。

 もちろんちゃんと加減をしているし、本気でやっているわけではない。ちょっと痛い、くらいの力だ。

 こうなった過程は、一昨日交わした約束に起因する。


『もっと撫でてほしい?』


 こう訊いた俺に対して、彼女は恥ずかしそうに小さく頷いた。

 ただ、学校の昇降口ということもあって、『続きはスト6で俺に勝ったらな』と伝えた。


『わかった……じゃあ、桃真くんのこと、またボコボコにする』


 これが詩依が言った言葉なのだけれど──この幼馴染はまさしく宣言通りに俺をボコボコにしやがったのだ。

 二本連続コンボでハメ殺されパーフェクト負け。格ゲーマーならわかると思うが、これはもうブチ切れる。開始前まではちゃんと負けても撫でるつもりだったけど、こうも屈辱的だと終わった頃には血管が切れていた。

 というか、こうやって改めてグーで挟み込んでみると、ほんとに顔ちっさいな。なんだか、これ以上力を込めると壊れてしまいそうだ。

 可哀想になって両拳を離してやると、こめかみを擦りながら恨めし気な視線を送ってきた。


「桃真くん、嘘吐きだよ……撫でてくれるって言ったのに」

「やかましい。撫でてほしいならもうちょっと気を遣った勝ち方をしろってんだ。レバレスに転向したばかりのひよっこを遠慮なくボコりやがって」

「パッドに戻せばいいのに」

「一回変えたらもう戻れないんだよ」


 実力がほぼ互角──というか、最近はもう詩依もマスターに上がってしまってもはや俺の方が格下まである──だったのにここまで差がついてしまったのには原因がある。俺が6ボタンパッドからレバーレスコントローラー(通称:レバレス)へとコントローラーを変更してしまったからだ。

 もともと対空技の発動速度や入力精度で6ボタンパッドに限界を感じていて、遂にはマスターランクに上がった詩依にも歯が立たなくなりつつあった。それもあって、こっそりとレバレスを買って転向したのだが……まあ、これが難しい。

 使用感が全然違うというか、これまで感覚的にできていたことが何一つできなくなって、初心者に毛が生えたレベルにまでヘタクソになってしまった。もはや別ゲーだ。

 ただ、対空技の発動は速いしコンボの精度も上がったので、将来性はあった。操作感が慣れてパッドと同じくらいまで動かせるようになれば、以前よりも確実に強くなるのは間違いない。

 でも、そこまでになるまでにどれくらい時間が掛かるかについては、想像がつかなかった。個人的に、一か月か二か月は余裕で掛かる気がする。もうちょっと戦えると思ったけれど、五月の頃より段違いで強くなってしまった詩依のマスターケイミー相手にレバレス転向直後の雑魚豪拳では相手にならなかった。


「今日は別のゲームにしよ? 私もぐりぐりされたくないし」

「……だな」


 お前じゃ相手にならんと煽られている気がしなくもないが、実際に勝負にならないのだから、仕方ない。


「何がいい?」

「ふたりで協力できるのがいいな。あ、あと怖くないやつ」

「おっけ。なんか探しとくよ」


 俺はPSストアを開いて、何かできそうなゲームがないかを探していく。

 昔のゲームなら直接ダウンロードできるので、今ソフトを持っていなくても何か適当に遊べそうなゲームを見繕っていけばいい。


「じゃあ私、お茶淹れてくるね」


 詩依はソファを立って、台所へと向かった。

 ぱたぱたとスリッパの足音が遠のいていって、こっそりと小さく息を吐いた。

 昨日あれだけ熱烈なキスをしまくっていたのに、まるでそんなことなどなかったかのように、交際以前の時みたいになってしまっている。いきなり幼馴染から恋人に昇格したものの、お互いに恋人としてどう振舞えばいいのかがまだ掴めていないのだ。昨日は花火と告白の勢いがあったから突っ走れたが、今日みたいに日常感が強いと恋人モードになれない。

 そもそも、今日だって会う予定はなかった。

 それなのに、俺たちが付き合い始めたことを察知した詩依の母親が『ちょっと遊びに行ってくるから詩依のことよろしくね』と詩依をうちに押し付けてきて、母さんも母さんで『あたしも見たい映画あるから』とそのまま一緒に出て行ってしまった。

 結果、俺たちは何の心の準備もなく、殆どハメられた形でふたりきりで過ごすことになってしまい……とりあえずゲームをすることで場を和ませようとなって、今に至る。

 親同士が協力する、と言っていたものの、これは協力ではなくて慌てふためく俺や詩依を見て楽しんでいるだけではないだろうか。いまいち納得できない。

 ……おっ、これなんかいいんじゃないか?

 一覧を見ていると、詩依のリクエストに合致していそうなゲームが見つかった。


「マイクラのダンジョン版みたいなゲームあるんだけど、これにする? 協力しながら進んでいくっぽいんだけど」


 ちょうど台所から詩依が戻ってきたので、訊いてみた。


「そんなのあるんだ? 難しくないかな?」

「マイクラだし大丈夫だろ」


 言いながら、ダウンロードボタンをポチる。

 そういえば協力型のゲームなんて全然やってなかった。最近はスト6ばっかりだったし、こういうゲームをするのもありかもしれない。

 そんなことを考えていると、詩依がテーブルに紅茶を淹れてくれて、隣に腰掛けた。

 心なしか、さっきより少し距離が近い気がする。

 テレビにはダウンロード画面が表示されていて、どこかPSのサイバー空間っぽい音楽だけがリビングに流れていた。

 ちらりと隣を見ると、俺の左手のすぐ近くに、彼女の右手があった。何となく、繋いでほしいと言わんばかりの距離感だ。

 ……付き合ってるんだし、いいよな?

 自分にそう言い聞かせつつ、遠慮がちに彼女の手の甲に触れてみた。すると、彼女も手のひらを上にしてくれて、自然と指先まで重なっていく。

 惹かれ合うようにして、視線が結び合って。

 俺がほんの少しだけ身を乗り出すと、詩依もそっと瞳を閉じた。


「えへへ……しちゃった」


 恥ずかしそうにはにかむ詩依はただただ可愛くて。

 さっきまで〝幼馴染〟だった空気が、一気に〝恋人〟のものへとなっていた。

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