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死と生とその狭間で…Ⅲ

死と隣あわせの生を見たエリーザベト。

ルドルフの亡きあとの決意は?

1897年5月4日末の妹ゾフィー・シャルロッテがパリのバザールの火災事故で焼死したの。

我が家はどうして普通の死に方が出来ないのかしら?


悲しみでどうにかなりそう。

ちょうどその知らせを聞いたイルマが休暇明けでシェーンブルグ宮殿に来ていたわ。

夫に手を引かれて会ったわ。

とても心配そうな顔をしていて、私は出来るだけ優しく微笑んで彼女に心配をかけさせないように心がけた。


イルマはとてもその微笑みの意味を理解していたのか。どれだけの心を語っていたのかと理解してくれ、心が暖かくなったと思ってくれたみたい。


妹はバイエルン王のルードヴィヒ二世の婚約者だった。

彼は祖父に似てこだわりと執着が強くて、とりわけワーグナーと中世の世界を今のこの世界で実現しようとオペラに城の建設にと全精力を傾けた。

バイエルンの政府はそれを苦々しく思っていたの。

とりわけ叔父のルイポルドと接近して彼の失脚をねらったの。


妹は確かにルードヴィヒと仲がよかったわ。

でもでもね。


それは恋とは愛とはそういうのではないと思うわ。

何故?

二人から熱っぽさが感じなかったもの。

妹は王を憧れの対象でまさに理想の王。

アイドルと一緒ね。


ゾフィーの押しがバイエルン王のルードヴィヒなのよ。

実は少女時代からゾフィーは恋に熱中するタイプで、実家に帰った時には恋話を散々聞かされたわ。

婚約中に我が家出入りの写真家の息子と恋仲になった事があるのよ。

お相手は身分違いの相手。


召使達に手配してもらって内緒でお付き合いしていたけれど、結局バレてゾフィーは別れさせられた。


姉と私以外の妹達は意外と奔放でしょ。

ある意味羨ましいわ。


ゾフィーはフランス王室の親族アランソン公子と結婚したの。

夫が家長になった後、アランソン公爵夫人になったのよ。

彼もモーレツなアタックを受けてね。 


だけど当時はアランソン公爵一家はロンドンに亡命中だったから妹はイギリスに渡った。


結婚して長女を出産しても舅とそりが合わなくて、とうとうゾフィーは鬱病になってしまって。

夫がポッセンフォーヘン城に一緒に静養していたのよ。

ゾフィーは元気になったけど、ルードヴィヒの死を知ってまた鬱病が再発してしまったの。


メラーノで長男を出産したのだけど、結局静養を繰り返して当時の静養先の主治医の精神科医と恋仲になって離婚まで口にする始末。


アランソン公一家はゾフィーを精神的な病にして、療養所に入れて治療させた。

そしてその思いをとどまらせたの。


それからは慈善活動に力を入れる様になりバザーも彼女が主催者の一人だったの。


突然会場が炎に包まれてあの子ったら、少女を先に逃がしてと…自分は残ったの。

遺体の歯からから何とか彼女であると確認して荼毘にふしたの。

最後は祈りの姿勢で発見されたそうよ。

本当に事故だったのかしら?

覚悟したような……死に場所を探していたように…思うの。

あの世で聞けたらいいかしら?



可愛らしかったゾフィー…自分らしく生きれたかしら?


そして最後に残された姉妹は私、マリア・ゾフィー、マチルダの三人だけになった。

私はしばらく欝気味で過ごさなくてはならなくなった。


「呪いがますます強くなる。いつかは終わるのよ。永遠の休息はきっと素晴らしいでしょうに」


またヴァレリーにそう言って困らせた。



**********************************************



そう亡くなる命もあれば生まれおちた命もあったのよ。


もっと年代はあがるけれど16歳でお嫁に行ったギーゼラが1874年に公女を翌年にも公女を生んだわ。

その後に2男に恵まれて4人の母親になったの。


私は37歳で祖母になったの。



何だか嫌だわ。


生まれたても赤ん坊は元気で力強くてギーゼラにそっくりだった。


私は孫にも生まれてくる命に喜びを得る事が出来なくなっていたから。

長女の時は朗読係のイーダに貴方がいなくて淋しい。二人は百年は生きそうに元気だからここに長くはいないと思うなんて書いたりしてしまった。

次女の誕生の時にウイーンにいるルドルフへの手紙に思わずこう書いてしまったの。


「赤ん坊は元気よ。すごい声で鳴いているわ。

 とても醜くてギーゼラの子供の頃にそっくりよ」


ひどい祖母よね。

ギーゼラが生まれた時はそんな事思わなかったはずなのに……。

挿絵(By みてみん)


83年にはルドルフに女の子が生まれたわ。

マリー・エリザベートよ。

さすがにその時は醜いとは言わなかった。


私は知らなかったけれどこの子は貴賤婚をした後夫婦仲が悪くなってね。

離婚裁判で親権を取られそうになった時社会党員の男と親しくなりその後結婚したの。


新しい夫の社会主義に大きな強い影響を受けたので「赤い皇女」と呼ばれたそうよ。


晩年社会党がナチスの迫害を受けた時、夫は収容所に送られたの。


彼女はナチ党員が自宅に侵入した際に「父はオーストリア帝国皇太子、祖父は皇帝よ」と言って恐れる事無く毅然と奴らを制ししたそうよ。


この時にミュンヘンのコレラ患者の収容されている病院の慰問に行かなくてはいけないと急遽訪問したの。


患者の一人は脱水症状が激しいのにもかかわらず汗をかいていて、彼が私の手をとろうと手をのばしたの。


「死ぬのでしょうか?」


私はそばに寄っていったの。


「いいえ。神の助けがあるはずです」


「陛下…ありがとうございます…神が生かしてくれるかも…神の祝福が陛下の上にありますように」

悲しく微笑んだその彼が数時間後永眠したと聞く。


「亡くなったあの青年がいつか天で喜びのうちに私を迎えてくれるでしょう」

そうマリーに言ったら困った様に黙って私の着替えを女官に指示していた。



ルドルフが死んだ後にマリーヴァレリーが長女を出産したの。

赤ん坊はとても綺麗な顔をしていたわ。

すごく可愛らしくて不思議と興味深くてずーと見ていられた。


でもこんな悲しい世の中に生を受けるのが可哀そうで嬉しいとは思えない。



こんな事だかり書いて酷い母や祖母だと思うわね。

だからと言って孫達を無視していたわけでないのよ。

挿絵(By みてみん)

旅先で知り合った。

おもちゃ屋さんや楽器店で孫達に贈物を届けたりもしていたのよ。


偶然入ったおもちゃ屋で主人が愛想よくやってきたの。


「この人形は私の孫がとても気にいるわ」


そう言ったら主人が眼を丸くして言ったのよ。


「また御冗談を。貴方のようなお若い方が御婆様なはずはありません」


「いえいえ。もう4人も孫がいるのですよ。

 じゃあ明日もう一回訪問しておもちゃを買うわ()()()()()()()()()()()()()()()に届けてください」


主人は目の前にいる私の身分がわかってはっとして何度も腰を折って謝罪のお辞儀をしたわ。


「大変失礼いたしました」


私はクスクス笑って言ったのよ。


「貴方は少しも失礼ではありません。

 それどころかとてもお世辞がお上手ですよ」


私は人嫌いと言われているけれどお話は好きだわ。

私という人を見てくれたらそれだけでいい。

民衆は嫌いよ。

私を皇后だという色眼鏡で見られるのは耐えられないだけ!


普通でいいの。

普通でよかったのよ。

普通に接してほしかった。


ルドルフが死んでマリーヴァレリーが翌年バートイシュルで結婚式を挙げたのよ。

丁度私達が婚約の報告をした区教会でね。


私は流石にこの時はグレーの淡いドレスを着て出席したわ。

親族だけの小さなこじんまりした式だった。

幸せそうな愛しい娘の顔を見る事が出来て、ルドルフが亡くなってから初めてのお祝いね。


これで私は自由。


この子が独立したら遂に「鴎の逃避行」を開始すると心に誓っていたの。


夫には悪いけれども………。

旅とハイネ、ギリシャ文化や神話は私の生きていく唯一のこの世に繋ぎ止める行動なの。

夫は言ったわ。


「君がそうしたいなら辛いが旅を許そう。

 でも時々必ずウイーンに戻ってくるんだよ」


物悲しい憂いに満ちた顔で私に言ったわ。

静かに彼を抱きしめた。


そう全てを……捨て………

今を飛び立つの鴎の飛翔。





妹のゾフィーシャルロッテはエリーザベトの姉妹の中でコケティッシュで可愛らしいタイプの美人だった。

ルードヴィヒ2世を敬愛していて彼と同じくワーグナーの崇拝者だった。

婚約当時実は家に出入りする写真家の息子と不倫関係に陥ったの。

かなり秘密裏に関係を持っていたけれど、ある時に両親にバレて二人は離別させられた。

この事は長らく秘密にされていたけれど、彼が死去後娘にゾフィーからの手紙を焼く様に遺言したにもかかわらず、それを公開してしまったの。


その後ゾフィーは元フランスの王の孫アランソン公爵と結婚するのだけれど、イギリスの舅と折り合いが悪く欝病を発症。

実家で過ごして病は回復した。

しかしルードヴィヒ2世が崩御すると更に重度の欝病が再発。

メラーノの精神科医師の元通ううちにその医師と不倫関係になり離婚を言い出すようになった。

アランソン公爵は深くゾフィーを愛していたのでなんとか別れさせてゾフィーを療養病院に入院させて思いを留めさせた。

50代のゾフィーの写真を見る限り痩せていて完治しているようには見ずらい。

祈る姿で発見されたところと自分よりも少女達の救出を優先するように指示した所を見ても。

覚悟の事故死の様に思われる。

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