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突然の死は……望みのままに 

オーストリア帝国のほとんど「最後の皇后」といってよい

エリーザベト・アメリア・オイゲーニュ・フォン・ヴィテルスバッハ・ヘルツォーギン・イン・バイエルン公爵令嬢の生涯を暗殺から年代を遡りながら物語る

彼女の回顧的に綴った物語です。


1898年9月10日イタリア人の貧しい青年の刃にかかり享年60歳で崩御した皇后・王妃

その衝撃は世界を駆け巡り後に後のインターポールの前身が組織されるきっかけとなった事件はジュネーヴで起こりました。


普通は少女時代から始めるのですが、今回は暗殺事件から年を遡って連載してゆきます。



「おっ…お医者様を……お医者様を!!水を!」


挿絵(By みてみん)


薄れゆく意識の中で、画像とイルマの金切り声はノイズが掛かった様に遠のいていく。 


私の意識はフアフアと宙を彷徨う。


あぁ~~何が起こったのかしら?


クラクラするわ。


そう……そうだ。

皇帝陛下とヴァレリーとバートイシュルのカイザーヴィラで別れた…。


二人は私の精神状態があまりいいと思ってはいなかったから今回の旅立ちには反対していたわ。


でもバートナムハイムから静養して、スイスに渡りモントルー、テリテで過ごしていくうち体調はよくなったの。


思いついてここからそう遠くないジュリー・フォン・ロートシルト男爵夫人を訪ねようと思った。


妹マリア・ガブリエラを支援してくださる私の旧友の彼女にお礼を言いたかった。


なんと言ってジュリーは素晴らしい人だから。


悲しい運命を背負ってしまった私達姉妹……。

私がオーストリア帝国の皇后にならなければ、皆もっと自分らしく幸せな生涯を送る事が出来たのに。

あの子は斜陽のナポリ王国の王太子に嫁いで、すぐに王妃になったものの、サルディニア軍と反政府主義者達に国を追われ、二度も亡命を余儀なくされたのに。


とても勇敢で「ガエータの女王」と呼ばれた妹は、今もナポリの再興を実現しようと活動している。


妹夫婦は良い関係ではなかったから一時は恋に溺れて不義の子を産んだのよ。


その後に夫に正直に告白して短い命だったけど二人には王女も生まれて、最後は落ち着いた夫婦関係を維持していたようだったわ。


けどその下の妹マチルダはもっと悲惨だった。

夫はナポリ王であるマリアの夫の弟。


長女を出産したものの夫との関係は疎遠でナポリを追われてからは別居夫は謎の死を遂げて以来根なし草の生活をしている。

別居中やはりマリアと同じように恋をして一子産んだ後はやはり彼女も私と同じ様に


渡り鳥の様にヨーロッパを移動していた。

夫は自殺か事故かいまだにわからなかったけれど離別して、その後二人とも再婚する事もなく時折私と合流して過ごしたりして、二人は姉妹の中で長寿を全うして同じ年に死去したそうよ。


話を戻そうかしら。


ジュリーはオーストリア帝国の男爵で英語名ではロスチャイルド家の一員の妻だった。

ロスチャイルド家は金融業でヨーロッパで財をなし兄弟達がそれぞれの国で事業を行っていた。


フランツ一世の時代に「帝国に功績あり」とユダヤ系で初めて男爵の爵位を受けたのよ。


ハプスブルグ家は多民族国家寛大で金融業に強かったユダヤ系の人々も受け入れていたの。


当時の世界はキリスト教徒が主流で、ユダヤの王がイエスキリストを処刑した故事から差別的な扱いを受けていた。

その後国を滅ばされ世界中に散っていったの。

どこでも迫害を受けながらその中で経済に精通した一族が現れて頭角してきた。


英語圏ではロスチャイルド家、ドイツ語でロートシルト家、フランス語ロチルド家と言われた一族は特に有名よね。

当時のカトリック教の世界の中でハプルブルグ家はとても寛大だった。

特に夫は反ユダヤの気運が高まるオーストリアで彼らを擁護したわ。

だから私も同家に資産を運用するように預けたのよ。



皇帝陛下は私によく

「無政府主義者の暗殺者に注意するように。

早くウイーンに帰ってきなさい」


と再三手紙を送ってきていたわ。


私はいつも「大丈夫よ」と安心させるように返事をしていたわ。


今回も陛下の即位五十周年記念祭にはウイーンも戻って祝典に参加するわと返事をしていたの。

結局約束は守れなかった……。

貴方ごめんなさい。



そうそう皆さんは虫の知らせや迷信て信じる?


このプリニーの訪問の前にギリシャ語教師のフレッド・バーカーとお散歩しながら、丁度休もうと苔岩に座っていたの。

桃を半分に割って片方を彼に渡そうとしていた時だった。


烏が突然羽ばたいて持っていた桃を突いたのをバーカーは酷く驚いてその鳥を追い払ったの。


そして彼は言ったわ。


「烏が人を威嚇すると、常に不幸が訪れる」という迷信を私に伝えたの。


「どうかジュネーヴ行きはおやめください」と悲痛な表情で懇願しだしたのよ。


私はクスッと笑って彼に言ったわ。


「私の友。私は死など怖くはないわ。

 遅かれ早かれ、私たちは運命に導かれて死ぬのです。

 どんなことをしても死から逃れることはできないわ。

 私達が死を避けるためにできることは何もないのよ。

 あなたは私が運命論者だって知っているじゃない。

 だからやめないわ」


死は誰にも平等に訪れるもの。貧しき者にも富める者にも、若き者にも老いたる者にも。

等しく訪れるもの。

それは死。

それを宿命として受け入れると。



挿絵(By みてみん)


ジュリーはレマン湖の畔プリニーの別宅に滞在していたので、私はレマン湖の蒸気船に普通客と一緒に僅かな随行員を連れてイルマも一緒に訪問したのよ。


ジュリーはそれはそれは大感激で歓迎してくれて、とても美味しい昼食を用意してくれたの。


私は普段はあまりコース料理は食べないけれど、ジュリーのもてなしに感激して出てくるお料理を堪能して美味しくいただいたわ。


イルマも私の食欲を嬉しそうにしていたみたい。

イルマは1894年8月にバートイシュルでエリーザベト皇后の旅のお供として採用された女官よ。

すごく忠実で信頼出来る子よ。すごく健脚で元気いっぱいなの。

私のお気に入り女官だった。


挿絵(By みてみん)


食べ終わって皇帝陛下にも召し上がってほしいからレシピをおねだりしちゃったわ。


美味しい食事の後はジュリーが自慢の温室園を案内してくれて、見た事もない珍しい植物を鑑賞しながらフランス語で会話を楽しんだの。

こんなに楽しい日々は久しぶりだった。


その再会の日にジュリーは私の写真撮影を求めてきたの。

やんわりお断りしたわ。

もう30年も写真機の前に立っていないもの。

その信念は曲げなかった。

老いた姿は見せたくなかったから………だけどその後撮らせてもよかったかなってイルマに言ったわ。


3時間楽しく過ごした後、ジュネーヴに宿をとっていたのでジュリーとは別れて蒸気船でホテルボーリヴァージェに入ったの。


ここでは「ホーエンエンブス伯爵夫人」を名乗って滞在していたの。

この名前も私でもあるの。


ハプスブルグ家の爵位は沢山あったので夫の爵位を選び放題よ。


私は絶対オーストリア皇后として行動したくないのよ。

もしそれを使う時は公的な儀式だけと決めているの。


普通の人でいたいのよ。


でも知らなかったわ。


新聞社が私がこのホテルに宿泊しているとスクープしていたなんて。

そしてその記事を狂気の眼で見ていた男がいた事を。


知らなかったの。


ジュリーの所から帰った翌日は本当に久しぶり素敵な朝だった。


朝食もパンを頂いたほどよ。


9時の鐘が鳴った時は丁度出かける支度をする為に侍女に髪を梳かせていたのよ。


「今日コーにお戻りになられるというお考えにかわりはないでしょうか?」


イルマがそう訊ねてきたわ。


「えぇ。1時40分の船でね。大名行列みたいのは嫌だから。

 いつものとおりね。」


「はい」


イルマは準備を指示していろいろ指図していたわ。

11時にイルマと二人でジュネーヴのベッカー楽器店に立ち寄ってヴァレリーの子供達にお土産を購入した。


いろんな曲が選べる自動演奏器よ。

絶対あの子達は喜ぶわ。

ヴァレリーちは大家族だから子供達の笑っている姿が目に浮かぶようだわ。


私のただ一人の娘。

ハンガリーの申し子。

私の宝物。

私の全てを注いだ子。



その後はモンブラン湖畔を散歩したのよ。

私は今日出発というのになんとなくこの散歩が楽しくて、なんだかホテルに帰る気分じゃなくなったの。


その日はとても天気が良くて風も心地よくて街の様子も賑やかで本当にお散歩日和だったのよ。

出来ればもっと散歩していたかったわ。


でもイルマが心配そうに言ったの。


「そろそろお部屋にお帰りになってお仕度されては?」

と促されたわ。


その後ホテルに入って帰りの支度をしたわ。


でも今日はなんだか支度に戸惑ってしまっていつもよりゆっくりになってしまって。

何故かしらと自分でも不思議だったわ。


いよいよという時部屋に置いていたコップにミルクをまだ残しているのがすごく気になったのよ。

イルマは出発の時間を気にしてなんだかイライラしていたようにみえたけど。

私は何故かそのままにしたくなくてそのミルクを飲干したの。


「陛下。 

 本当に乗り遅れてしまいます。

 参りましょう」


でも普段はしないのに水でカップをゆすぎもしてみたわ。

イルマは乗り遅れないのではと顔が引きつっていたわね。


「今日はモンブランがとっても良くみえるわ…」


ようやく部屋を一目見渡してホテルの正面入り口に降りたわ。

ドアマンと経営者の二人が大変美しいお辞儀をしてドアを開けてくれたわね。

挿絵(By みてみん)

黒いドレスとマント、黒の帽子に手袋、日傘をさして扇子を手にして外へ出たの。

いつものいでたちね。


13時35分ようやくモンブラン埠頭へ向けて遊歩道歩き始めた。


埠頭まではすぐそこなの。

船も見えているわ。

「ほら皆ゆっくりしているでしょ。

 出航に手間取っているわ」


通りを渡り湖畔の遊歩道を二人で歩き始めたの。

私は出航時間も気にせずになんだかこの景色が美しくてウキウキしてしまったの。


「ごらんなさいイルマ。

 マロニエの花が咲いているわ。

 シェーンブルグの庭園にも二度咲のマロニエの木があるの。

 皇帝陛下のお手紙にもシェーンブルグのマロニエも花盛りですって」


そう言ってクスッと笑ってみせたの。

あっ勿論歯は見せないでね。

笑ったわよ。


ヴォ~~~~ン!!!カンカンカンカン!!


その時蒸気船の出向の合図が聞こえたの。


「陛下!

 蒸気船の合図が!!」


イルマの悲痛な声が聞こえたわ。

銅鑼の鐘の合図が辺りに響いたの。


その合図と同じ時にイルマの瞳がある人物の行動に釘付けになっていたみたいなの。


遊歩道の植えられた左右の木々の幹に隠れながら横へ縦へと、木々を移動しながら私達に近づいてきていたそうよ。

そして男は湖の柵の所に来て急に斜交いに私に突進してきたの。


「あっ」


イルマは慌てて私を庇おうと踏み出したみたいだけど、男はぐらついてこける様にして私に殴りかかってきたの。


男に押されて私は仰向けに倒れてしまいました。


「きゃ~~~」


イルマの悲鳴が聞こえたわ。

すると男はさっと逃げ出してしまったの。


イルマは私の身体を起こして悲痛な顔をしていたわ。


私はとっさの事で瞳をパチンと開いてしばらく放心状態だったの。

でも意識ははっきりしていたわ。


「大丈夫ですか陛下。

 おかげんはいかがですか?」


イルマの心配そうな声が聞こえたの。

せっかく結い上げた王冠の髪は崩れて頬は紅潮しているようだった。

でも本当に痛みは感じなかったのよ。


「ええ。なんでもなかったわ。大丈夫よ」


「怖かったでしょ」


「ええ。とても」


そういうと私の周りにこの蛮行を目撃した観光客や地元の方がいろんな国の言葉で声をかけてくれて来たの。


「大丈夫ですか?英語」


「大丈夫ですか?フランス語」


「おかげんいかがですか? ドイツ語」


「大丈夫ですか?ハンガリー語」


しかも駆けつけた御者がドレスの汚れを手ははらってくれてなんだか嬉しくて口元が緩んだの。

私はお声をかけてくれる各国の言語でお礼をいったの。


「サンキュー」


「メルシー」


「ダンケッ」


私を人嫌いとかいう人がいるけれど。

群衆は嫌い、注目されるのは嫌い。


でも人と人の個人の交流は大好き。

だって昔パパとホイゲルやビアホールでお話したもの。

ダンスも披露したし。

チップだと言って硬貨も貰って今でもまだ持っているわ。


「私が稼いだ唯一のお金」と女官達に自慢したものよ。

皆とても優しくて気さくだったわ。



私の事勉強嫌いって言った方がいますが、興味のある事には昔から集中して学んできたの。

確かに身に入らない事もあったけれど。

それって意味のある事かしら?


特にマナーや作法なんてほとんど生きるのに意味はないわ。

手袋をして食事しないといけないとか。

家族で必ず食事を一緒に取らないといけないとか。

挨拶には手の甲にしかしてはいけないとか。



その後ホテルのドアマンが駆けつけてくれて「もう一度ホテルで休むよう」にと案内してくれたけれど。


丁寧にお断りしたわ。

だって船に乗り遅れそうだったから。


「私 顔を青くないかしら?」


イルマに見てもらうと心配そうに言ったのよ。


「そういえば。

 恐ろしい目にあわれたからでは?」


「あの男は私をどうしたかったのかしら?

 きっと時計がほしかったのかしらね?」


その後再びドアマンが近寄り男が取り押さえられたと知らせてくれました。


「陛下?

 お苦しいのではありませんか?

 どうかお正直におっしゃってください」


「そういえば……胸の辺りが…痛む気がするの…確かじゃありませんけど」


私はそう言ってイルマと足早に船へ乗り込んだの。

でも入ってすぐに、眩暈がして突然立っていられなくなってイルマの顔を見て言ったわ。


「腕を……貸して」


そう言ってイルマに倒れ掛かってしまったの。


そして冒頭のイルマの叫び声に繋がるのよ。



*******************************************



イルマがもらった水をハンカチで濡らして私のこめかみと顔に水をかけてくれた。

そしたら瞼は開くのですが、瞳孔は開いて目線がゆらゆら揺れてまるでこれから亡くなる人の様に見えたと思ったみたい。


近くの男の人に手伝ってもらって、私をベンチにのかせてくれたの。


「誰かお医者様はいらっしゃいませんか?」


イルマの甲高い声が木霊していたわ。


するとすっと男性が歩み寄って言ったのよ。


「医者ではありませんが。妻は医学の心得があります」


とおっつしゃって奥方を連れてきてくれたのよ。


その夫人は水とオーデコロンを額に刷り込むとイルマが私の胴着を外してくれ始めたの。

私は少し意識を戻りつつあって、イルマは必死な顔で私に酒の含ませた角砂糖を口に入れたわ。

自分のカリッと噛む音が聞こえて口中に甘い味が広がったわ。


イルマの安心した顔が印象的だったわ。


そのままふわふわと2.3分辺りを見渡して、何が起こったのかしら?

何故?こんな?


そう思いながら身体を起こしてベンチに座ろうとしたの。


あっお礼も言わなきゃ。


「メルシ―」

その手当をしてくださった夫人に言ったわ。


けどなんだか具合が悪い気がするの。

何故かしら?

ふわふわして身体が揺れているの。


急にダン・デュ・ミディ峰に釘つけになって、頭がふわふわというかす~と何故か景色が歪んで……。


「わたくしいったいどうしたのかしら?」


そう言って私は再び倒れてしまったのよ。


その後イルマは私の服を脱がし始めると下着に赤黒い小さなシミを見つけたそうよ。


そうさきほどの男に刺されたの!


イルマはいてもたってもいられず叫んだ。


「船長!すぐに船を岸に戻してください。

 ここに致命傷をおって倒れておられるのはオーストリア皇后陛下、ハンガリーの王妃エリーザベト様

 です。

 お医者様、神父様もおいでにならないのに。

 ここで落命させるわけにはいきません。

 どうか桟橋へ。

 すぐ引き返してください」


船長は黙ってそうしてくださったそうよ。

そして即席の担架を作り6人の男立ちがマントを被った私を乗せて、ホテルボーリヴァージェに戻ったというのよ。


私は首を左右に揺らしていたわ。

意識はなくてわからなったけれど。


ホテルには博士と医者が私を診察したけれどお手上げだったの。


「手の施しようがまったくありません」


次に司祭が現れて御赦免を与えてくれたわ。


14時20分その時は訪れたそうよ。


「お亡くなりです」


私はもうわからなかったけれどイルマが私の両手を胸で組み、瞼を閉じてくれました。


「心のとても小さな隙間から私の魂が空に向かって飛んでいきたいと思っています」


イルマはジュリーの言葉を思い出したそうよ。


イルマは悔しくてぐちゃぐちゃになった顔で私の手に口つけした。

そして思った事を後世の手記にして残してくれたわ。


「私の可愛い、天使のような女王様貴方は私の絶望を見下ろし、私が貴方を慰めてくれた言葉をかけて慰めてくれました。あなたはあなたの私イルマを塵の中から落胆の夜から立ち上げ、彼女の視線を永遠の恵みへと向けてくれます。

 苦しみに対する貴方の勝利である死、最後の犠牲で完成しました。

 女王様の平和と幸福があるでしょう。

 女王様がおっしゃっていたように空に飛び立って消えていく鳥のようにあるいはここで、私達の目の前で、そしてまた次の所で青くなって漂う煙の様にこの世から去りたい。

 一瞬のうちにもうだめだと」


イルマはこの後、精神的にも負担になる私の司法解剖の様子も立ち会わないといけなかったの。

知識が必要な医療行為ではあったけれど専門医がいないので、急遽簡易行為になったそうよ。

そして防腐処理もしてくれた。

ありがとうイルマ。


翌日私の身なりを整えてくれました。

お気に入り「私の美しいドレス」と呼んでいたわ。

棺に納められる前に彼女は私の様子をこう表現していたわ。


「白い額、暗く輝く王冠の様三つ編みで留められた装飾的な髪に囲まれていた。小さな螺鈿の十字架を手に大きな白い蘭を胸の上に純白の陛下の心の上に置かれた」


私の娘ヴァレリーが日記にこう書いています。


「ママがずっと願っていた事がいま成就したのだ。瞬く間に苦痛もなく医者の診察を受ける事もなく。

 不安に怯える長い日々を過ごすこともなく」


イルマ・シュターライ伯爵夫人は私の言った言葉を思い出してくれたって。


「ジュネ―ヴ湖は海の色そのもので、どこまでも海の様です」


私は海が好き。

私は鴎。

陸に私の居場所はない。













エリーザベトの晩年に旅行に付き添った女官イルマスターライ伯爵夫人の残した晩年のエリーザベトはあまり知る事のない彼女の落日の姿を伝え残してくれます。

奇人で人つきあいを避けて孤独を愛した変わり者。


それがこの当時の上流階級の普通を打破するだけの資料です。

彼女の親族が他界すると愛情深く寄り添い、下位の者でも気配りする。

そしてそんな主人を理解しようと必死に仕える姿は美しくも見えました。


一人の人間は時にいろんな角度から見る事がいかに大切かを教えてくれます。


「目に見えるものは大切ではない」

BY 星の王子様



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