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末娘マリーヴァレリー ハンガリーの王女様

王妃となり、最愛の娘の誕生と成長に。


ヴァレリーは愛する娘としてではなく、仲間であり友でもあります。

娘はハンガリーで産み育てる。

この小さな宝物にはまったく人に手放さずに乳母を沢山つけて私の望みを託しました。


優しい子になるように。

ハンガリーを愛する子になるように。

傲慢にならないように。


「愛しい私の娘。私だけの娘。

 やっと子供を持つ喜びを知りました」

そう思うあまり、当時はすごく神経質になっていたの。


少しヴァレリーがお腹を壊して体調不良になると乳母の乳に問題があると考えてその乳母を解雇したりしたわ。

今思えば浅はかだったわ。

当時は長女ゾフィーを亡くした記憶が蘇って神経質になっていたの。


生後一年ちょっとで兄ルードヴィヒのガラーツ・ハウゼンの館にこの子を見せにいったわ。


ミュンヘンへ。

ポッセンフォーヘンへ。

そしてウイーンは通過点すぐにハンガリーへ。


当然時間の許す限り夫もゲデレー城に来てくれる。


そして他の2人の子供達も。

幼い頃から離れて暮らして義母になついてしまって距離がある二人だけれど、私の子である事には変わりない。

少し距離感のある親子だけれどしかたない。

そう思うほど今このヴァレリーに全ての愛を注ぐ。


ヴァレリーは本当に私の宝物それを義母もわかっていたみたい。


私の母に義母は手紙を書いていたの。


「シシッは3月3日以来ヴァレリーとハンガリーに行っています。

 この度皇帝もハンガリーへ出発します。

 私としてはヴァレリー王女と別れがたい思い。

 滅多にいません。…………私の産んだ4人の子も、ギーゼラやルドルフにしても

 幼い頃、あれほどにかわいらしくはなかったような気がします。

 …でもこれはシシッには内緒。

 いわなくてもあの天使にぞっこんです。

 母子が一緒にいる姿は本当に麗しく愛らしい。

 ある時ギーゼラを連れてシシッの部屋に行きました。

 シシッはたまたま髪をほどいて。

 そのふさふさした波が美しい顔と両肩とうなじを包んで膝に可愛らしいヴァレリー王女を抱えるところ

 はそれは魅力的な眺め。

 ちなみにシシッ本人は近頃とみに心優しい。

 私だけでなく家族皆によくしてくれていました。

 当地に2か月滞在した間、上流社交界、宮廷の皆様方へもすこぶる愛想良くしてくれたのです。

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お義母様相変わらずの嫌みは健在ですね。

出来るだけ傍には寄らずに置きます。

 私はまだトラウマから抜け出せずにいますので。


それがかえって二人の子供達の溝をつけると思いもよらずに。


私の第二の故郷ハンガリー。

そしてこのゲデレー城は新しい皇帝一家の住処になるの。

森で狩猟を乗馬をそして城で読書、庭園で寛ぐ家族だけの時間。


私は一人のうち三分の二をハンガリーで過ごして残りはウイーン以外も含めるとウイーン滞在はさらに少なくなる。


1870年10月17日私はヴァレリーとギーゼラの2人を連れてメラーノに滞在した。

新鮮な空気、北イタリアの保養地。

そこで二人の娘と自由なひと時。

こんな幸せが来るなんて…。

そのうち姉ヘレーネがそして妹ゾフィーが合流して、クリスマスには夫と息子も揃って親族でこの楽しい日を過ごした。

温かい家庭を初めて感じている。


でもそれはここがウイーンじゃないから。

ウイーンは嫌い。

私達を欲望と猜疑心の餌にする場所。


その翌年もヴァレリーを連れてメラーノに保養にいったわ。


ヴァレリーが成長すると乳母の代わりに家庭教師を二人雇用した。


年配で落ち着いた夫人に常に付き添い、甘やかさない事を出来るだけハンガリー語で話すように夫にもをお願いしたわ。

私も彼女にチャルダッシュというハンガリーの伝統舞踊を教えたわ。


ヴァレリーの周りには常にハンガリー人を雇用した。なのでハンガリー語しか話しかけずに育てた。

でも彼女はドイツ語に成長後はフランス語、英語、イタリア語、ギリシャ語など語学に堪能になっていった。同じく旅行好きでよく私の旅に同行させていた。


私の可愛いハンガリーの王女様!


私はしばらくはゲデレー城、ブタ、オッフェン宮に住んだ。

ウイーンはたまに帰るくらいだった。

特に夫とルドルフに会う機会がめっきり減った。


ハンガリーにいない時は実家近くの定宿か、バートキッシンゲン、メラーノに治療を受けに行っていたから。


フランツもしかたないとあきらめ、ルドルフは冷静でドライな性格で大人びて冷めた目で私を見ていたみたいだった。


マリーヴァレリーは私の唯一の娘とって過言ではないわ。

上の2人の娘は生まれてすぐに義母に奪われ、唯一の息子も同じだった。

私は産んだだけで育てたわけではなかった。

だから望んで産んだこの子を私の手元で育てる。

誰にも奪われないと心に誓った。


彼女にはしっかりと陽気な乳母と古参の教育係、年頃になってから旅にも同行させた。語学も堪能でドイツ語、ハンガリー語、フランス語、英語、ラテン語、ギリシャ語が話せた。

文学や読書、演劇、絵画、本人は嫌がっていたけど詩作をしたわ。


そうとても才能に恵まれ、かつ可愛らしくて優しく慈悲深かった。


ギーゼラもそうね。

私は危険な旅や猛烈な乗馬や競歩には突き合わせていなかった。


少女時代から成人しても高慢さのない優しい子に育って満足だった。


ある日娘ヴァレリーがね舞踏会である男性を見初めたのよ。

私に恋話を語り始めたの。

娘ももうそんな年頃なのね。

お相手は分家筋のトスカーナ大公の公子フランツ・サルバァトールだった。


若いけれどやや人見知りが激しくて内気な性格ファーストアタックを試みたけれど、あまりの人見知りにあちらがおじけずいたみたい。

なのでヴァレリーと計画して偶然を装わせたわ。


彼がブルグ劇場に観劇にくる情報を事前に入手したのよ。

おめかししたヴァレリーと二人7時10分に下のフロアーに降りた。

ヴァレリーはそわそわして落ち着きがなかったわ。


私が一人足音を立てないで桟敷席のアーチ型のドアを開けると、彼は端っこに座っていた。

こちらには気がつかない。


私はヴァレリーに手招きをして「こちらへいらっしゃい」といった。


するとこの声に反応したフランツが飛び跳ねて私の前に立ったの。


娘は私の後ろに隠れている。


私は彼にいくつかの質問をしてみせる。


「観劇は楽しかった?」


「ええ陛下」


「お父様やお母様はお元気?」


「お陰様で恙無く。

 陛下をご心配しております」


「今日はおひとりなの?」


「はい以前からこの演目か好きで。

 素晴らしかった」


その一つ一つの質問をとても真摯に受け取って真面目な好青年には映る。

私は彼の視線がヴァレリーに移る様に娘の顔を見ていった。


「間違いないでしょ。

 ヴァレリーは成長したと思わない?」


「ええ。少し成長されましたね」


彼は笑って娘と握手をした。 


その笑顔が娘にはいたく感動したようで後で熱っぽく彼の魅力を語っていたわね。


この機会から2人は頻繁に会うようになった。


二人はこの出会いから2年間は結婚を決断しないように相手をしっかり品定めしなさいとねと助言したわ。


彼女を私の手元にずっと置きたいからではないの。

相手を知るのに時間をかける事は大切だといいきかせていたから。


ヴァレリーには貴方をお嫁にいかせたくないなんてそんな事はないから。

「相手が煙突掃除従事者でもいいわよ」と言ってきたの。


本当にそう思うわ。


私は結婚否定主義者になってしまった。

若くなにもわからないで嫁いだ。

宮廷規則にがんじがらめになって後悔してきた。


「結婚とは実に不合理な制度です。

何もわからないうちに教会で誓いをたてて、30年間後悔してももう取り戻す事が出来ないのですから」


だからヴァレリーにもそう言ったわ。


夫は彼が帝国の重責を担う人物でないのが不服であまり賛成ではなかったけれど、私が強く推した為に反対はしなかった。

意外にもルドルフが彼を否定したの。

彼がただの大公の子なのがどうしても心配だという。


どうして反対するのはわからないわ。

ヴァレリーの望みは叶えてやりたいのに………。嫉妬しているのかしら?

自分の結婚が幸せでないから?


ヴァレリーの結婚話がまた私と息子の軋轢になるなんて皮肉。

本当に……何故こんなことになるのか…。


ヴァレリーがいる館を訪れた時に妊娠中だった彼女のお腹を見たわ。

思わずため息をついてしまったの。

私の妊娠時を思い出したのね。


「新しい命が誕生するという事はいずれも苦しみの中で天命を全うするのだから不幸な事の様に見える」

と言ってしまった。


駄目な母親ね。

私の娘だけど親友でもある私の全てである事はかわりないのに。

精神状態があんまり安定してなかったのね。





ヴァレリーは私が死んだ後も10人の子供を産み育て、そしてその間に慈善活動も積極的に行ったの村人は「ヴァルゼーの天使」と呼んで尊敬されていたそうよ。




でも一つ悲しい出来事が。

あんなに真面目でシャイな娘婿のフランツが老いらくの恋に走って愛人に子供まで産ませたそうよ。


夫は激怒してその女をオーストリア帝国の権威を使って外国の貴族にお嫁に行かせたの。 

夫が亡くなった後その女は離婚し、その後なんとナチスのスパイになったのだそうよ。

彼らが別れた後はヴァレリー夫妻は仮面夫婦だったというわ。


マリーヴァレリー。

だから言ったのに。


「結婚なんてしたいだなんてわからないって!!」

エリーザベトは上の2人とは切り離されて養育されていたため、親子といっても大人になって一定の距離感が生まれてしまう。

特に末娘マリーヴァレリーが誕生すると全ての愛情が一人に注がれるのを嫉妬に似た感情が二人の子に現れる。普通なら不服を言う所だが、2人は冷めた視線を向ける事しか出来ない。

しかしギーゼラは結婚した後、特にエリーザベトが死去した後は妹と家族くるみで助け合い。二人はそれぞれの土地で慈善活動を通じて、人々から尊敬され愛され天寿を全うした。

不幸だったのはルドルフ皇太子だけだった。

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