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痰の檻

作者: しゅうへい

俺たちの街に魔物が現れたのは、一年前だった。最初はニュースの中の異常気象の一つみたいに思ってた。けど、近所のコンビニで仲間とたむろしていたとき、魔物が初めて目の前に現れた。巨大な影のような体、ギラつく瞳。なぜか俺たちの中で一番意地悪な奴が襲われた。


「お前、嫌なとこ治さねえと死ぬぞ!」

大人たちが叫んで助けを求める中で、その言葉だけが耳に焼き付いた。そして、その日から俺たち全員に魔物が見えるようになった。


魔物のルールは簡単だ。自分の短所や弱点を吐き出して治さない限り、追いかけてくる。吐き出すのはただの言葉じゃない。本当に痰みたいな、粘ついたものを口から出すことで、自分のダメな部分が形を取って消えるらしい。


でも、簡単じゃない。特に俺たちZ世代は、他人の視線を気にするのに慣れすぎて、自分の弱点を素直に認めるのが難しい。俺は、そういう「弱さ」を隠すためにいつも冗談ばかり言ってきた。でも、魔物がそれを見逃すわけがない。


ある夜、俺の部屋に魔物が現れた。家の壁を透き通るみたいに入ってきて、無言で俺を見下ろす。その瞳の奥には俺が隠してきたもの全部が映っていた。


「お前、いつまで逃げるんだ?」

心の中で誰かが囁くように聞こえた。俺は震える声で叫んだ。

「俺は……俺は、自信がないんだ!」


その瞬間、喉の奥が熱くなり、何かが込み上げてきた。咳き込むと、粘ついた透明な塊が口から飛び出し、床に落ちる。それは、俺が抱えてきた「自信のなさ」の形だった。そして、魔物はスッと消えた。


それ以来、俺は少しずつ自分を吐き出す練習を始めた。SNSに完璧な自分を見せるだけじゃなく、失敗もさらけ出すようになった。周りの奴らも、同じように魔物と向き合い始めた。俺たちの弱さは、今や共通の話題だ。


魔物はまだ街にいる。けど、それは怖い存在じゃなくなった。むしろ俺たちの本当の敵は、自分の中にある恐れやプライドだったんだと思う。


今日も誰かが魔物を前に痰を吐く音が聞こえる。変化する音だ。俺たちはそうやって、少しずつ自由になっていく。

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