ぼくたちは巡りあえた。それはきっと意味がある。
季節が流れ、春になった。その日、鷲と冬華は吉野の山を訪れていた。
今、二人の眼前には桜の森が広がっている。風に吹かれ、薄紅色の花びらが降ってくる。土肌や路面の上には花びらが薄く降り積もっていた。
「桜、とても綺麗だね」
頭上に広がる満開の花を眺めながら冬華は深く息を吸い込んだ。
「ああ、本当に綺麗だ」
鷲が答える。
「なんとなくだけど、私、ずっとここに来たかった気がする」
冬華は桜から視線を逸らし、真っ直ぐな目を鷲に向けた。鷲は穏やかな笑みを浮かべて、冬華の髪についた花びらをそっと取った。
「ねぇ。私は昔、ここに来たことがあったの?」
「あの時は冬だったけどね。それにきみは山には入らなかった」
吉野山に来た鷲は、微かな記憶を感じていた。渓を下り、峰を登る。刀を振り、血が流れ、雪が紅く染まっていた。何と言えばいいのか分からない、己の奥深くにしみこんでいる朧げな何かを彼は感じていた。
「え? いつのこと?」
感慨深げに桜の木を眺めている鷲を見て、冬華は訝し気に聞いた。
「いいや、何でもない。こうやって共に来ることができて嬉しいよ」
『冬華!』
声のする方を振り向けば、友人たちの姿が見えた。ゆかりんと御堂、ともちゃんと賢哉も一緒に来ていたのだ。
「冬華、行こう。向こう側から見ると、もっと綺麗だったよ」
ゆかりんが冬華の手を引き駈け出す。
「ちょっとゆかりちゃん。そんなに急がなくても桜は逃げないって」
冬華は友人達のこともまだ思い出せない。それでも、ともちゃんとゆかりんは、以前と変わらない態度で冬華に接していた。
「鷲、お前吹っ切れた顔をしてるな」
御堂が鷲の隣に立つ。鷲は大柄な友人を見上げた。
「僕らは新しい宿命と共に、今を生きる。僕達はこの世に生まれて再び出会った。それはきっと意味があると思うよ」
「そうだな」
それから二人は広大な山を見つめた。
「ねぇ、鷲くんたちも一緒に行こう」
冬華がニコニコと微笑みながら駆け寄って来た。鷲は魅せられたように、目の前に立つ彼女の笑顔を見つめた。
「鷲くん?」
何も言わない鷲を訝しがって、冬華は首を傾げる。
「鷲くん、行こう?」
鷲はそっと己の手を差し出した。
「僕は冬華の記憶は戻せない。けれど、これから二人で時を重ねて、新たな未来を作ろう」
冬華は彼の手をじっと見つめた。
「私は自分が何者かも分からない。でも鷲くんと共にいたいって思う。それでもいいなら」
「それで充分だよ。僕は今、ここにいる、ありのままのきみを見ている」
「ありがとう」
彼女は鷲の手を握り返し、微笑んだ。
糸を繰る苧環のように、歴史は繰り返される。明けない夜はないと言うけれど、必ずしも幸せな朝が訪れるとは限らない。それでも人間は、自分に与えられた運命を歩むしか他はない。人の命もまた、次の命へと繰り返し続いていくのだ。
私が、私である為に。
了
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