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不撓

気が付けば朝になっていた。誰もが泥のように眠っていた。

「ほんとうに多くの命を失ったな。国内ではどれだけの犠牲者が出たのか分からないけどさ、かなりの人数だと思う」

「どうして、こんなことになったのかな……こうなる前に止められなかったのかな……失った命はもう二度と戻らないんだよ」

 御堂の言葉にゆかりんが泣きながら零した。ほんの数か月前までこの国は平和だった。こんな事態になるなんて、誰が想像しただろう。


「これが現実だよ。空虚な妄想でも絵空事でもない。国が攻められれば多くの国民が命を落とす。個人の力ではどうすることもできないんだ」

 鷲が唇を噛みしめる。


 景浦の身体に毛布を掛け、手を合わせていた興俄が立ち上がった。

「全てが話し合いで解決するなんて思ってはいないだろう? 結局は今の世も最終的には力で解決するんだ。多くの血が流れ、犠牲が生まれる。その先にある世界では勝者のみが大手を振って生き、敗者はひたすら虐げられる。理不尽であろうと、卑怯な手を使おうと、それが人間の世界だ」


 興俄は一人一人の顔を見る。誰も彼も似た表情を浮かべていた。怒り、悲しみ、憤り、諦め、全てを混ぜ合わせたような顔をしていた。この数日、身の回りに起こったことは、それぞれの意識の中にしっかりと刻み込まれている。個人の力ではどうにもできないことがある。いや、どうにもできないことばかりだと、彼らの表情は物語っていた。

「だが、少しでもそれを回避する努力はしなければならない。民が安心して暮らせる世になるように、だ。言語や文化を奪われて、『ここは昔、日本と言う名の国だったらしい』などと数百年後に生きる人間に言わせたくはない」

 興俄がそう付け足すと、その場にいた全員が深く頷いた。もと鎌倉殿の言葉は各々の心に染み渡ったようだった。生命の危険と隣り合わせの日々を過ごした仲間たちは、お互いの距離を近づけていた。


 だが、例外もいた。鷲だけは頷かず立ち上がった。

「あの、なぜかあなたが仕切っていますけど。それに、もう日本が終わりみたいな言い方になっていますけど、戦いはまだ終わっていませんよ。僕は最後まで諦めません」

 鷲の言葉通り、外では未だ破壊音が聞こえる。首都東京はまだ陥落していなかった。

「みんなそれぞれの立場で戦っているんです。僕は行きます。まだ戦える」

「そうだな。俺も行くぜ。我が主君」

 御堂が深く頷いて立ち上がる。


「私も行くよ」「私も」冬華とゆかりんも立ち上がった。

「俺達も行こう」「そうだね」賢哉とともちゃんが顔を見合わせて頷いた。


 それを見ていた興俄も立ち上がる。

「仕方ないな、俺も行くか。麻沙美は江ノ原に連絡してくれ。景浦を運びたい」

「分かったわ。二人は私を手伝って」

 麻沙美がともちゃんと賢哉に告げると、二人は黙って頷いた。


「冬華はあれだけの力を使ったんだ。菜村さんとここで休んでいた方がいい。あとは僕たちに任せて」

「そうだな。ゆかりちゃんはここにいてくれ。俺は必ず戻ってくる」

 鷲と御堂が言うと、冬華とゆかりんは揃えて首を振った。

「私は大丈夫。たっくんが戦うなら私だって戦うよ。私ね、目の前で多くの人が傷ついたり、亡くなったりしているのを見て、最初はとても怖かったんだ。たっくんや、椎葉くん、冬華のように戦えるわけじゃないから、私も死ぬかもしれない、家に帰りたいって思っていた。でも懸命に戦っている三人を見て、私はみんなと一緒にいたいって思うようになった。今はもう怖くないよ。罪のない人が攻撃されて、血を流すなんて絶対に許せない」

 ゆかりんは、御堂に微笑む。その顔に涙はなく、秘めたる決意が見えた。

「私もまだまだ戦えるよ」

 冬華が付け加えた。

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