戦友
冬華とゆかりんは瓦礫の下敷きになっている人がいないか、確認して回った。倒壊している建物がある。高層ビルの窓ガラスはあちこち割れていた。
警備員の制服を着た男性が倒れていた。まだ息はあるようだが、倒れた看板の下敷きになって身体を動かせない。
冬華が力で瓦礫を移動させ、すかさずゆかりんが身体を引き出した。
「どうやって病院に連れて行こうか」
「車に乗せてもらうしかないよね」
いろいろと思案していると、一台の救急車が通りがかり二人の前で停まった。
「何をしているんだ。早く逃げなさい」
「この人、怪我をしているんです。病院に運んでください。お願いします」
ゆかりんが倒れている警備員を指さした。それを見た救急隊員は、車から降りてハッチバックを開けた。ストレッチャーにはすでに患者がいたので、手早く座席をベッドにして警備員を寝かせる。
「かなり狭いがキミたちも乗りなさい。ここが危険な場所だって分かるだろう? こんな所で何をしているんだ」
患者を乗せた救急隊員が早口で告げた。
「私達は大丈夫です。早くこの人を……」
ゆかりんがそう言いかけると、
「いい加減にしないか! これは遊びじゃないんだぞ。若い娘が出歩いて、敵にでも見つかったらどんな目にあうか、分からない年でもないだろう! 早く家に帰りなさい!」
突然怒鳴られたゆかりんは黙りこんだ。それを見た救急隊員は、しまったというような顔をする。
「いや、きつい言い方をしてすまなかった。私にもキミたちくらいの娘がいるんだ。家にいるとは思うけれど心配でね。車内はかなり狭いが早く乗ってくれ」
「私達には仲間がいます。彼らは戦える。私達もずっと戦って来たんです。だから本当に大丈夫なんです。どうかこの人をお願いします」
冬華は救急隊員の目を見てはっきりと告げた。あまりにも真っ直ぐな瞳に、今度は救急隊員が黙り込む。
そして次の瞬間、冬華はゆかりんの手を引いて走りだした。
「あ、おい、ちょっと!」
「とにかく行きましょう。患者を運ばないと」
「ああ、そうだな。それにしても不思議な子たちだ」
同僚に急かされて、隊員は救急車に乗り込んだ。
同じ頃、少し先を行く鷲と御堂は武装した人間と戦っていた。相手は少数だが、呼吸を整える間もないほどの激戦だった。足を斬った人間が倒れながらも銃を撃ってくる。
鷲は身体を躱し、ほんの数センチのところで避けた。百戦錬磨の鷲でも一発の銃弾が命取りになる。倒れれば死が待っているだけだ。
斬っても斬っても倒れない男がいる。今まで戦った相手は、鷲を見ると逃げ出したり、一撃で動かなくなったりしていた。だが、目の前の敵は違う。相当の訓練を積んできたのだろう。彼らには隙が無かった。おまけに、死の瞬間まで戦い続けている。
鷲は躊躇せず、刀を斬り下げた。最後まで戦った男の首から血が噴き出した。
何とか死闘を制した二人は、その場に立ち尽くしていた。
「今までの敵とは段違いだ。東京にいる奴らは、官邸を襲った人間と似ているな」
御堂はたった今倒した敵に目を遣りながら、息を切らす。
「東京がダメになれば、この国は機能しないって思っているんだろうね。ここに集められているのは、それなりの精鋭部隊かもしれない」
刀の血を切り、鞘に収めながら鷲が答える。彼の息もかなり上がっていた。その時、ビルの陰から数人の武装した人間が現われた。
「いたぞ。あいつがサムライだ」
「仲間に連絡だ。絶対に殺せ」
「ヤバいぞ、数が多い!」
御堂が叫んだ。
鷲は敵の攻撃を躱しながら刀の柄に手をかける。だが、今回ばかりは刀を抜く動作さえも危険に感じた。敵の人数も多く、四方から狙ってくる攻撃は激しかった。屋外では隠れる場所も少ない。刀を抜くという一瞬の行動さえも判断を鈍らせるだろう。
とにかく今は逃げるしかないと鷲は思った。
「鷲、お前狙われすぎだって。勘弁してくれよ。次々に敵が現われたら埒が明かないぞ」
御堂の武器はすでに鉄屑となっている。
「一度、ビルの地下に戻ろう。さすがにこの暑さじゃ、体力が持たない」
しばらく走って敵を巻いた二人は、ともちゃん、賢哉、冬華、ゆかりんと合流し根城にしているビルの地下に向かった。




