激闘
「お前たち、警察か!」
武器を持った男が叫ぶ。
「いや違う、こいつはサムライだ。色白で茶色の髪。間違いない」
別の男が鷲を指さして答えた。彼は続ける。
「お前はサムライだな。刀を持った男が多くの仲間を切りつけたと聞いた。サムライを見つければ、絶対に殺せと言われている。好都合だ。ここで死ね」
武装した人間の視線が一斉に鷲へと向けられた。
「鷲、あっという間に有名人だな」
「みたいだね」
鷲は御堂の言葉に肩を竦めた。
「まずはサムライを殺せ」
「あいつだけは絶対に殺せ。逃がすな。あいつが仲間を殺した」
敵たちが塊になって襲い掛かってきた。鷲は相手の攻撃を躱しながら抜刀し、一人目の手首から腕を深く斬りつけた。そのまま臨戦態勢を取りつつ向かってくる攻撃をなんとか躱し、二人の背後と腰を瞬時に斬った。彼の左右には斬られた人間が呻きながら倒れている。
突然の出来事に、人質たちはただ茫然と目の前の光景を眺めていた。茶髪の警察官が刀を振り回している。
「なんなんだ、この警察官は……」
「最近の特殊部隊は刀を持っているのか……」
鷲は真っ向から向かってくる男達から、さっと一足飛び退いて、刀を斬り下げる。しかし、狭い室内では動きにくい。槍のようなものを振り回している奴もいる。リーチの差がなかなか埋められない。このままでは、人質に危害が及ぶかもしれない。そう思った鷲は一瞬の隙をついて廊下へ飛び出した。
「おい、逃げたぞ」
「追え。絶対に殺せ」
鷲の後を追って、男達が部屋を出て行く。部屋に残った敵は御堂が相手をしていた。鷲に斬られた人間たちは、何度でも立ち上がり向かってくる。御堂は奪った武器を振り回した。冬華は敵の持つ銃に向かって、使用不能になるよう念じ続ける。銃が暴発し、敵は自ら吹っ飛んだ。
鷲たちが戦っている間に、興俄は倒れている総理に駆け寄った。
「総理、大丈夫ですか。俺の声が聞こえますか? しっかりしてください」
興俄の呼びかけに、総理の瞼が微かに動いた。
「おい、総理はまだ息があるぞ。早く外に出せ」
止血をしながら興俄が人質に叫ぶ。
「あなたたちは総理を連れて一緒に逃げてください。外には警察が待機しています。すぐに救急車を呼んでください」
景浦が拘束されている人質たちのロープを解きながら言った。
「キミたちは何者なんだ」
人質が問いかけるが、誰も答えない。その間に、興俄から裏切り者だと聞いていた人物も一緒に外に出ようとしていた。
「貴方はここに残ってください。私達が何も知らないとでも思っているのですか?」
景浦が行く手を塞ぐ。
「何を言っているんだ? 私も人質だ。ここから早く出してくれ」
「上に立つものは私情を捨てる。己の私利私欲のためだけに動くなど、もってのほかだ。この意味は分かるか」
興俄が男の前に立ちはだかった。
「な、何の話だ。私にはさっぱりわからないな」
「では、分からせてやろう」
興俄が男の目をじっと見つめると、彼は黙りこみその場に座り込んだ。景浦はその間にも人質と総理が安全に外へ出られるよう手助けをしている。
「御堂さん、鷲くん一人だよ。援護しないと」
冬華が声をかけた。
「ああ、それは大丈夫じゃね? まぁ、でも行ってみるか」
しゃがみ込んで倒れている男にとどめを刺していた御堂は、よいしょと立ち上がった。室内にいた敵はすでに息も絶え絶えだ。
「私も行くよ」
廊下に出ると、刀で斬り付けられた男が倒れていた。廊下の壁に掛けられていた絵画が、無残な姿で転がっている。壁が、床が、天井が破壊され、戦いの壮絶さを物語っていた。廊下のあちこちに呻きながら蹲る敵がいる。白い壁や天井は紅に染まっていた。二人は鷲を探した。
彼は刀の血ぶりをして鞘に収めているところだった。
「終わったみたいだな。お疲れさん」
「ああ」
鷲は御堂の言葉に頷いた。返り血を浴びている姿には未だ気魄が見える。だが、さすがの鷲も疲れたのか、息は上がり顔には疲労の色が伺えた。
「しかし、派手にやったな。お前には加減というものはないのか」
破壊された官邸内を見ながら、興俄が溜息をついた。
「ちゃんと敵を倒したのに、いちいち煩いですね」
鷲は不満顔で興俄を睨んだ。
「建物を壊せとは言ってない。ここの壁や床、装飾品にどれだけの価値があるか知らないのか?」
「そんなの知らないですよ。先に言ってください。僕が倒したんだから、敵の記憶を書き換える手間が無くて、良かったでしょう?」
鷲が不満顔で訴える。だが興俄は何も答えず、
「そろそろ警察が突入する。俺たちはここを離れるぞ」
と言い、先に歩き出した。
「ねぇ、みんなの記憶はちゃんと消した? 一人一人に伝えないと消せないんでしょ?」
冬華が興俄に駆け寄って、背後から聞いた。
「もちろん全て消してある。先に出た人質も、俺たちを覚えてはいない」
「あ、そう」
しばらく歩いていると、エントランスホールで興俄がふと立ち止まった。
後ろを歩いていた冬華は、突然足を止めた彼の背中にぶつかった。何かあったのだろうかと彼の隣に並んで、顔を覗き込む。興俄は黙って官邸内部を見回していた。
「ちょっと、警察が突入するんでしょ? どさくさにまぎれて早く出ないと。何、感慨深げになってるの? まさか、いつの日かここに立つのは自分だ、なんて思っているんじゃないでしょうね」
呆れ顔で冬華が告げると、興俄は何も言わず彼女を一瞥して歩き始めた。
「あ、図星だったんだ」
冬華はにやりと笑った。




