突入
一行は興俄を先頭にして、慎重に官邸内を歩いた。階段を上がっていると、降りてくる足音がする。足音は一人ではない。五人は息を潜め、階段横の壁際に隠れた。興俄が指で三を示す。
彼が読み取った思考は三人分、どうやら敵は三人いるようだ。話し声は聞こえるが、日本語ではない。冬華の耳には何を言っているのか、全く分からなかった。
一人、二人と通り過ぎ、三人目になった時、興俄は男の背後に手を伸ばし、右手で口を塞いだ。親指を鼻にあてて掌で口を塞ぐ。空いている左手で身体を抑えつける。鼻と口を塞がれた敵は声をあげることもできず、必死に足をばたつかせた。景浦がすかさず、鳩尾、脾腹と何度も殴りつける。男は悶えながら崩れ落ちた。
前にいた二人が異変に気付き、振り向いた。それと同時に御堂と鷲が素早く動く。
御堂は男が振りかざしたナイフをよけて、腹にパンチを入れた。鷲は別の男が銃を構えるよりも早く、男の真下に入り顎を一発殴った。男は吹っ飛んで頭を強打し動かなくなった。御堂が殴った男は息も絶え絶えに、仲間に連絡しようと無線に手を伸ばす。
「おっと、それはさせないよ」
御堂が伸ばされた腕を踏みつけ、数度蹴りつけると男は動かなくなった。
動かなくなった敵から、武器を奪う。
「おい、今度こそこれを着ておけ。どこから撃ってくるか分からないんだ。少なくとも鎧よりは軽い」
興俄は倒れてる三人の防弾チョッキを剥ぎとって、鷲たちに手渡した。冬華たちは渋々防弾チョッキを身に着けた。次に興俄は敵が装備していた無線機を引きちぎり、冬華に渡す。
「コレと同じものを敵が所持している。全部壊せるか」
「分かった」
冬華は無線機を手に持ち、目を閉じる。少しの間があり、無線機が細かい振動を始めた。そして次の瞬間、無線機はバラバラに崩れ、冬華の手から零れ落ちた。
「うわ、粉々じゃんか」
御堂が驚きの声をあげた。
「たぶん、官邸内にある同じ種類の無線機は全部破壊したと思う」
冬華の言葉に興俄は頷く。彼は鷲と御堂を見た。
「これで敵同士連絡ができない。お前たちがやるべきは敵の制圧。相手は武装し特殊な訓練を受けている奴らだ。ぬかるなよ」
「俺達を誰だと思っているんだ。ここ数日、そんな奴ばっかりと戦って来たんだよ。今まで銃なんて一度も見たことなかったのにさ、今じゃあ遠慮なしに撃ってくる奴らと戦ってるんだぞ」
不貞腐れたように御堂が答えた。
「誰が敵で誰が味方か、間違えるな。救出するのは味方だけ。裏切者は外に出すなよ」
「そのくらい分かってますよ。早く行きましょう」
そう言うや否や鷲は階段を一気に駆け上がった。みんなも後に続く。上の階では何語かの会話が大声で飛び交い、バタバタと足音が聞こえた。
「何て言ってるの?」
「侵入者がいる、油断するなと言っている。かなり混乱しているようだな。一気に攻めるぞ」
冬華の問いに興俄が力強く言う。しかし頷いたのは景浦だけ。誰も返事をしない。鷲たちはずっと先にいた。ややあって、金属がぶつかり合っている音が聞こえた。彼らは既に戦っているようだった。
「こいつらはみんな日本語が流暢だな。でも思考の言語は半々って所か」
興俄は向ってくる敵と警棒で格闘しながら目を見て記憶に働きかけ、戦意を喪失させた。言語が入り混じっているのか、いつもより時間がかかっているが、戦意を失った人間はおとなしくその場に座り込んだ。
三階に上がると、鷲は既に廊下にいる敵を斬り倒していた。御堂が会議室のドアを蹴破る。鷲、興俄、景浦、冬華が後に続いた。




