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迂回

「僕と冬華は通れるね。まぁ、そこの二人も頑張ればいけるかな……。でも御堂は身体を斜めにして、いや、ちょっと難しい……」

「俺は何も悪くないぞ。親からもらった大事な身体だ。誰にも文句は言わせない」

 鷲の言葉に被せるように言いきった御堂を見て、興俄は溜息をついた。

「仕方ない。他の方法を取るか」


「いや、僕と冬華が先に行って、中から入れる場所を確保して連絡します。時間がないんだ。冬華、行こう。それで、御堂。ちょっとここに立って」

 鷲が手招きをして御堂を換気口の下に立たせた。彼は背負っていた刀を御堂に持たせると、

「ちょっと肩を借りるよっと、動くなよ」

 そう言うや否や、躊躇ちゅうちょせず御堂の両肩に左右の足を乗せて立ち、換気口に手をかけた。

「おいおい、冗談だろ。俺は梯子はしごじゃないぞ。と言うか、お前、土足で人の肩に乗るな!」

 御堂が抗議の声をあげる間もなく、彼は器用にするりと足から換気口の中に入って行った。換気口にすっぽりと入った鷲は、顔と両手をこちら側にひょっこりと出した。


「御堂、刀をくれ。その次に冬華もこっちへ渡して」

「え? 私? 渡す?」

 冬華が目を瞬かせる。


「そう、頭を進行方向にして抱き上げてくれ。こっちから僕が受け取る」

「ああ、分かった。ほら、まずは刀」

 御堂は頷いて鷲に刀を手渡すと、『ちょっと失礼』と言って、冬華を米俵のように肩に担ぎ上げた。


「は? えええ?」

 突然担ぎ上げられて戸惑っている冬華をよそに、鷲が両手を差しだす。

「冬華、両手をこっちに。僕の両手と繋ぐんだ。こっちから引っ張るから。御堂、もうちょっと押してくれ」

 鷲が冬華の両手を引っ張りながら、御堂が身体を押し込む。

「こいつ、絶対にゆかりちゃんより重いぞ」

「うるさい! どうせ、ゆかりんよりも重いですよ! ちょっと、お尻を押さないで!」

「冬華をこいつって呼ぶな! お前、どこ触ってるんだよ!」

「鷲くん、引っ張りすぎ! 腕が抜ける!」

 三人が言い合っている姿を、興俄と景浦は冷ややかな目で見ていた。なんとか冬華を換気口に押し込むと、鷲は少し広くなっているところで器用に身体に動かし、頭を進行方向にした。中は真っ暗で何も見えない。


「おい、ポケットの中にライトがあるからそれを使え。いいか、出口付近に監視カメラがある。その先も、左右どちらに進んでも複数のカメラが設置されている。恐らく敵は、官邸内にある警備室から全てのカメラをチェックをしているだろう。見つからないように気を付けて動けよ」

 興俄が顔を上げ、換気口内へ入った二人に告げた。

「だって。鷲くん聞こえた?」

「ああ、うん。この体制でついて来れる? 離れたら声をかけて。スピードを落とすから」

 ポケットからペンライトを取り出して、鷲が答える。

「分かった。それにしても結構、埃っぽいね」

「確かに。じゃあ出発するよ」

 鷲は四つん這いの姿勢で前に進んだ。両手が使えないと不便なので、ペンライトを口にくわえる。


「出口部分は浸水対策がしてあるはずだ。壊さないよう丁寧に開けろよ。見張りがいないとも限らない、慎重に行動しろ」

 興俄が再び声をかけるが、すでに返事はない。彼は小さく溜息をついて、

「とりあえず、コレを嵌めておくか」

 興俄はグレーチングを持ち上げて嵌めようとするが、高さが足りない。

「おい、御堂」

「なんだよ」

「馬になれ。高さが足りない」

 そう言ってあごで換気口を指し示した。どうやら御堂を踏み台にしたいようだ。

「はぁ? なんで俺が。嫌だね」

 抗議の声をあげるが、


「誰のせいで、こうなったと思っているんだ」

「キミは自分の立場を分かっているのか?」

 興俄と景浦に睨まれる。

「仕方ないな。靴は脱げよ」

 ぶつぶつと言いながら、御堂は渋々しゃがみ込み、踏み台になった。興俄は靴を脱ぎ彼の背に乗る。

「早くしろよ。お前、結構重いな。本当は俺と体重変わらないんじゃねぇの?」

「踏み台は少し黙れ。俺じゃなくて、持っているコレが重いんだ」

 興俄は両手を伸ばして、グレーチングをしっかりと嵌め込み、ねじを締めた。

「とりあえず、ここを出るぞ。俺達も他に入れる場所がないか探す」

 靴を履きながら興俄が告げると、景浦が頷く。


「このメンツで行動するのかよ。最悪だな」

 立ち上がった御堂は不満顔で言った。それもそのはず、前世ではありえない組み合わせなのだ。

「だから、誰のせいだと思っているんだ」

「通れなかった人間がいたからだろう」

またも責められた御堂は、二人を睨み付ける。

「でもさ、梯子もないのに、俺たちはどうやってあの中に入るつもりだったんだ? 身軽な鷲だから入れただけだろう? それに、誰かが最後にグレーチングを嵌めなきゃいけない。あの場所から侵入する作戦は、最初から見当違いだったんだよ」

 一気にまくし立てる御堂を見て、興俄は小さく溜息をついた。

「あのな、俺と景浦は梯子などなくても入れたはずだ。結局は、無駄に図体のでかいお前だけが残っただろう。一緒に行動してやっているんだ。感謝しろ」

「なんだよ偉そうに。そんなの何とでも言えるだろ。じゃあ、お前も鷲たちと行けばよかったんだよ。俺は一人でも別に問題なかったんだ。なぁ、おい、聞いてるのか? 無視するなよ」

「こちらからも進入路を探るしかないな。あの二人が必ず見つけるとも限らない」

「そうですね。先ほど警察関係者から聞いた話によりますと、もうすぐ自衛隊の特殊部隊も配備されるようです」

「そうなると、殊更迂闊に動けなくなるな。官邸周辺の監視カメラは全て停止しているはずだが、SATやほかの特殊部隊があらゆる場所から官邸を注視しているはずだ。俺達の姿などすぐに見つかる」

「ええ、早急に侵入ルートを見つけましょう」

 興俄と景浦は、まるで御堂がいないかのように会話しながら先を進んだ。


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