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官邸

一行は首相官邸に向かった。官邸の周辺は規制線が張られている。鷲はすでに到着していて、冬華たちの姿を見つけると軽く手を挙げた。


「結構広いんだね」

「ここには、首相公邸、内閣官舎などもあるからな」

 冬華の問いに興俄が答える。


 敷地の周囲は高いコンクリートの防護壁で囲まれていた。勿論、中の様子は伺い知れない。建物内部で何が起きているのか、今は興俄の頭の中だけが頼りだった。

平時であれば、人や車が往来しているであろう通りは緊迫した雰囲気に包まれていた。至る所に金属のバリケードが設置され、多くの警察官の姿が見える。機動隊のバスが並び、物々しい雰囲気だ。


「冬華、この周辺にある監視カメラを全て停止させろ。俺達の姿を映されたら、後々厄介だ。できるか?」

「分かった。やってみるよ」

「カメラがどこにあるか分かるの? かなりの数だと思うけど」

 ゆかりんが聞く。

「半径五十メートルくらいなら、全て止められると思うけど……」

 言いながら目を瞑る。ゆっくりと深呼吸をして、意識を集中させる。

「ええと、いろんな種類のカメラがある。赤外線とか、ちょっと複雑だから時間がかかるかも」

 呟くように言って、深く息を吐いた。

 官邸周辺に配置されている監視カメラの数は、膨大だった。近くのビルにも複数のカメラがある。現在、情報がほとんどないのだ。これらの映像はどこかでリアルタイムに監視されているだろう。自分達の姿が映るわけにはいかない。まずは全てのカメラを停止させ、簡単には起動できないよう、破壊しなければ。


「そのまま続けてくれ。俺は警察官と話をしてくる」

 興俄はこの場にいる警察官の中で、現状に一番詳しい人物と話す必要があった。景浦から制服についている階級章を見れば、目的の人物に近づけると聞いていた。

「すみません、一体何があったんですか?」

「一般人は危ないから下がって。早く家に帰りなさい。出歩いたら危険だって知らないのか? あちこちで放送が流れているだろう。早く帰って戸締りをして、家から出ないこと。わかった?」

「地下鉄も止まっているし、どうやって帰ろうかなって友人と話していたところなんです」

 興俄は微笑みながら、目の前にいる警察官の記憶を読み取る。彼に任務の指示を出した人間を突き止め、またその人物を探して話しかける。それを数度繰り返して、目的の人物を探し出した。

「あの人が現場の指揮官、最高責任者だな。どちらにしても規制線の中に入らなければ近づけないか」

 目的の人物、現場の最高責任者である指揮官は規制線の中にいた。興俄は人質がいる部屋の位置や間取り、犯人が所持している凶器の種類、犯行の動機や目的などを指揮官がどのくらい把握できているのか、記憶から把握しておきたかった。


 冬華が周辺の監視カメラを止めた頃、どこからともなく景浦が現われた。彼は手にラミネート加工された茶色の紙袋を五つ持っている。

「制服の用意ができました」

「おい、お前達」

 景浦から包みを受けった興俄が、冬華たちを呼ぶ。

「ここから先に行くのは、俺と景浦、あとは冬華とお前たち二人」

 そう言って、鷲と御堂を指さす。名を呼ばれなかった麻沙美とゆかりんが、不満そうに顔を見合わせた。

『私達は?』

「行ったところで何もできないだろう。荷物の番でもして、その辺で待機しておけ。いいか、これから五人で首相官邸に入る」

 言いながら、紙袋を冬華、御堂、鷲に手渡した。

「警察官の制服だ。その辺で着替えてすぐに戻って来い」

 紙袋を開くと、中には警察官の制服と制帽が入っていた。受け取った三人は、どこかで着替えようと近くビルに向かった。


「あいつら、なんでこんなものが用意できるんだよ」

 訝しげに御堂が言う。

「あの人が警察官だからじゃない?」

 冬華が答えると、

「だから、どうして服のサイズが分かるんだよ。俺は特注サイズだぞ。サイズがわかるなんて気持ち悪いだろ」

 御堂が顔を顰める。

「ああ、確かに気持ち悪いね」

 鷲が苦笑いした。


 三人は近くのオフィスビルに入った。この非常事態だ、さすがに人の姿はない。だが、どのオフィスも入口は厳重に鍵が掛けられていた。どこかの更衣室を借りて着替えることはできなかった。

「見張ってるから、冬華は非常階段で着替えておいでよ」

 すでに着替えを始めている鷲が、建物の奥にあるドアを指さす。ドアには非常階段と書かれたプレートが貼られていた。

「ああ、うん。じゃあ行ってくる」

 冬華はドアを開け、非常階段で着替えを始めた。袋の中には、ワイシャツと制服の上着、ズボン、帽子などが入っている。

 どうして自分の服のサイズが分かるのか、御堂が言うようにいささか気持ち悪い。確か、以前に渡された制服もサイズがぴったりだった。袋の中には警察手帳や手錠はないようだが、着替えてみるとそれなり警察官に見える。髪は手持ちのゴムで一つに括った。


「ねぇ、コレってどう着るの?」

 着替えを終えた冬華が聞いた。景浦に渡された袋には、重さ二キロほどの防弾チョッキも入っていたのだ。

「くそ暑いのに、そんなもの着てられるかよ」

「そうだね。僕も着ない」

 あっさりと言う二人に、冬華も確かに……と思い着るのをやめた。


 警察官の制服に着替えて戻ると、興俄と景浦は既に制服姿で待っていた。

「おい、お前達。防弾チョッキはどうした?」

「暑いから、いらない」

 冬華の言葉に景浦が舌打ちをした。興俄は「ふざけてるのか?」と三人を睨み付ける。

「まぁ、いい。これから規制線の中に入るぞ。絶対に不審な行動はするな。特にお前、勝手な行動はするなよ」

 興俄は厳しい顔で鷲を指さした。

 指をさされた鷲は注意を受けたとは思っていないようで、真顔で興俄に質問した。

「それにしても、これだけ厳重な警備の中で身分の不確かな者が、そう簡単に入れるはずはない。誰が引き入れたか、分かっているんでしょうね。まさか、ここまで来て知らないとは言わないでくださいよ」

「そのくらい把握している。とりあえず出発するぞ」

 めんどくさそうに答え、興俄は歩き出した。


「最近起こった水害と地震で、日本は大きなダメージを受けたろ。国としても与野党関係なく、超党派の国会議員で今後の対策について話し合っていたんだって。でも、その中に裏切者がいた。学識経験者だと言って、敵に内通している人物を易々と官邸内に入れていたみたいだ。他にも手を貸した連中が官邸側にいるらしいぞ。って、あいつが車の中で言ってた」

 御堂が鷲に耳打ちする。


 

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