戦闘
「御堂、援護は任せた。もう少し前進しよう。冬華と菜村さんはここにいて」
「え? あ? 俺に援護を任せるってお前……」
御堂が聞くと同時に、上空まで上がったドローンが次々と雷管を投下した。雷管が建物に到達すると爆発が起こり、バラバラとコンクリートが剥がれている。軋む音が聞こえ、屋上にあった看板の骨組みが倒れて地面にたたきつけられた。建物は屋上から徐々に形を変えながら崩れていく。
建物内から怒号と悲鳴が上がり、締め切られていたカーテンが開かれた。
バイクに乗った鷲はエンジンをかけ、北側の出口を見据えた。彼の手には先ほどまで背負っていた刀が握られている。
建物が崩れ始めると、次々に人が飛び出してきた。最初の一人が飛び出してきた瞬間、鷲はバイクのエンジンを吹かして一気に加速した。出てきた人間は皆、手に武器を持っている。ライフル、拳銃、ナイフ、鉄パイプ……彼らは鷲の姿を見つけると武器を構え襲って来た。
しかし、敵が武器を構えるよりも早く、鷲はバイクに乗ったまま刀を振りかざした。片手でバイクのハンドルを操作し、縦横無尽に動きながら、まずは銃やライフルを持っている男を的確に斬りつけた。
斬られた男が倒れこむと同時に、鉄パイプを持った男が固まって向かってくる。鷲はバイクを操り動き回った。敵が散らばったことを確認すると、左右に分かれたところをそれぞれ横一文字に斬りつけた。かろうじて刀を躱した男が、背後から鉈を振り下ろす。鷲はバイクを転回させながら、刀で下から鉈を跳ね上げた。相手がひるんだ隙に袈裟懸けに斬り付ける。
斬られた人間達はその場にバタバタと崩れ落ちた。呼吸を整える間もなく、次々に人が襲ってくる。鷲は多方向からの一撃を躱しながら、相手の身体を斬りつけていた。
「なんか黒い馬に乗っているみたいだね。バイクも刀も自在に操ってるって感じ。さすが義経」
一人で次々に敵を倒す鷲を見て、ゆかりんが感心したように声をあげた。
「バイクに乗ったまま刀を振るとか、尋常じゃないだろ。既視感ありすぎ」
御堂がにやりと笑う。
「どういうこと?」
ゆかりんが首を傾げる。
「アイツさ、前は黒い愛馬に乗ってたんだよ。馬上から刀を振り回して、縦横無尽に動き回っていたなって思い出して。いやぁ、時代が変わってもやるねぇ。ああ、俺も加勢しないと。ゆかりちゃんは危ないから下がってて」
御堂は与えられた武器を握りなおして、鷲の援護に回った。彼もまた銃を持っている相手に対しても、躊躇せずに向かって行った。
瓦礫の間に身を潜めていた男が、鷲に銃口を向けた。気配を察知して振り向くが、既に引き金が手に掛けられている。
「鷲くん、危ないっ」
冬華が銃に向けて強く念じる。すると、銃はぐにゃりと形を変え、暴発した。鷲はすかさず相手の身体に刀を振り下ろした。
「すごいね、冬華の力」
ゆかりんがほうと息を吐く。冬華は頷いて傍らに落ちている鉄の塊を拾い集めた。旅館の屋上にあった看板を支えていたものだ。腕に抱えて目を閉じる。旅館の一部だったソレはみるみるうちに一つの鉄棒に変わった。
「これ、御堂さんに渡して。さっきのより頑丈だと思うから」
ゆかりんに手渡す。
「たっくん、これを使って」
すでに御堂の武器はボロボロになっていた。
「おお、良い武器だな。サンキュー」
新たな武器を受け取った御堂は、鷲の援護をするべく駈け出した。
鷲と御堂の奮戦ぶりは凄まじかった。たちまち敵を倒し、逃げようとする敵さえも容赦なく追い詰める。御堂は新しい武器を振り回しながら、がむしゃらに殴り掛かっていた。
「だいたい片付いたかな。冬華、さっきはありがとう。助かったよ」
バタバタと倒れている人間を見ながら、鷲がバイクから降りた。その時、鉄パイプを持った男が瓦礫の陰から現れた。
「お前、サムライか。よくも仲間を。絶対に許さない」
男は日本語を話し、臨戦態勢で敵意を剥き出しにしている。
「お前達は何故、罪のない人を襲う。何が狙いだ」
刀を構えたまま、低い声で鷲が問う。
「殺すならさっさと殺せ。もし俺が死んでも、家族の生活は保障される。こうするしかないんだよ」
そう言うや否や、男は鷲に向かって飛び込んで来た。叫び声をあげながら、鉄パイプを振り下ろした。一方の鷲は両手で刀を構えたまま、ひらりと身体を躱して飛んだ。彼の身体は男の頭上よりも高くにある。
『えっ、と、飛んだ?』
冬華とゆかりんの声が重なった次の瞬間、ごとりと鈍い音がした。男が鉄パイプを落としたのだ。鷲の刀が男の右腕を斬りつけていた。次いで彼は、身体を回転させながら男の足を斬りつけた。斬りつけられた男は呻き声を上げながら、その場に崩れ落ちた。
「まったく……こいつらは一体、何のために戦っているんだ」
刀の血振りをしながら鷲が呟いた。ポケットから懐紙を取り出し、刀を拭ってから鞘に納める。
「家族の生活は保障されるとか言っていたよね。戦わざるを得ない何かがあるのかな……」
冬華が重苦しい声で言うと、ゆかりんも「なんか辛いね」と頷いた。
「仮にそうだとしても、罪のない人たちを殺している事実には変わりはない。僕は躊躇しないよ。僕の目の前で、この国の人は誰も殺させない。ここに来るまで本当にいろんな光景を見たんだ、金品の略奪や女性への乱暴、子供までも殺されていた。僕は絶対に許さない」
鷲は力強く言い切った。
「お見事。それにしても、鷲は息切れ一つしてないな」
満身創痍の御堂が二人に近づいて、傷一つない鷲を見る。
「今回は身軽だからね。前はあんなに重い鎧を着て、よく戦っていたって思うよ」
「確かに……ってそうじゃなくて、俺に内緒で戦の訓練でもしてたのか? 一人で美味しいところを持っていきやがって。なんでそんなに強いんだよ。今までロクに喧嘩だってしたことないだろ?」
「ああ、それは……」
鷲が言いかけると、
『義経だから』
冬華とゆかりんの声が重なった。
「そういうこと」
鷲が涼しい顔でにやりと笑った。
「はいはい、そうですか」
御堂は不服そうに持っていた武器を投げ捨てた。




