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共闘

 冬華が興俄に向かって頬を膨らませたその時、一台の車が校庭に侵入してきた。


「おっ、来た来た」

 御堂が運転手に手を振る。

「誰?」


 一同が車を注視すると、運転席から一人の男が降りてきた。その男、源範頼こと蒲島範武は、鷲を見つけると彼の方へまっすぐに歩いてくる。


「おい、椎葉。お前な、連絡をくれって言っただろう? 御堂から連絡もらって驚いたぞ。一人で敵陣に乗り込むなんて正気の沙汰じゃない」

「ああ。範頼殿、じゃなかった、蒲島さん。来てくれたんですね」

 鷲が笑顔を見せると、麻沙美が二人に近づいた。


「あら、久しぶり。貴方も現世にいたのね、気が付かなかった」

「その節はどうも」

 蒲島はぶっきらぼうに答えて、鷲に耳打ちを始めた。彼の視線は興俄へと向けられている。


「あの人が鎌倉殿か、随分と若いな」

「まだ高校生なんですよ」

「現世は妻の方が年上なのか?」

「ええ、そうなんです」

「いいか、あの男は絶対に信用ならん。お前もよく分かっていると思うが。あいつが信じているのは己だけだ」

 蒲島が力強く言い切る。

「そうでしょうね」

 鷲は深く頷いた。二人の視線はずっと興俄を見ている。蒲島は続けた。

「仲間内に揉め事が起こったとしても、どちらも己にとって都合のいい人物ならば、双方処分はしない。それどころか、揉め事さえも揉み消そうとする。しかし、少しでも不穏な動きを見せたなら、有無を言わず切り捨てる。どんなに弁解しても、だ」

「ええ、よく分かりますよ。お互いに苦労しましたね」

 再び鷲が深く頷くと、二人を冷めた目で見ていた興俄が近づいて口を開いた。

「お前たちは何も学んでいないようだな。少しでも怪しければ始末する。情などかけてみろ。己の寝首を掻かれるだけだ。日本人の相手を思いやる心は、海外では都合の良い相手と思われるのが現実だ。時には、毅然とした態度も必要なんだよ」


「そうですか。とりあえず、この現状をどうにかしましょうよ。危機が迫ってる今、無駄に並べる御託ほど役に立たないものはないでしょう。まずは行動あるのみ。戦の天才である僕が案を出しますから」

 鷲が淡々と言うと、

「おい、俺が講釈をたれているとでも言うのか? お前の指図は絶対に受けん」

 不機嫌そうに興俄が言い放つ。

「そんなことを言っている場合じゃないでしょう? 未曾有の事態なんだから」

 鷲も言い返す。

「不本意だが、ここは兄弟で共闘するしかないだろうな」

 蒲島の言葉に鷲と興俄が眉を顰めた。

「共闘? 俺とこいつがか?」

「僕だって嫌ですよ。この人と共闘なんて」

 二人が露骨に嫌そうな顔をする。


「ちょっと、今は兄弟喧嘩をしている場合じゃないでしょ!」

 冬華が二人の間に割って入り、ぴしゃりと言った。彼女は厳しい表情で二人の顔を交互に見る。

「全く、二人ともしっかりしなさいよ」

「え、冬華? どうしたの」

 いきなり叱責された鷲が、驚いた顔で冬華を見た。

「やれやれ、強くなったものだ。いや、こっちが素だったな」

 興俄が肩を竦めると、

「貴方には強い妻がいるから、慣れているんでしょうけど。冬華ってこんなキャラだったかなぁ」

 鷲がポツリと零す。

「そんな話、今は必要ないの。興俄先輩は今後の戦略を立てる。鷲くんは可能な限りの戦術を考える。二人が知恵を出し合えば、きっと何か良い方法があるはずだよ。兄弟喧嘩はその後にして」

 また、冬華がぴしゃりと言った。


「こいつと共闘は無理だ。俺が指示を出す。お前はただ俺に従え。まずは集まった面々と話し合う」

 興俄が言うと、

「そんな悠長なことが言ってられますか? この瞬間にも各県が攻められているんですよ」

 鷲が言い返す。


「いい加減にして! 兄弟喧嘩は時間の無駄!」

 冬華に怒鳴られ、二人は顔を見合わせて黙った。


「お嬢さん、誰?」

 不思議そうに蒲島が尋ねる。

「お嬢さんじゃないよ。彼女は『静』だ」

 御堂が答えると、

「静ってあの静?」

 蒲島が首を傾げて、まじまじと冬華を見た。

「違います。私は冬華。夢野冬華です。蒲島さん、貴方も何か考えて」

 冬華は彼に向かってもぴしゃりと言い放つ。しかし、どれだけ話し合っても二人は共に戦えないと言い合った。


 そして結局、

「俺が東を護る。お前は西だ」

「そう言う話ならやりましょう」

 興俄の言葉に初めて鷲が頷いた。

「逐一、俺に報告しろ。今回は勝手な真似はさせん」

「僕はいつだって勝手な真似なんてしていません。貴方がそう思っただけでしょう。冬華、行こう」

 鷲が冬華の手を引き、歩き始める。


「おい、冬華はこっちだ」

 興俄が声をあげる。

「あんたには力があるんだろ。こっちは誰も持っていないんだぞ」

 鷲に続いた御堂が叫ぶと、

「私は鷲くんと行く。先輩はそこにいる人たちを使えば何とかなるでしょ」

 冬華は冷たく言い放って、鷲と手を繋いだまま歩き出した。


「奇襲攻撃はスピードが大切なんだ。あの人はそれが分からない。蒲島さん、僕はバイクで行くので、他のみんなをよろしくお願いします。車の運転を頼みましたよ」

「え? 俺が車出すの? 俺もこっちなの?」

 輪の中にいた蒲島が、きょとんとした顔で鷲を見る。

「他に誰がいるんですか。早く行きますよ」

 鷲に促され、蒲島も彼らに続いた。


「それで西って言っても、これからどこに行くんだよ」

 蒲島が聞くと、

「まずは本州の西、山口県下関市へ行こうと思います」

「また壇之浦へ行くのか?」

 御堂が目を丸くする。

「ああ、山口は岩国基地もあるし、自衛隊の施設もある。僕ができることは何もないと思う。けれど、様子を見ながら中国地方、四国、近畿、中部と戻って来ようと思うんだ。だから蒲島さんも、僕たちと一緒に行動しましょう」

「いや、俺はお前達を下関で降ろしたら、九州へ行く。今、日本全国の通信インフラが壊滅的な状況になっているからな。会社からも、様子を見てくるように言われているんだ」

 そう言えば、以前もらった名刺に通信関係の仕事をしていて、全国に支店があると書いてあった。蒲島は続ける。

「それに、前に話した仲間たちとも落ち合う約束をしているんだ。もともと、あの人がよからぬことを企んでいるだろうって、集まるつもりだった。俺達独自で連絡できる通信体系を確立しているからな、携帯が不通でも連絡できるんだよ。みんなで暴れている奴らを押えてくる。沖縄は米軍基地が多数あるし、自衛隊と海上保安庁に任せた方が良いだろうな。行っても邪魔になるだけだ」

「ええ、そうでしょうね。じゃあ、九州を宜しくお願いします」

「まぁ、一緒に行動しても、お前ばっかり美味しいところを持って行くだろうし」

「え? そんなつもりはないんですけど」

「いいか、壇之浦が終わっても九州には誰も来るな。絶対に邪魔するなよ。誰も来させるな」

 強い口調で蒲島が言うと、

「なんだか言い方に棘がありますね」

 鷲が肩を竦める。

「覚えがあるだろう」

 蒲島がぶっきらぼうに言い放った。


『元暦二年(一一八五)三月大九日壬辰 三河守自西海被献状云 就爲平家之在所近々 相搆着豊後國之處 民庶悉逃亡之間 兵粮依無其術 和田太郎兄弟 大多和二郎 工藤一臈以下侍數輩 推而欲歸參之間 抂抑留之 相伴渡海畢 猶可被加御旨歟 次熊野別當湛増依廷尉引汲 承追討使 去比渡讃岐國 今又可入九國之由 有其聞 四國事者 義經奉之 九州事者 範頼奉之處 更又被抽如然之輩者 匪啻失身之面目 已似無他之勇士 人之所思 尤               吾妻鏡 第四巻より』


 三河守(範頼)が九州から頼朝に手紙を寄越した。『平家の所在が近いと思い(豊後)大分県へ来てみたら、庶民が逃げたので兵糧米がありません。和田太郎兄弟や大多和二郎、工藤一臈を始めとする侍達は、言う事を聞かず帰ろうとします。私が押し留めて伴に海を渡ってきました。一層の命令を出してください。それと、廷尉(義経)に加勢した熊野別當湛増が、今度は九州へ来ると聞きました。四国への進駐は義経で九州への進駐は範頼ですよね。こちらへ更にそのような人間が来れば、私は面子を失います。勇士がいないと人から思われてしまいます』と言うような内容だった。



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