説法
「なぁ朋渚。なんで、椎葉と神冷先輩が戦うんだ? って言うか、椎葉の刀、アレって本物? みんな何をやってるの?」
一人だけ状況が飲みこめない賢哉が首を捻るが、ともちゃんに『賢哉は何も知らなくていいの!』と一蹴された。
「国の機関も大混乱しているよね。そうだ、自衛隊は? 国が攻められたら戦ってくれるんだよね」
「何事にも手順があるだろう。国内で起こっていることがただの暴動で、不特定の武装組織やテロリストによって行われているとなれば、警察や海上保安庁による警察権の行使が最適だ。もしも警察や海上保安庁では手に負えないと判断されたら、自衛隊による治安出動などが検討されるだろう。だが、自衛隊が武器を使用するには、警察官職務執行法や海上保安庁法に準じる必要がある。今の日本では、軍事力の行使はあくまで最終手段でなければならないんだよ」
冬華が鷲に問うと、代わりに興俄が答えた。
「そんな面倒な手続きすっ飛ばして、超法規的措置で何とかならないんですか。何でもいいから、自衛隊・海保・警察みんなで協力すれば早いでしょう」
厳しい顔で鷲が言う。
「どの有事を海上保安庁や警察が扱って、どこから自衛隊が出動するのか。それよりも組織間で連携していくか。これらは今日まで適切な法整備がされていない」
「はぁ? なんでだよ」
御堂が納得いかない顔で興俄に詰め寄るが、
「高校生の俺に言われても困るな」
あっさりと返され、鷲が眉を顰める。
「こんな時にだけ高校生になるのはやめてください。貴方のことだから、何か隠しているんでしょう」
「俺は軍事に詳しくない。お前の方こそ何か策はないのか。昔はあれだけ好き放題やっただろう」
「時代が違いすぎます。それに僕だって高校生です」
苛立ちを含んだ声で鷲が言った。
「でもさ、どうやって攻め入ったんだろう。これだけ一気に武装した人が上陸して暴れるなんて、港とか空港とか、誰も事前に気が付かなかったのかな」
冬華が問うと、
「攻め入っただけではない。元からこの国に潜んでいる人間がいたんだ。あらゆる分野に居座って、一斉に手引きできる機会を狙っていた。今の時代、いきなり戦闘機が武力で攻めてくるわけがないだろう」
「お前は知っていて、何もできなかったのかよ!」
御堂が声をあげるが、
「ただの高校生の俺にどうしろと? この国にはスパイを防止する法律すら、まともに成立しないんだぞ。俺達が何も知らず生活している間に、あいつらは自国の組織を作っていた。もちろん真面目に暮らしている外国人は大勢いる。いや、ほとんどはそうだろう。だがな、全てが善人だとは限らない。だいたい、この一ヶ月の間に自衛隊機が何度緊急発進をしているのか知っているか? 海上自衛隊がどれだけ活動しているか知っているか? 無人の離島へ侵入されても、対処できる適切な法整備は不十分だと知っているのか?」
興俄は冷静な口調で説き伏せた。
「そんな話、ニュースにもならないから知らないよね。SNSでも話題にならないし」
ゆかりんが困ったように言うと、
「情報は自分で取りに行け。与えられたものだけを鵜呑みにするな」
興俄に一蹴される。落ち込んでいるゆかりんを見た御堂が、彼に詰め寄る。
「あのな、国民の多くは日々の暮らしで一生懸命なんだ。みんな必死に働いているんだよ。忙しいのに自分で調べろとか横暴だろ。だいたいこう言う場合はアメリカが守ってくれるんだろうが」
「確かに日米安保条約では、日本に対して武力攻撃が発生した場合は、アメリカと日本は共同で対処すると義務付けられている。だがな、それはアメリカは自国の憲法上の規定および手続きに従うという条件がついているんだよ。在日米軍は尽力してくれるとは思うが、日本が有事だからとすぐにアメリカから飛んできて守ってもらえるだろうなんて、呑気に思っているのは日本国民だけだ」
「なんでこうなったんだよ。俺達は戦争をしたいわけじゃなくて、自国を守りたいだけだろ。俺はじいちゃんが始めた御堂精肉店を守りたい。もちろんゆかりちゃんも守る。でもどうすりゃいいんだ、なぁ、どうするんだよ」
悔しそうに言う御堂を興俄は冷めた目で見る。
「確かに経済面では、他国の力が必要だった。事実、日本の経済はかなり助けられているだろう。経済界の言い分も分かる。だからこそ、経済では友好的関係を結びつつ、軍事では毅然とした態度をとるさじ加減が大切なんだ。ずっと昔から棚上げされてきたから、この有様だよ」
「現状を把握したいけれど、こうも情報が遮断されると、みんなパニックになっているだろうね」
鷲が肩を竦める。
「これを契機に周囲との関係を遮断して、皆一度、己と向き合えばいい。今世の真実を一人一人が己の目で見て、自分の頭で考えられる良い機会だ。だいたい、自分で考えられない国民が多すぎる」
興俄がきっぱりと言い切った。
「あのさ、なんでさっきからそんなに上から目線なの?」
冬華が奇妙なものを見るように興俄を見ると、
「しょうがないでしょう。鎌倉殿なのよ」
満足そうに麻沙美が微笑んだ。
「だいたい島国という海に守られた日本人は、策略という点では相手の足もとにも及ばない。国土が狭くて施設が限定的な日本など簡単に落とせる。だからこそ、本気で守ることを考えておかなければならなかったんだ」
「貴方は考えていたんですか? 国を支配した暁には、国を護る法整備をすると」
訝し気に鷲が聞くと、
「勿論だ。だが今は机上の空論、やるべきは事態を終息させること。完全に終わらせる。いいか、後世に残った武士の礎は俺が作ったようなものだ。全て終われば混沌とした現代に再び俺が礎を築いてやる」
「あのねぇ、貴方のおかげって言いたいようだけどそれは違うよ。あの時代、自分の家族や領地を護るため、命を懸けた誇り高い武士たちがいた。命をかけて戦った人がいるから、今までこれだけ平和だったの。世の中は貴方が変えるんじゃない。みんなで変えるんだよ」
懸命に訴える冬華の言葉を、興俄は完全に無視した。あからさまに無視をされた冬華は、べーっと舌を出す。




