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訓練

ここにきて五日間が過ぎた。

 冬華は連日、興俄と共に行動している。あちこち連れまわされたり、学校にいる時間はもっと力が使えるようにと、様々な訓練をさせられたりしていた。

 力を長時間使うので疲労はピークに達していたが、鷲の居場所を知られている以上、従うしかなかった。

 

  冬華は連日、様々なセキュリティシステムの停止、解除、設定、起動の訓練をしている。

 彼女の能力は、破壊するだけなら容易いのだが、元の状態に戻すにはある程度の仕組みを理解しなければいけないようだった。最初に連れまわされた時、何ケ所かのセキュリティを元に戻せなかったのだ。

 昔、傷ついた猫を助けたことがあったので、なんでも簡単に戻せると思っていたが機械類はそうでもないらしい。

 そんなことがあり、冬華は監視カメラやセキュリティシステムの仕組みを覚えさせられていた。


 時間が空けば、興俄は冬華につきっきりでさまざまなことを教えていた。セキュリティの仕組みはもとより、一般常識、モノの材質に至るまで彼女の頭に叩き込んでいる。

 二人の間に、かつて勉強を教えた時のような穏やかな空気は流れていない。興俄は物覚えの悪い冬華にイライラして嫌味を言っていたし、馬鹿にされた冬華も負けじと言い返していた。

「だから、この回路が先だろう。何度言えばわかるんだ! いい加減覚えろ!」

 興俄が苛立った声を上げると、

「そんなに怒鳴らないでよ! 私だって頑張ってるんだから!」

 冬華も負けじと声を張り上げる。

「もっと集中しろ。こんなスローペースじゃ、いつまで経っても進まない」

「私だって、好きで物覚えが悪いわけじゃないの!」

「できないなりに努力しろ!」

「いちいちうるさい! ちょっと黙って!」

 口喧嘩は次第にエスカレートし、最終的には口をきかなくなり、お互いにストレスはたまる一方だった。

 その後、冬華を不憫に思ったともちゃんが興俄と交代して、暗記しやすいよう手伝ってくれた。


 今日も早朝に起こされ、校庭の中央に立たされている。すでに日が昇り、校庭の樹木は日光を浴びて輝いてた。ここ連日は最高気温が更新されている。

「あのねぇ。私、まだ眠いんだけど。夏休みの小学生じゃあるまいし、ラジオ体操でも始めるつもり?」

 冬華は不満顔で興俄を睨む。

「そんなわけないだろう。いいか、校舎内のどこかに監視カメラを設置している。今からそれを停止させてみろ。どこにあるか、どういうシステムなのか、ここから探れ。完全に停止させた後、再び起動させろ。それがお前の課題だ。全てできるまでここを動くなよ」

 冷ややかな口調で興俄が告げた。

「いつも夜遅くまで連れまわされているし、力を使ったら眠くなるって知っているでしょ? 睡眠は大事なんだよ」

「文句ばかり言わずに早くやれ。これからますます気温が上がって暑くなるぞ。こっちは親切心で涼しい時間帯に始めてやっているんだ」

 できるまで動くなと再度念を押して、興俄は校舎内に入って行った。


「もう、なんなのよ。あの悪魔」

 悪態をつきながら目を瞑る。集中しなければ力は使えないと思い、深呼吸をして心拍を整えた。自分が自分でありながら遠くへと分散されていく。宇宙空間の中で一人きりになっている感覚に囚われながら、建物内にある監視カメラを探った。

 様々なモノが細かくなった自分の傍を通り過ぎていく。その中に目的の集合体を見つけると、呼びかけた。世の中に存在する監視カメラの種類や接続方法などを全て覚えろと言われ、頭に叩き込んだのは数日前のこと。赤外線、ドーム型、小型、IPカメラ、RTZ 、同軸ケーブル、ネットワークはどうなっているか、記録媒体は……冬華の呼びかけに相手が呼応する。


「できた……かな。ったく、カメラ一つじゃないじゃん」

 校舎内には種類の違う監視カメラが三つあった。それぞれを停止させ、記憶媒体からデーターを消去し、もう一度起動させた。


「疲れた。早く部屋に戻って寝ようっと」

 ふうと大きな溜息をつき校舎に戻ると、靴箱の前で興俄が待っていた。

「ちょっと、カメラが三つあるなんて聞いてないよ」

「合格だ、今度は校庭の端まで行け」

「はぁ? まだやるの?」

 抗議の声を無視して、彼は校舎内に戻って行った。

「あの人は丁寧にお願いするってコト、知らないんだろうね」

 ブツブツと言いながら校庭の端まで行って、先ほどと同じように集中した。しかし、どれだけ集中しても彼女の力が届くことはなかった。太陽がじりじりと肌に照り付ける。暑さで眩暈がしそうだ。

「もう休みたい……」

 喉が渇いて、声がかすれて出てくる。それでも五分ほど頑張ってはみたが、対象物が呼応する感覚はない。

 その時、ふと彼女の頬に冷たさが伝わった。目を開けると、興俄がペットボトルを頬に押し当てている。

「冷たっ! いきなり何なの!?」

「百メートルも離れると無理か。もういいぞ、中に入れ。ほら、これをやる」

 彼はスポーツドリンクが入ったペットボトルを差しだした。受け取った冬華は、キャップを開けて一気に口内へと流し込んだ。

「三十分したら出かけるぞ」

 冷酷な言葉に、げほっと咽せて、ペットボトルを口から離した。

「はぁ? ちょっと休ませてよ。せめて昼からにして」

「車内で寝ればいいだろう。いつも涎を垂らして爆睡しているじゃないか」

 小馬鹿にしたように笑いながら、冬華に背を向ける。

「涎なんて垂らしてないし! ほんと、性格悪っ。さっさとくたばれ!」

 背中に罵時雑言をぶつけるが、彼が振り向くことはなかった。


 その後も冬華は興俄に連れまわされ、行く先々で力を使わされた。


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