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「神冷先輩って最低だね。見損なった」

「ホント、そんな人だとは思わなかったよ。北川先生と付き合いながら、冬華もキープしておこうってコトでしょ。なんなの、それ。絶対に許せない」

 ともちゃんとゆかりんは、不快感を露わにして三年生の教室へ向かった。教室に着くと、ちょうど廊下側の窓が開いている。二人は廊下から教室の中を見回した。


「あ、御堂さんだ。やっぱり素敵だなぁ。ほら、ともちゃん、あの人が御堂さんだよ。背が高い方ね」

 ゆかりんが、同級生と談笑している御堂を指さす。

「ああ、あの人か。確かに、ゆかりんのタイプだね。じゃなくて、私達は神冷先輩に会いに来たんだって。ええと、教室にはいないね」

「あ、そうだった。神冷先輩は……と。あ、いた」

 二人は、廊下の向こうから歩いてくる興俄を見つけた。


「やっぱりあの人、威圧感があるなぁ。ゆかりん、覚悟はいい? 一緒に冬華の想いを伝えるよ。まずはどうやって言うか考えないと……すみません、冬華の友人としてちょっといいですか……いや、おかしいかな……ここはシンプルに……」

「私、伝えてくるね」

「え? ちょっと」

 ともちゃんが悩んでいるのをよそに、ゆかりんが駈け出して、興俄に要件を伝え始めた。驚いたともちゃんが、二人の前に着いた時には既に、要件を話し終えたゆかりんが『興俄先輩、放課後、オッケーだって』と笑顔で言った。



放課後、意を決した冬華の前には興俄がいる。友人達が、人気のない校舎裏に呼び出してくれたのだ。


「友達に頼んで呼び出すなんてどうした? 話があるなら、直接連絡すればいいじゃないか」

「先輩にお話があります。私……」

冬華はまっすぐに彼を見た。北川先生に全てを聞いたので、別れて欲しいと言いかけると、彼が言葉を被せてきた。

「でも丁度良かったよ。俺も冬華に話があったんだ。日曜、空いてるか? 一緒に出かけようと思うんだけど」

  いつものように微笑まれ、冬華はおずおずと尋ね返す。

「空いてはいますけど……ここで話はできないんですか?」

 きっぱり話して、早く別れたかった。だが彼は、

「いや、ここじゃダメだな。冬華とはあの場所で話がしたい」

「あの場所? えっと、どこへ行くんですか」


 別れ話を切り出すのだ。出かけるにしてもあまり遠くない方が良い。そう思ったが彼の返答は、突拍子もないものだった。


「神奈川県だよ」

「神奈川……ですか? 私はもっと近場が良いんですけど」

「どうしても冬華と行きたい場所があるんだ。そろそろ一緒に行ってもいいかなって思ってさ」


 彼の声は嬉しそうに弾んでいた。冬華が別れ話を切り出すとは、微塵も思ってないようだった。


「ええと、神奈川県に、先輩が行きたがっていたテーマパークってありましたか?」


 神奈川県へ行くには、ここから電車で数時間はかかる。冬華は神奈川のデートスポットを思い浮かべた。八景島シーパラダイス、赤レンガ倉庫、中華街、みなとみらい駅周辺……。  


「テーマパーク? 行くのは鎌倉の鶴岡八幡宮だよ」

「え?」

 どこだろうかと考える。行ったことも、聞いたこともない場所だった。


「冬華の話はそこで聞こう。俺も大事な話があるから」

「北川先生の話なら……」

 何度も同じことを聞かされるのは、ごめんだった。

「北川先生? あの人とは何の関係もない話だけど。ああ、なんか言われたのか。昨日もそんなことを言っていたな。あの人はちょっと面倒な性格だから、気にするな。俺の話は、二人だけの大事な話だ。俺達だけが成し得ることのできる話。先生に何を言われたのかは知らないけれど、俺にとってお前は特別なんだよ」

彼は微笑んだ。何か思惑があるような笑顔ではなかった。本当に、冬華とデートをするつもりのようだ。

「わかりました」

冬華は固い表情で頷いた。彼の言う大事な話が何か、全く思い当たらなかった。

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