表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/85

邂逅

 風薫る五月、女子高生と思しき三人がファーストフード店にいた。今は中間テストの真っ最中。カウンターで注文を終えた彼女達はトレイを受け取り、窓際の空いている席に座った。


「ねぇ、今日のテストできた?」

 ともちゃんが聞いた。彼女の名前は一条 朋渚(いちじょうともな)。170cmを超える長身で細身。ショートカット、涼しげな顔立ちをしている。


「さっぱりだよ。特に日本史って範囲が広すぎ」

 長い黒髪の彼女が項垂れた。彼女の名前は夢野ゆめの 冬華とうか。クラスではあまり目立たないが、よく見ると、目鼻立ちがはっきりとした美人である。


「三人まとめて補習確定だな、こりゃ。ていうか、明日もテストなのに、私達はここにいて良いわけ?」

おどけたように、ゆかりんが言った。彼女の名前は菜村なむら 優夏梨ゆかり。肩まで伸びた栗色の髪を持つ彼女は、小柄で可愛らしいルックスだ。


「帰ったら嫌でも勉強するでしょ。(いくさ)前の腹ごしらえだよ。あと一日、頑張らないとなぁ」

 ともちゃんが遠い目をする。

「そういえば、生徒会長の神冷先輩。今朝見かけたけど、やっぱり素敵だよねぇ」

 ポテトを手に持ったまま、うっとりした口調で、ゆかりんが言った。

「一年の二学期から生徒会長をやっている人って前代未聞らしいよ」

 ともちゃんが、うんうんと頷いて答える。


 神冷先輩は彼女達より一学年上の三年生、名前は神冷かみれい 興俄こうが。180cmを超える長身で、黒髪で整った顔立ちのイケメン。クールな印象だが、時折見せる笑顔がかわいいと、女子生徒に人気がある生徒会長だ。

「でもさ、一年生で当時の生徒会長を引きずり下ろすなんて、なかなかできないよね。どんな手を使ったんだろう。買収かな」

 ぼそりと冬華が呟けば、二人が厳しい視線を寄越す。


「そんな、政治家じゃあるまいし、生徒会長になるために、お金を配ったりしないでしょ」

「実力よ、実力。周りから是非にと推薦されて、引き受けたみたい」

 冬華は生徒会長を持ち上げる発言をする二人に、疑いの目を向ける。

「その話も怪しいと思うな。あの人は何かすごい権力と癒着しているんだよ」

「またぁ、冬華は何でも疑いすぎ。だいたい、すごい権力って何?」

「たかが公立高校の生徒会長が、誰と癒着するのよ」

 高らかな笑い声が店内に響いた。


 同じ頃、椎葉しいば しゅうは一人でファーストフード店へと入った。

 彼女達と通っている高校は違うが、彼も高校二年生。店内を見回すが、待ち合わせの相手はまだ来ていない。あいつ、また遅刻だなと溜息をついた時、ふと、彼の耳に華やかな笑い声が入ってきた。声のする方を見れば、同じ年位の女子三人が窓際の席で話している。楽しそうだなと思い、何気なく見た次の瞬間だった。

 彼の目は一人の姿を捕らえ、立ち竦んだ。

「ああ……やっと……見つけた」

 彼はそう呟いて、ゆっくりと彼女たちに近づいた。そしてあろうことか手を伸ばして、夢野冬華の長い黒髪に触れた。


「え?」

 冬華は突然の出来事に驚いて、怪訝な顔で男を見た。小柄で細身の彼は詰襟の学生服を着ている。薄茶の髪色、色白で中世的な顔立ちをしていた。昔の知り合いだろうかと記憶を手繰り寄せるが、全く知らない人だった。

「あ……の? 何か?」

 男は冬華を見つめ、髪に触れたまま呟いた。

「……シズカ……」 

「はい? 誰です?」

 冬華が目を瞬かせていると、ガタリと音がした。ともちゃんが勢いよく椅子から立ち上がったのだ。

「ちょっと。いきなり何をするんですか? 冬華行こう。ほら、早く」

ともちゃんは咄嗟に冬華の手を引いた。不審者を見るような目で彼を睨んでいる。

「絶対にヤバい人だよ。ここを出よう」

 ゆかりんが慌てて三人分のトレイを片付け、鞄を手にした。三人はそのまま駆け出して店を出た。

 

 彼はその場を動けず、ただ立ち尽くしていた。

「悪い。遅くなった。待ったか?」

 数分後、椎葉と同じ制服を着た男が、彼の肩を叩く。だが、彼は何かに囚われたように立ったまま、微動だにしない。

「おい、鷲。どうしたんだよ」

 細身の椎葉とは対照的に大柄な男は、不思議そうに彼の顔を覗き込む。

「彼女がいたんだ。やっと見つけた」

 椎葉はそう呟いて、微笑んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ