第1章
ここ、府立小笠原学園高校に通う僕、衛門勇輝は今日も学校という名の牢獄で無為に時間を費やしていた。4限の国語の授業。周りはまじめにペンを動かし続けている。
もともと高偏差値高校と言うこともあってか、勉強できる奴は腐るほどいるのだが、特定科目において(数学、世界史)は僕はちょっと目立つくらい点数を持っていた。
まぁ国語にいたっては下から何番目というところだが。
「衛門、消しゴムくれ。」
いきなりぶっきらぼうに命じてきたコイツは昭二炎将。
同じく部活をやってない組であり、席が近いこともあってそれなりに仲の良い、がたいの良い巨漢である。だが、唯一違うと言えば、こいつがわが町の実力組織、「FOX」に所属していると言う点ぐらいだろう。
21世紀も半ばに差し掛かった頃、各地では当時続いていた戦争に不満を持った民衆、もとい学生たちは
優劣を問わず、暴動をおこした。各地で、万引きなどの軽犯罪から殺人などの大犯罪にいたるまで数多く発生し、治安は最悪の状況となった。教師はおろか、警察ですら対処しきれなくなり犯罪件数は増加の一途をたどっていた。そんな状況を打破したのは、とある高校の学生であった。彼らは自己防衛・治安維持を名目に軽武装した武装部隊を学区内に投入。区内の治安は大きく回復した。この事例を皮切りに全国各地で様々な名前の武装組織が形成された。このうちのひとつがFOXである。武装組織は成果を挙げるにつれ、規模を拡大。だがそれは中央集権を謳う政府との対立を招いた。政府は武装組織に対して、武装解除、無条件降伏、そして服役を命じた。これに反発した各地の武装組織は地元の交番などを襲撃。一時は自衛隊まで出動したが事態を終結させたい政府は学生による自治、地域分権を認めた。だが、人口数百の自治体などは武装組織そのものも弱小だし、行政能力も低い。結果としてそれら小勢力を大勢力が吸収していき、今では全国に数十万あった自治組織も千単位にまで減った。
なんだかえらく説明的になってしまったが、要するにFOXはこの町の治安維持組織だ。僕達が日々安全な生活が出来るのもFOXのおかげと言うわけだ。
僕は昭二に消しゴムを渡す。
「ほらよ、FOXさんには感謝しねぇとな。」
昭二は不機嫌そうな顔をするがすぐにいつものことと割り切り、素顔に戻る。
「ありがとう。」
こいつのこういうさっぱりしたところは割りと好きなんだが,,。
授業はまだまだ続くし、退屈だから話を終わらせるのも嫌だな。
「お前、最近仕事どうなの?」
「別にどうといったこともないさ。ただ重松組に怪しい動きがあるのが気になるが。」
消しゴムで名前を消しながら、何でもなさそうに昭二は言った。
「怪しい動き?」
僕は聞き返した。普段平和に暮らしている分、こういう話題にありつけるのは珍しい。
ただ、重松組は知っている。僕達の区にいる、いわゆるゴロツキだ。昔はすごかったらしいがFOXの出現以来、あまり話は聞かなかったため、ほとんど意識になかった。
「西の牟岐区から大量のトラクターが組の本拠に入ってきている。」
「!?」
「暴動、ということはないだろうが、一応警戒しなくてはな。昨日も哨戒で夜勤してきたところだ。」
僕は自分の好奇心が久しぶりに高揚しているのを感じていた。そしてこう言っていた。
「僕も、任務に参加させてくれ。」
昭二はたいして考えもせず言った。
「やめておけ。死と常に隣り合わせだと言うことを理解しろ。」
「ならば勝手に参加させてもらうよ。」
それを聞くと昭二はノートを写しながら一言。
「勝手にしれ」
噛みやがった。
放課後。僕は愛車の春嵐(自転車)、親父の木刀それに携帯を持って組の本部に駆けた。
夜九時ということもあってか、ほとんど人通りはなかったもの、なおのこと5階建ての本部ビルはかなり不気味であった。朽ちたビルの中にはいくつかの明かりがあり、人影もいくつか見えた。僕はビルの前にある無人の民家から様子を伺うことにした。
午前二時。気がつくと携帯の液晶は夜中の2時をさしていた。しかし気がついたのは時間だけではない。
本部が、燃えていた。近くでは銃声や悲鳴が聞こえる。
荷物をもって民家をでると、そこには死臭と火薬の匂いが蔓延しておりとても立っていられない状態だった。とにかく昭二を探そう。それしかない。そう考えた僕は走って銃弾の中をかいくぐった。だが昭二は、みつからない。よく見ると僕の周りに倒れている死体はFOXが圧倒的におおかった。事態はあまりに良くない。これは素人目に見ても歴然とした事実だった。
ドゴォォン
爆音が僕のすぐ背後で炸裂した。
カナリヤバイ。
シヌノカ?
本能的に死を間近で感じた。
気づいたときには全力で、来た道を走っていた。無理だと思った。ただの犬死だと。
だが悲しいかな、逃避行は成せなかった。流れ弾が近くに当たり、大爆音を催して爆発。
僕は腰が抜け、動けなくなった。涙まで出てくる始末。
周りを見るとさっきまで居座っていた民家が消し飛んでいた。
死が、限りなく近い。
ドゴオオオン
また、爆音。それもさっきより大きい。
しかし爆発したのは僕ではなかった。
前面に展開していた組の人々だった。
ふと後ろを見ると、他でもない、FOXがいた。
「大丈夫ですか?」
その声で僕は目を覚ます。
そこは見慣れない部屋だった。だが死から開放されたことは理解できた。
「奇跡的に軽症ですんでよかったです。ほんと、よかった。」
窓からは日が差していて、疲れた僕の心を癒してくれた。
「2日も眠っておられましたから。ずいぶんと心配しましたよ。」
早く学校に行かなくては、、、
「あの、わたしの話きいてます?」
「ん?あぁ。どちらさん?」
「助けてもらってそれですか?まぁ私はいいですけど。。」
なんだか失礼をしてしまったようだった。
「私はFOX医務官中佐、小笠原学園高校3年の大村英香です。よろしく。君は確か、二年の衛門君だね。」
なんだか名前を知られていたみたいだ。
「何故名前を知ってるかって顔ね。ただ名札を見ただけ。他意はないわ。」
あっさりそういわれ、ほんの少しの期待もすぐに消えうせる。
第一仮に名前ぐらい知ってて普通じゃないか。同じ学校なわけだし、一学年しか違わないし、、ん?
「医務官中佐って、高校で医学過程を修了なさったんですか?」
僕は驚いてそうたずねた。それに中佐って、、よほどのエリートなんだろうか。
大村さんは少し困った顔をして、こういった。
「私の、お父さんが、、、」
あっ思い出した。
確かこの人のお父さんは、大村、大村玄武。この区有数の実力者ではないか。
区議会議員でもあり、各方面に多大な影響力をもっている郷士だったはずだ。
つまり高三で医務官というのは大村氏の社会的バックアップのおかげと言うわけか。
「あなたには関係ないでしょ。まったく、、。」
強気で言ったものの、どこか彼女は儚げで悲しそうであった。
かと思えばすぐにツンとした顔に戻る。
「それより元気があるなら早速命令があるわ。」
「はい?なんでしょうか?」
大村は少し、ためていった。
「昭二少将がお呼びよ。」
・・・・。
徐々に丸顔オデブの奴の全体像が浮かんでくる。
完全に忘れていた。
お読みいただきありがとうございます。
第二章は早ければ明日にも書きます。
ご感想などいただけたら幸いです。