令嬢は色々許せない、必死に考えた結果。
何が引っかかったのかわからないのですが・・・。
18歳未満に不適切と判断される性描写があると連絡があったため二言だけ変更しました。
結婚式が始まる。婚約してたった三ヶ月での婚姻。顔を合わせて、二度お茶をしただけの相手。
噂では夫となる人には特別な人がいて、身も心もその人に捧げているとのことだった。
夫となるシューター様が待つ場所へと叔父に誘われてシュータ様の隣へと並び立った。
式は順調に進んでき、結婚宣誓書のシューター・ビリーラインがサインし、今日最後になるアイビー・ロスコルタとサインした。
宣誓書が神父の手からシスターに渡って行くのをわたくしはとても嫌な気分で眺めていた。
頬にキスされ、結婚式を終え、披露宴を引きつった笑顔で乗り切った。
わたくしが頑張れたのは、子供の頃からずっと側にいてくれたジョナが私を見ては笑顔を浮かべて頷いてくれてくれたからだった。
ビリーライン家へ初めて連れてこられて、使用人たちから歓迎の意を告げられる。
明日になっても変わらずにわたくしを敬ってくれる人は何人いるのだろうかと思った。
初夜の準備が着々と進んで、わたくしは夫婦の寝室へとメイドに案内されて、そこで長く待たされた。
そこに夫のシューター様がやっと現れたと思ったら、女性を伴っていて、その女の人とベッドインを始めた。
その人と口づけをしながら、膨らみに触れながら、彼は仰臥して女性を上に乗せた。
その女性は人前ですることを嫌がっているように見せていたけれど、とても嬉しそうに腰を揺すっていた。
わたくしは一歩一歩後ろに下がって、主寝室の隣りにあるわたくしの部屋への扉にぶつかって下がれなくなってドンと音を立てた。
シューター様と女の人はこちらを向いて「まだ居たのか?」と言って「私がお前を抱くことはない。父から言われて仕方なく結婚はしたが、私はこのクルアンを愛しているからな。子供が必要なら、ベッドの横で寝て足を広げて待っていろ。処女で妊娠できるぞ」
「いくらなんでもそれは酷すぎるわよ」
わたくしの顔を見て勝ち誇ったような顔をして私を見ていた。
わたくしはその言葉を聞いて、私室へと逃げ帰った。
私室に居てもシューターと女の人の楽しむ声が聞こえ、わたくしは耳をふさいで、ベッドに潜り込んで小さくなって眠った。
ベッドの乱れ具合で私とシューター様が枕を共にしたと勘違いされていると理解したけれど、その次の日もまたその次の日も女の人、クルアン様を夫婦の寝室へと連れてきて、楽しんでいた。
わたくしは夫婦の主寝室の隣の部屋には居られなくて、一階の客室へと部屋を移してもらった。
するとシューター様はクルアン様を私の部屋へと入れ、シューター様とクルアン様が夫婦のように暮らし始めた。
クルアン様は平民の暴虐無人さで私を嫐ろうとしたけれど、馬鹿らしくてわたくしはそれに付き合わなかった。
シューター様を愛しているわけでもないし、わたくしに手を出されなかったらどうでもいいと思っていた。
使用人たちは最初戸惑っていたけれど、わたくしのことはお客様のように扱い、シューター様の意を汲んでクルアン様のことを女主人として扱った。
けれどクルアン様には女主人としての仕事ができるはずもなく、執事は私に女主人の仕事をすることを求めてきた。
「お客さんとして使用人に扱われているわたくしに、女主人の仕事をさせていいんですか?」
「若旦那様に許可はいただいております」
「わたくしは嫌だわ。単なるお客様なんですもの。わたくしは自分の予算分を好き勝手に使うだけのお客さんとして扱ってちょうだい」
「若旦那様にはこのお屋敷を回していくだけの才覚はありません。お願い致します。若奥様」
「わたくしは若奥様ではないわ。クルアン様がこのお屋敷の若奥様でしょう?わたくし旦那様から一度も寵愛をいただいておりませんし、わたくしがこの家のことを取り仕切るのは間違いだと思いますよ」
「若旦那様が本当に申し訳ありません。お願い致します。若奥様」
「そうね・・・わたくしのことは若奥様と呼ばないでちょうだい。それを使用人に徹底させて。私は執事のあなたに頼まれたから仕方なくこのお屋敷の差配をすることになったと言うことも忘れないでちょうだいね。わたくしはちゃんと断りましたからね」
「解りました。よろしくお願いしたします」
女主人の部屋を任され、シューター様はクルアン様と遊び呆けているために、シューター様が差配すべき仕事まで私のところへと回ってきた。
わたくしがした一番最初の女主人としてした仕事は一枚の書類をビリビリに破いて箱に収めて飾ることだった。
シューター様の父親は、一人息子が平民の女を囲っていて結婚しないと言っていることに困り果てていた。
そんな時、わたくしの父とシューターの父が賭け事をした。
父が勝ったら掛け金の受け取りを、負けたら四番目の娘の私をシューター様の妻へとすることだった。
賭け事は何度も何度も繰り返され、掛け金全てを失った父は私を嫁に出すことにサインをして、掛け金を全額返してもらった。
わたくし以外誰も損せず丸く収まったと父はほくほく顔だった。
「わたくしの気持ちや、立場はどうなるのですか?!」
「伯爵家の四番目の娘が侯爵家へ嫁に行けるんだ。ありがたいことじゃないか」
「既に愛人を囲っている人と一緒になって、わたくしが幸せになれるとでも思っているのですか?」
「それは、・・・それなりに幸せになれるさ。時は人を変える。すぐにはどうにもならなくても、時間が解決することもあるさ」
「解りました。お父様は私のことなどどうでもいいのですね・・・。私は金貨五十枚でビリーライン家へと売られたのですね」
「ち、違う!!そんなつもりなどない!!本当だよ」
わたくしは父の言い訳など聞いていられなくて、わたくしはその後、父とも母とも口を利きませんでした。
両親達の贖罪でしょうか?これ以上お金をかけた結婚式はめったにないと言われるほどの結婚式を挙げましたが、わたくしが新郎のところにまで連れて行く役目は叔父様に頼みました。
父はまた色々言っていましたが、わたくしは父の手を絶対に取りませんでした。
両親に最後の言葉として言い渡したのは叔父の肘に手を掛けて「金貨五十枚で売り渡した、どうでもいい子の結婚式です。さぞや嬉しいでしょうね」と言うと、両親はオロオロとして、叔父は私の手をポンポンと叩きました。
叔父の優しさに、涙が流れそうになりましたが、必死で堪えました。
わたくしはまず初めにシューター様の年間の費用を半減させました。
侯爵家と言っても、特に余裕のある家ではありませんでした。
経営ベタとでも言うのでしょうか、赤字は出していないけど、侯爵家の人達が使うお金で赤字が出ると言う感じでした。
初めは物凄く文句を言われましたが、執事がわたくしの味方をしたことでシューター様が折れました。
当然クルアン様の予算など始めから設定していません。
クルアン様は私の執務室へと乗り込んできましたが「文句があるならあなたが女主人の仕事ができるようになればいいでしょう」と追い出しました。
クルアン様のお支度はシューター様の予算から出していただくことに決まっています。
今までのようにはドレスを作ってもらったり、宝石を買ってもらったりは出来ないでしょう。
クルアン様の予算はわたくしの予算より多く設定されていて驚いてしまいました。
わたくしは頂いた予算で珍しい絵画や、宝石などの現金化しやすいものを銀行の私名義の金庫へと預けました。
ドレスなどは持ってきたものだけで十分です。
両親には事あるごとに手紙を書いています。
わたくしがこの家でどんな扱いを受けているのかを。
返信が届きますが、読まずに全て送り返しています。
叔父様が心配して時々顔を見に来てくれます。
叔父とは現状を話して、不幸自慢をしておきます。
叔父から両親たちに話が流れることは解っているから。
夜会の招待状がシューター夫婦へと届きます。
「夫婦の役目なのだからお前が出席しなければならない」
そうシューター様に言われましたが「お断りいたします」と言って一度も出席したことがありません。
「お前が出席しないと私が色々言われるんだぞ!!」
「言われるだけのことをしているのですから、甘んじて受けるしかないのではないですか?わたくしはあなたの妻では有りませんものクルアン様と行かれたらよろしいではありませんか」
「クルアンを連れていけないことは解っているだろう!!」
「それならせめて、連れて歩ける方を選ぶべきだったのではないですか?とにかく妻でもない私がご一緒するわけにはまいりません」
シューター様はしつこく夜会に参加しろと言っていましたが「私には参加するドレスが有りませんもの」と言って、わたくしのクローゼットを見せてあげました。
本当に夜会に出席するドレスが一枚もなくて、今すぐ仕立てろと言われましたが「そんな予算がどこにあるのですか?もう少し本気でお仕事をなさったほうがいいのではありませんか?」と言い返しておいた。
その日の夜会も旦那様は一人で出席されて色々言われて帰ってこられたそうです。
夜会の次の日はシューター様の機嫌が悪くて誰も近寄りません。
当然わたくしもです。と言いたいところですが普段から近寄りませんので、わたくしの知ったことではありません。
シューター様がドレスを仕立てるためにドレスショップの人達が呼ばれましたが、クルアン様をお呼びするように伝えてそれで終わりです。
わたくしを睥睨した目で見て「フンッ」と鼻を鳴らして初めての採寸を楽しんだそうです。
クルアン様は大喜びしてどんなドレスにしようかしらと悩みながら注文されていました。
シューター様はその日はクルアン様にとても愛されて幸せな時間を送られたそうです。
ですがシューター様はわたくしにドレスを作るようにドレスショップを呼んだのにと文句を言われてしまいました。
だからクルアン様に譲ったのではないですか。愚かなこと。
最近ではわたくしが女主人になったために、使用人たちはわたくしをお客様から女主人として敬っています。
わたくしの機嫌を損ねたら仕事を辞めさせられてしまいますからね。別に辞めさせたりはしませんが。
クルアン様が妊娠されてしまいました。平民との子供です。
おめでたいことです。
執事が義父母に連絡した所、クルアン様が連れて行かれ、シューター様もご一緒についていかれました。
その間にたまってしまった仕事をするは誰だと思っているのでしょうか?
わたくしがした仕事の分だけ自分の予算に上乗せして、執事にも確認を取ります。
執事から了承が出たので、増えた予算分は現金で銀行に預けました。
二ヶ月ほどでクルアン様のお腹の膨らみもなく帰ってこられました。
二度と子供が出来ないように子宮を全摘されたとのことです。
クルアン様は子供を失ったこと、二度と子供ができなくなったことで、気鬱でシューター様を困らせているそうです。
シューター様がクルアン様に嫌気がさしてきて、わたくしを嫌な目で見るようになってきました。
わたくしはクルアン様に「今のままの態度ではこの家から放り出されてしまいますね」と言ってあげました。
その日は久しぶりに二人で盛り上がったようでした。
ですが、シューター様の私への興味は薄れないようで、私の部屋に忍び込まれないように扉に鍵を新たに三箇所付けてもらうことにしました。
今年も私の予算が出ました。
その予算を決めているのはわたくしなので、かなり遠慮した金額になっています。
わたくしは今年は金の値段が下がっているので、予算の全額を使って金を買いました。
両親には今も変わらず、どんな目にあっているかの手紙を出しています。
両親達はさぞ、楽しくわたくしの手紙を読んでいることでしょう。
最近は身の危険を伴うようになってきたとも書き認めています。
クルアン様に階段から突き落とされかけたことも書きました。
両親からしたら、わたくしが生きていようが死んでいようがどうでもいいことでしょう。
手紙の返事も未だやってきますが、読まずに全て返送しています。
二度ほど父がやってきましたが、わたくしは会わずにシューター様とクルアン様がお相手をしていました。
シューター様が殴られていたらしいので、明日顔を見るのが楽しみです。
時折そのやり取りが聞こえて笑えてしまいました。
義父母はわたくしがどんな目にあっているかは知っていらっしゃいます。
こうなることを解っていて、わたくしを金貨五十枚で買い取ったのですから。
ただ「なんとか妊娠しろ」と言われるのには反吐が出そうな気分になります。
しかしわたくしもそろそろ子供が欲しくなってきました。
旦那様に一服盛って私と寝たつもりになっていただいて、他所で子供を作って来なければならないかなと思っています。
わたくしが愛しているのはいまも昔も幼馴染のプルータス様だけです。プルータス様も侯爵家嫡男なんですよ。
父が私を金貨五十枚で売らなければ、プルータス様と結婚していたことでしょう。
私達は本当に想い合っていました。いえ、今でも想っています。
私が金貨五十枚で売られさえしなければ、彼の元へと嫁げたことでしょう。
それはとても幸せな結婚式だったと思います。
プルータス様は今も私を思って、誰とも結婚せずに私を待っていてくださいます。
私はプルータス様にお願いして書類に二人でサインして、その書類はプルータス様に預けました。
妊娠しやすい時期を狙って抱いてもらいました。
とても幸せな時間でした。
愛する人に抱かれるというのはこんなにも幸せなことなのだと知りました。
妊娠の兆候が現れるまで何度も愛し合いました。
数ヶ月後、月のものが遅れたので旦那様とクルアン様に幻覚剤と睡眠薬を一服盛って、シューターに「止めて、嫌」と私の声を何度も聞かせて、クルアン様を抱いている所にわたくしの顔を見せました。
事が済むとクルアン様には私室へと行ってもらい、シューターの横に裸になって寝転がりました。
翌朝シューターが目が覚めて、またわたくしに手を出そうとしたので、私はシューターを叩いて、自室へと逃げ込みました。
シーツ一枚だけを身に纏ったその時の姿を、メイドや執事に見せるように頑張りました。
シューター様とクルアン様はその日、大喧嘩をしていました。それは長く続いて、シューター様がわたくしを見ただけで、シューター様とわたくしの両方へ嫌がらせをしてきました。
わたくしの悪阻は軽かったようで、誰にも妊娠に気づかれませんでした。
お腹が膨らんでいき、メイドや執事が気づくようになりました。
「アイビー様・・・ご懐妊では・・・」
執事は言いにくそうに聞いてきます。
「そんな事ありえないわっ!!」と認めたくないという風を装って否定し続けました。
この子は本当に賢い子で、私のお腹の中に普通より長くいてくれました。
シューター様との日から数えたら、ほんの少し産まれるのが早いかな?と言うくらいまでお腹にいてくれました。
生まれる前から本当に親孝行な子供です。
わたくしによく似た子供が生まれました。
プルータスに似ていても良かったのにと思いながら、子供を愛おしみました。
プルータス様とシューター様は髪の色も瞳の色もよく似ているのです。
だからプルータスの色をまとった子供が欲しかったのですが、本当に残念です。
わたくしは事あるごとに「この子はシューター様の子ではありません。わたくしの子です」と言い続けました。
「ほら、この子を見て!シューター様にはどこにも似ていないでしょう?」と。
執事や使用人はわたくしを痛ましいものを見る目で見て、わたくしの言うことを上辺で信じたふりをして、シューター様の子供ではなく、わたくしの子供と認めて面倒を見てくれました。
ジョナに子供を預けて出生証明書をプルータス様と一緒に届け出に行きました。
心が温かくなりました。
シューター様が近寄ったり、クルアン様が近寄ろうとしたら「殺される!!」と叫び声を上げ続けました。
シューター様は意外と、子煩悩だったようで子供を可愛がりたいとわたくしにも言いに来ましたが「そう言って私の子供を殺しに来たのね」と暴れて拒否しました。
白の結婚で離婚できる三年がやってきました。
「今夜は話したいことがあるので晩餐をご一緒したいと伝えてもらえるかしら?」
執事に頼むと、滞りなく準備されました。
晩餐の席で「わたくし、そろそろ出ていこうと思います」
和やかな晩餐でシューター様が怒鳴り始め、執事も驚いて「アイビー様が居られないとこの家はたちいきません」と引き止めたけれど「私、金貨五十枚分の仕事はしたでしょう?これ以上はこの家に尽くす理由が見つけられません」
「子供もいるのに出ていってどうすると言うんだっ!!」
とシューター様が言うので「エルリアは私が愛した人との子供ですから、この家もシューター様も関係ありません。シューター様の子供だと勝手に誤解されただけでしょう?わたくしはエルリアは、シューター様の子供ではないと言いましたでしょう?」
「何を言っているんだ?」
「そもそも、わたくしとシューター様は結婚しておりません。結婚式での誓約書はその場で回収しております」
結婚披露宴の時にジョナが微笑んでいたときのことを思い出します。
シューター様は口を開けて私が言ったことを理解しようと頭を必死で働かせているのでしょう。
「結婚式の後、わたくしを尊重してそれなりに扱ってくださるようなら、婚姻届を改めてお出ししますと言って神父様から婚姻誓約書を返していただいておりました」
散り散りに破いた婚姻誓約書が入った箱を執事へと渡します。
シューター様はそれを見て唖然としています。
「じゃぁ、本当にエルリアは私の子ではないのか?」
「当然です。結婚もしていない方とそんな関係になったりいたしません」
「ですが私達はアイビー様がシーツ一枚で・・・」
「走った姿を見ただけでしょう?それなりの年齢の間に子供を生んでおきたかったので、ちょっと小細工させていただきました」
私はじっとシューター様の顔を見つめます。
「シューター様、本当に私と性交渉を持った記憶がございますか?」
「えっ、いや、だって・・・」
「記憶が混濁しているんですよね。申し訳ありません。クルアン様とお楽しみの所に私が顔を出しただけですのよ」
「わたくし、この家では若奥様と呼ばないでと言いましたでしょう?エルリアもこの家の子ではないと何度も言いました。それにわたくし達の婚姻受理書を受け取っていないでしょう?」
シューターも執事も使用人たちも呆然としています。
「わたくし、エルリアができる前に他所の方と結婚していますの。これが婚姻受理書ですわ」
シューター様の目の前に持っていき、取られないように見せるだけです。
「金貨五十枚で買われたので、わたくしはそれに見合うだけの仕事はいたしました。なので、奉公明けですわね」
この場にいなかった使用人が「アイビー様にお客様です」
「ああ、わたくしの主人が迎えに来たようです。では、これにて失礼いたしますね」
プルータス様が迎えに来てくれて、エルリアを片腕に抱いて、もう片方の腕で私の腰を抱いてくれます。
馬車に乗り込んでいる乳母にエルリアを渡して、私とプルータス様も乗り込み、わたくしの荷物を持ったジョナが後続の馬車に乗り込みました。
わたくしはプルータス様の屋敷へと行くことになります。
プルータス様に「早く二人目の子が欲しいわ」と言うと「やっと一緒に住めるようになったんだ。少し私に君を堪能させておくれ」
見つめ合って口づけを交わします。
乳母が空咳をして程々にしてくださいませという目で見るので、わたくし達はプルータス様の屋敷につくまで笑っていた。
プルータス様に夜会の招待状がきたので、わたくし達は夫婦で出席をした。
貴族の中ではわたくしのしたことが話題になっていて、若い女の子達に「本当に欲しいものはどうやってでも手に入れていいんですか?」と聞かれた。
「どうにもならないこともあると思うの。わたくしは親に金貨五十枚で売られたから、それだけの働きをして、奉公明けしただけだわ。あなたが幸せになれるように祈っているわ。だから頭を使いなさい。一つでも間違ったら、あなたは牢に入ることになってしまうかもしれないわ」
「でも、アイビー様のお父様が結婚するという契約書を交わしているのでしょう?」
「契約書を交わしたのはお父様であって、わたくしではないもの。父は契約違反で金貨五十枚を取られたのかしら?それは知らないの。子供を売り飛ばすような人のことを親だと思えなくて・・・」
「そうなんですね」
「ええ。それにビリーライン家では本当に酷い目に遭いましたのよ。初夜の夜に愛人の方と交わっている姿をわたくしに見せて、子種が欲しければ横になって足を広げて待っていろと言われたのよ。私にとって本当に屈辱の三年間でした」
貴族たちは面白おかしく話に尾ひれを付けて噂した。
ビリーライン家と両親達は社交界で見かけることがなくなってしまいました。
わたくしは実の兄弟姉妹とも付き合いはないけれど、わたくしにはプルータス様とエルリア、それにお腹にいる子がいるもの。
今はとても幸せだわ。