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復讐の一手目③

 レベッカが店から出ると、すぐに例の茶色い鳥が姿を現し、生まれた時から聞き慣れた声が脳内に響き渡る。


『どうだった!?ライラと接触できた!?』


 まるでもう一人の自分に話しかけられているようで気味が悪い。静かにして!と言いたかったけれど、ただでさえ目立つ外見をしているのに独り言を発するのはまずい。


 奇行が目立つイケメンだなんて、そんなのはただのテイルズである。


 レベッカは頭に響くうるさい声を無視して路地裏に入り、目の前に降りてきた鳥を片手で握るように捕まえ顔を近づけた。


「ちょっとは静かにしててくれない?」


『近っ!いや、だって鳥は店の中まで入れないし気になるじゃないか』


「じゃあ鳥じゃなくて虫なりなんなり目立ち難いの作りなさいよ」


 レベッカがそう言うと、テイルズは今以上の小型化がどれほど難しいかを力説していたが、レベッカはそれを完全に無視してこの後どうするかに付いて考えた。


(ハンカチには気付いてるはずよ。すぐに追いかけてくるパターンではなかった。後日連絡がくるパターンなら問題はない。完全に無視のパターンならまた作戦が必要になるとして―――とりあえず今日は一旦待機ね)


「ねぇ、テイルズ。私をこっちに送れたならそっちに帰ることもできるのよね?」


 テイルズはずっと何か喋っていたが、レベッカから問いかけられると素直に答えた。


『ああ、当たり前だろ。鳥の(くちばし)の中に指を入れてごらん』


 やや投げやりだが、技術に関して嘘をつく人ではない。


 レベッカは、片手で握れる程度の小鳥の(くちばし)にどうやって指を入れるのだと疑問に思いつつ、小指でつつくと、小鳥の(くちばし)が思いの外パカッと開き、底の見えない真っ暗な空間が見えたと思ったら瞬時に吸い込まれた。




「痛たっ!」


 水鏡から放り出されるように出現し、着地に失敗したレベッカは尻餅をついたと同時にお尻の痛みが消えた。


そして、目の前には尻餅を付いたテイルズの身体が痛そうに腰をさすっているのを見てレベッカは慌てて自分の身体を確認する。


 一回り小さくなった手のひら、下を向くと先ほどまで無かった胸の膨らみが確認できる。どうやら元の身体に戻ったらしいが、突然の視点の切り替わりに少し頭がくらくらする。


「痛たた……なんでいつも痛い思いするのは僕の方なのかなぁ……」


 腰をさすりながら立ち上がるテイルズは不服そうだ。


「ねぇ、身体が元に戻ってるけど、この入れ替わりって自然に戻るわけ?」


 レベッカが目元を押さえ、不安気にテイルズに尋ねると、テイルズもこの現象は想定外だったのか、頭をポリポリと掻きながら「んー」と声を漏らした。


「空間移動っていう高魔力を二度も浴びたらダメだったみたいだな」


「だったみたいって、本当に大丈夫!?突然他の人の目の前で戻ったらどうするの!?」


「逆に空間移動は二度までって分かったんだから大丈夫だよ!」


「仲間と思っていた貴方に後ろから刺されるような展開だけはごめんだわ」


「もう既に親友と思ってた人に刺されてるようなもんだもんね」


「……」


 レベッカはジトっとした視線をテイルズに向けるが、テイルズは気付いてないフリをして話題を変えた。


「そんなことより、ライラ・エヴァンズの件はどうだった?上手くいきそう?」


 レベッカは目眩が少し癒えてきて、改めて自分の格好を見ると、オーバーサイズの白シャツを一枚だけ着ている状態である事に気がついた。


 おそらく、コルセットのついたドレスが窮屈になったテイルズが楽な格好に着替えたのだろう。


 レベッカは好きにしたらいいと言った手前、それを咎められず、本当の意味でもういいわと諦めがついた。


「とりあえず待機ね。テイルズ宛の荷物とか手紙が来たら教えて頂戴。あと、大事な話を忘れていたんだけれど―――」


 そう言ってレベッカは真剣な表情をする。


「私の復讐が終わるまで、私をここに置いて欲しいの」


 王太子妃になれない今、実家に帰る事も、王家にしがみつく事もできないレベッカにとって、断られたら復讐どころではなくなる。


「僕はいいけど……レベッカは良いの?」


 そう言ってテイルズはレベッカに近づいていたずらっぽい笑顔を向けた。


 元婚約者のベルベルト以外の男性と話すのはもともと得意では無い。


 中身はテイルズではあるが、ずっと自身の身体と会話をしてきたレベッカにとって、目の前に迫るテイルズはどこか艶めかしく映った。


「そんな格好されてたら僕、襲わない自信はないんだけど」


 不敵に笑う顔が本気なのか冗談なのか、経験の乏しいレベッカには判断がつかなかった。

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