復讐の一手目①
高いヒールで歩き難そうなテイルズに連れられてレベッカは螺旋階段を登り、塔の二階に上がった。
テイルズは住居空間のようになっている部屋のクローゼットを漁り、ジャケットとズボンのセットをレベッカに差し出した。
レベッカが「これしかないの?」と聞くと、テイルズは文句を言わず着替えろと言わんばかりに隣の部屋に向かってレベッカの背中を押した。
レベッカは大人しく隣の部屋で着替えて戻ると、テイルズは鏡の前に立っておりレベッカもその隣に立った。
何とでもない普通のブラウンの上下スーツだと思ったが、モデルが良いと何でも似合うらしい。
無意識に内股になっていたので、男らしく見えるように足を開き、胸を張ってネクタイを直す仕草をしてみた。
「振る舞いには気をつけないといけないわね」
「それにしてもさぁ、こうやって並ぶと僕たち結構お似合いじゃない?」
テイルズはくるりと回ってみたり、髪の毛をかき上げてみたり、上目遣いで鏡を見つめてみたりと、すでに可愛く見える仕草をマスターしたらしい。
心なしか、レベッカか元の身体にいた時よりも表情に丸みが出ているようだ。
レベッカはお似合いだと言うテイルズの発言に対していると、一階から〝ピロロロロロ〟とアラームのような音が聞こえた。
「追跡バードが対象人物を見つけたらしい!」
テイルズは煩わしくなったのか靴を脱ぎ捨て、裸足でウキウキと階段を降りて行き、レベッカもその後を追った。
テイルズとレベッカが水鏡を覗き込むとライラの姿が映っていた。
ライラは街で買い物をしているようだ。
「街並みから察するに、ここはスクーナー通りね。確か彼女が投資している宝石店があったはずよ。向かうとしたらおそらくそこね」
(王太子妃教育の一環として全貴族の名前と事業を暗記していたのがこんなところで役立つなんてね)
「どうするレベッカ、もう準備はいいか?」
テイルズの問いかけがレベッカには理解ができず聞き返した。
「準備はいいかってどういうこと?」
レベッカは追跡バードで対象者の行動パターンの目星をつけ、待ち伏せをするという算段でいたので準備もなにも無い状態だ。
「プレイボーイになる準備は出来たかってこと!」
よく見ると、テイルズの手には何やら怪しい道具と試薬が握られている。
「必要な報酬兼経費はテイルズ・ジル・ウィラードでつけてもらったらいいから!」
テイルズはそう言うと、ニッコリと笑ってキラキラと光る粉と謎の液体をレベッカに吹きつけ、レベッカの手を水鏡の中に入れた。
水鏡の中は底無しのように深く、入れるはずがない大きさの水瓶の中にレベッカは吸い込まれて行ってしまった。