婚約破棄と魔塔の男⑥
「じゃあ、情報の詳細は別の子たちに集めてもらおう」
そう言うと、テイルズはまた箱から何かを取り出してきた。
「じゃーん。追跡バードォ〜。映像と音声とリアルタイムおよび、録画も可能な逸品で、こちらの水鏡と連動していまーす!」
テイルズの手に乗っているのは国内でよく見る茶色い鳥だ。
近くで見ても本物の鳥にしか見えず、レベッカは感嘆の声を上げた。
「凄いわねテイルズ、それだけの物を作っていながら何故こんな寂れた塔でコソコソ研究しているわけ?」
レベッカが素直な疑問をぶつけると、テイルズはとぼけるような表情をしたが、その手は通用しないと悟ったのかしどろもどろ言葉を紡いだ。
「えぇと……今回の入れ替わりの薬は完全に趣味だし……水瓶の鏡は使うたびに僕を呼び出されたら嫌だし……この鳥は王家へ提出すると僕が自由に使えないからね。でも言われた研究はちゃんとやってるから別に逐一報告しなくても問題ないかなぁ〜って――――」
「なるほどね」
レベッカはだんだんとテイルズという人間が分かってきた。
興味のない事には見向きもしないタイプだろう。
ある日突然、飽きたと言われてもおかしくはない。
早めに行動する事に越したことはないと、作戦を練るためにもう一度水鏡を覗き込んだ。
「まずはライラ・エヴァンズ侯爵令嬢からね。彼女はかなりお金持ちだから高価なプレゼントとかを望むタイプではないわ。寧ろ貢ぐタイプね。活動資金を捻出する為にもまずは彼女を攻略するのが良いと思うわ」
「じゃあ、とりあえず彼女にこの追跡バードを向かわせるね」
テイルズはそう言って窓から鳥を放った。
「じゃあ次は、服を着替えたいのだけれど、さすがにこんな魔法使いですって服装で行くわけにもいかないわ。そもそも魔法使えないし」
「服か!いいね、僕も欲しい!黒髪に似合うのはやはり紫か?青も捨てがたいな!」
テイルズの発言を聞いてレベッカは呆れたように問いかけた。
「ちょっとまって、まさか一人で着替えようとしてないわよね?」
「?じゃあどうやって着替えるんだよ」
「着替えるってことは服を脱ぐってことよ!?それってつまりどう言う意味かわかるわよね!?」
レベッカが切迫した表情で詰め寄ると、さすがのテイルズも肩をすくめて反論した。
「じゃあどうしろっていうんだよ?お互い目隠しして着替えさせるのか?トイレは?風呂もどうするんだよ?逐一元に戻る気か?言っておくけど、入れ替わるたびにキスする事になるんだからな」
「さっきも思ったんだけど、細胞を摂取するってことはキスじゃなくてもよくない?」
「そう気軽に言うけど、例えば、僕の髪の毛だと思って飲んだのが今にも死にそうな老人の髪だったらどうする?逆の場合も然り。そういうつもりじゃなくても一度身を離れた物は信用出来ない」
「―――ッ!」
レベッカは言い返そうとしたが、すぐに相手を納得させられるような言葉は出てこず、テイルズは畳み掛けるように続けた。
「レベッカはその程度の覚悟で復讐を決意したの?ここにきた時の君は腹を括った顔をしていたけど、どうする?もう元に戻るか?僕の目的はもう達成されたみたいなものだからどちらでも良いけどね」
挑発するようなその言葉を聞きながらレベッカは唇を噛み締めた。
(そうよ、いつまで高貴な女を気取ってるのよ。奴隷のようになるはずだった私に差し伸べられた手じゃない)
「貴方の言うとおりだわテイルズ、ごめんなさい。申し訳ないけれど、まだしばらく貴方の身体を貸してもらうわ。その身体は好きにしてちょうだい。その代わり、私も好きなことさせてもらうから」
テイルズはその言葉を聞くと、ニヤリと口角を上げた。
「じゃあ僕に着いておいで」